第196話 動かないピエームについて配信(1)
イプシロンちゃんの手によって突如として開催された『ススリアの弟子の中で一番強いのは誰か』選手権。
あれから、半月が過ぎた。
季節は、夏真っ盛り。
選手権の優勝は、『成長し続ける姫騎士』こと、フランシア姫。見事、選手権を勝ち上がった彼女は、『ススリアの弟子』最強という、良く分からない称号と、各ゴーレム達の商品を手にした。
商品を手にした彼女は、早速その商品を使った。
まず、ベータちゃんの優勝賞品である【チーズケーキ】、それと【フルーツタルト】。そしてイプシロンちゃんの優勝賞品であるサンダーサモーン9匹を大勢で食べる魚料理として調理して貰って、選手権に参加した全員と、豪華な祝勝会を開いたのだった。
そこで誤算だったのは、サンダーサモーンが、実は発泡酒との相性が非常に良かった事である。辛党、つまりは非常に大酒のみの人達がこぞっておつまみ感覚で食べていた。
その事に喜んだのは、イプシロンちゃん。
そもそもサンダーサモーンの試食会で私があまり美味しくないと言ったことが発端であり、サンダーサモーンの販路が見えた事に喜んでいた。
……頑張って貰えるのは十分嬉しいが、私は釘を刺しておいた。
今後、試食会で美味しくないと評価されたからと言って、第二回、第三回の『ススリアの弟子の中で一番強いのは誰か』選手権を開かないように、と。
すっごく驚いた顔をしていたが、まさか、今後もやるつもりだったのだろうか。抜け目ないゴーレムである。
そして、彼女達のお目当てと言っても良いデルタちゃんの優勝賞品、"私から教えていただいた武術【オーラ】の指南"についてだが、これについては順調に行われているようだ。
【オーラ】の感覚を掴むのは難しいようだが、日々道場の皆と切磋琢磨しながら、強くなっているよう。
それに、ガンマちゃんの優勝賞品である"古時代の配信を参照して見つけた【古の剣オーロラ・デュノダス】の在処を記した地図"を使い、その剣を探すチームも出ているようだ。
唯一、彼女が使わなかったのは、アルファちゃんの優勝賞品である、"私特製の専用ゴーレムを作って貰える権利"くらいだろうか。
フランシアが言うには、「どういう機能のゴーレムが出来るのか分からないので、ゴーレムの勉強をしてからお伝えします。また必要なゴーレムがありましたらお願いします」とのこと。まぁ、そもそもが作って貰える権利なので、後から作ってもらおうというのも別に大丈夫なんだけれども。
「----で、問題はこの娘か」
「えぇ、どうにかなりませんか? 師匠?」
フランシアは、彼女を見ながら、私にそう尋ねる。彼女を見ているのは私とフランシア、いや窓の外から見ている自称四天王さん達やダンパン部隊長も含めると、もっと要るか。
----ベッドに横たわる、ピエーム。
あの選手権の決勝戦、フランシアとピエームの対決は、フランシアの勝利となった。そして同時に、それ以降彼女はずっと眠り続けている。
「魔道具などでの診察の結果、身体に異常はないね」
むしろ、回転鋸の剣になる彼女の、どこにも目立った異常が見当たらなかったという方が変なのだが、そこはいまは関係ないだろう。
体温、臓器、血液など、全てが正常値。健康的な観点で見れば、彼女はどこも悪くない。
「そして別の魔道具などでの診察の結果、魔力の異常を感知した」
「これを見て」と、私はフランシア、あと窓の外から見に来た兵士の皆さんに、魔道具【魔力検査眼鏡】を渡す。
この魔道具の眼鏡は身体の魔力の流れを見る魔道具であり、錬金術師である私が作るとか以前に、普通にお店とかでも売っている品物だ。主な用途としては、魔法が発動できない人に対して、どこで魔力が止まっているのかを見極める魔道具である。
彼女達が眼鏡を装着したところで、私も眼鏡をかける。
フランシアの魔力は、魔力が作られるとされる心臓の所で止まっていた。
「普通、生物の魔力は心臓で作られて、脳へと行き、そのまま各種臓器や手足などに分配されていく」
まぁ、身体の外にある魔力だとか、色々と説明をしたらキリがないのだけれども、端的に言えば、魔力とは血液のようなモノだ。だからこそ、魔力を使いすぎると、貧血と同じ症状が出て倒れてしまう。
「本来、魔力欠乏の状態になっても、普通に安静にして置けば、最長でも10日くらいで目が覚めるはず」
にもかかわらず、半月近く経った今でも彼女は眠り続けたまま。輸血のように、魔力を体内に送り込む魔道具を使ってもこのざまだ。
「心臓に何か問題があるんでしょうか? それとも、武器化できる事と、なにか関係が?」
「恐らくは、後者の武器化できる所だね」
私は、このような病気を知らない。
しかしながら、これに似た症状なら、状態ならよーく知っている。
何故なら、前世の知識で、私はこれに良く似たものを、何度も目撃しているのだから。
それは、"電池切れ"。
彼女はいま、充電された電気が切れた家電のように、うんともすんとも動かない状況になっていたのである。




