第198話 配信NGのお誘い配信
「コ・ラホ領の娘との会談……?」
「えぇ、その通りです、ニャア」
ピエームの定期健診を終えて、ベータちゃんのパンケーキを味わっていると、スコティッシュさんがやって来た。どうやら今日はいつもの仕入れではなく、別の人物の紹介のためという、いわゆる使いっ走りみたいな用件でこちらにやって来たんだそうだ。
その人物というのが、サクラア・コ・ラホ。コ・ラホ領の娘の、14歳だそうだ。
「いつものように、配信で顔合わせという訳にはいかないの?」
「それが、彼女曰く顔出しNGだそうです、ニャア。配信で顔がバレると、プライバシーが守られないとかなんとかで」
この異世界で、プライバシーだとかを考えている人がいるだなんて……。
あの神様を崇める教会ですら、最終的にはネットを使っての配信に賛同したというのに。なんなら、神様の1人が有名配信者として活動しているような世界だというのに。
「それで、そのサクラアさんってのは、どういう人なの?」
「コ・ラホ領というお得意さんの娘さんです、ニャア。病弱だからか、あまり外に出るようなタイプではないですが、頭が良い事は確かです、ニャア」
聞くところによると、サクラアさんと初めて顔を合わせたのは、今から半年ほど前。父親であるツブア・コ・ラホ領主から、デビュタントのために力を貸して欲しいと言われたからだそうだ。
デビュタントというのは、いわゆる社交界デビューの事だ。初めて正式に社交界デビューする女性、またはそれを祝うパーティーの事を、デビュタントという。
一般的に、貴族の女性というのは、このデビュタントというパーティーで社交界の仲間入りを果たすんだそうだ。このパーティーを経て初めて、一人前の大人のレディと認められ、恋愛結婚の対象になったことを意味する。
このデビュタントのパーティーというのが非常に重要で、このパーティーで招待客をどれだけ呼べるか、そしてどれだけ凄まじいパーティーを出来たかによって、今後の結婚活動に大きな支障が出る。
だからこそ、多少家が傾くほどであっても、大金をこのデビュタントという場に投じる貴族の家が数多くあるのだとか。
「それなりに金額を投じられている重大案件である以上、私どもドラスト商会としましても、大プロジェクトとして動いています、ニャア。会場の確保、食材と調理人の手配、さらには招待客への手配と根回しなど、1年以上の時間をかけた大プロジェクトなのです、ニャア!」
「その主役が、私に会いたいと」
「えぇ。打合せの際に、配信の話になりまして、ニャア。武器とヒトの両方の性質を兼ね備えた特殊な人間であるピエームさん、とやらに興味を示し、それを再現してみた、との事です、ニャア」
それの再現、か……。スコティッシュさんには悪いが、胡散臭いという他あるまい。
武器とヒトの両方の性質を再現するというのが、そう簡単に出来るとは思えない。スコティッシュさんもその現物を見てないというのが、さらに怪しさを掻き立てている。
「そもそも、そのサクラアさんってのは、どうしてそんなことが出来るの? 錬金術師?」
「いえ、錬金術を学んだという事は聞いてないです、ニャア。確か、魔法学校に行っていた経験があるとかないとか」
余計に、作れそうな気がしないのだが……。
----でもまぁ、気分転換に一度行くくらいは良いかもしれない。
スコティッシュさんの話曰く、サクラアさんは冗談を言うタイプではなく、どちらかと言えば話す言葉を考えてから話すタイプらしい。思慮深いというか、そういう類の。
だとしたら、一回行っておいて、損はないだろう。
「あと、出来たらゴーレムを1体、連れて来て欲しいそうです、ニャア。映像に出てないゴーレムで」
「映像に出てないゴーレム? やけに具体的な指示ですね」
「映像に出ているのだと、緊張するからだそうです、ニャア」
なるほど。それが相手の要望だとすれば、受け入れるしかないか。
映像に出ていないゴーレムだとすると、ベータちゃん、ガンマちゃん、デルタちゃんといった配信の常連組は連れていけないね。
イプシロンちゃんはまだ配信には出していないが、養殖担当以前に、彼女が貴族の娘さんに粗相をするのではないかと心配すぎるため、これまた断念。
「あと残っているのは、アレイスターとカゲミツくらいか」
「カゲミツ……? その名前は、初めて聞きます、ニャアね」
「私が作った、刀を心臓代わりにしたゴーレムですよ」
サビキとトカリの2人が、【刀剣拳法】をちゃんとマスターできているかを把握するために作ったゴーレム、それがカゲミツくんである。
確か今は、特に仕事を与えておらず、デルタちゃんの狩りの手伝いをしていたり、あるいはイプシロンちゃんの護衛などをやっていて、特にこれといった決められた仕事を頼んでいなかったりする。つまりは、フリーだ。
「よしっ、カゲミツくんと行きますよ」
「ありがとうございます! それでは、向こう側との調整もありますので、7日後くらいにお迎えに上がります、ニャア!」
こうして、私はサクラアさんという、領主の娘さんに会う事になったのであった。




