第195話 コ・ラホ領のスコティッシュ配信
タノタノ王国、王都セントール。
そこから、東の方向へと、馬車で5日ほど行った場所に、『コ・ラホ領』と呼ばれる領地があった。
山の中に作られた小さな領地である、コ・ラホ領。ここでは上質な粘土層の土が山のように取れ、その土を使った焼き物は"コラホ焼き"というブランドで、上質な食器や壺などで広く知られていた。
しかしながら、焼き物は時間がかかるが、錬金術ならすぐに似たような食器や壺などが作れるという事で、徐々に需要が減っていった。それでもなお、宝石や鉱石など様々な有用な物が盛りだくさんなため、領地としては細々としながら、順調に発展していった。
ただ、このコ・ラホ領に、働き盛りな若者の姿は少ない。
宝石や鉱石の産出も、以前は人間の手作業で行っていたが、最近はゴーレムという人造機械を使えば危険も少ない上に、一度に多くの物を運ぶことが出来る。
この領地に残っているのは、都会での暮らしに合わなかった者と、粘土の魅力に魅入られた者達だけ。
「はい。それでは今回分の納品はもらっていきます、ニャア」
季節は夏真っ盛り。サンサンと照り付ける太陽を尻目に、ようやく食器の検品と個数チェックを済ませたスコティッシュであった。
彼女の目の前で、このコ・ラホ領の領主である【ツブア・コ・ラホ】が「いつもありがとうございます」と頭を下げる。その様子を、スコティッシュは心の中で冷ややかな目で見つめていた。
「(無能領主が……)」
コ・ラホ領の領主が、代々無能であることは、隣国のシュンカトウ共和国にも伝わるくらい有名な話である。
コ・ラホ領の領主は保守的な考え方の人物が多く、ゴーレムを使うようになったのも二代前からと、割かし最近の話。ゴーレム自体は古くからあるし、ゴーレムを使おうという打診はなんと五代前の領主から提案したというのにだ。
自分達の価値を、自分達で低く見積もっている、ダメ領主。
それがスコティッシュを始め、ドラスト商会全体の意見であった。
今回訪れたコラホ焼きの食器の買い付けも、コラホ焼きの人気が高い事が理由で、それがなければこんな領地はすぐに潰れていた事だろう。
「(まぁ、他国の領地に首を突っ込み過ぎるのも良くないですね。こちらに、なんの利点もないですし)」
輸送用のドラゴンに食器を積み込んでいると、屋敷の扉をバンっと大きく開けて、1人の少年が「スコティッシュさーんっ」と走って来た。
いま扉を開けてこちらに向かって来る少年は、ツブア領主の長男である【コシア・コ・ラホ】である。
「なぁなぁ、スコティッシュさん! 俺が前に頼んだヤツ、どうなってんの!? どうなってんの?!」
「これこれ、コシア。そんな焦らすように言うんじゃあない。スコティッシュさんも困ってしまうだろう」
一見すると、ツブア領主は息子の暴走を止めているようにも見える。
実際は、スコティッシュを逃がさないようにアシストしているただの親バカだ。懐から、鏡を出して光で合図をしていたのをスコティッシュは見ていたのだ。バレバレである。
「……はぁー。残念ながら、コシアさんの嫁になりたい方はまだ連絡が来てません、ニャア」
「「そっかぁ~」」
なにが「そっかぁ~」だ。2人で息を揃えるんじゃないと、スコティッシュは心の中でそう愚痴った。
コシア・コ・ラホは、順当にいけば、というよりもほぼ領主になる事が内定している人物だ。
しかしながら、コ・ラホ領という領地的な特性。そして早ければ10歳には既に婚約しているような貴族社会において、17歳で婚約者がいたこともないという事から、コシアの評価は低い。
顔は悪くないのだが、『コ・ラホ領に嫁入り』という条件が足を引っ張りすぎている。それさえなければ、コシアを貰って良いという女の人は多いのだが。
「気長に待つしかありません、ニャア。こういうのは相性というモノがございます、ニャア」
「そうか……ふむ! ならば、我はサクラアの所にでも行くとするか! すまないな、スコティッシュさん! 父上!」
そう言って、綺麗なお辞儀をして屋敷へと帰って行くコシア。
ちなみに最初に会った時は「頭を垂れて跪け、この獣人風情が!」と言っていた時と比べると、かなり成長したと思う。
「(地頭は良いんだよね、彼。普通に良い先生がつけば、伸びるかもなぁ~)」
と、そんな事を思っていると、話の流れでスコティッシュはツブア領主にサクラアの事について尋ねる事にした。
「ところで、サクラアさんの様子は?」
「えぇ。あの娘は結婚どころか、パーティーにも興味がない始末でして」
----【サクラア・コ・ラホ】。
このツブア領主の娘にして、先程走り去って行ったコシアの3つ下の妹に当たる。
この領主親子と家族とは思えないほど頭が良い女の子で、ススリアの事を知れたのも、彼女が開発してくれた『お金になりそうな配信をしている配信者を自動的に検出する演算装置』のおかげである。
もっとも、病弱で、なおかつ外出に全く興味を示さないインドア派の彼女が、これから先、どうなるかは分かり切った事だ。
貴族の娘として、この領地に一番価値がある家に嫁がせる。
サクラアの将来はそんな所だろうなと思っていると、ツブア領主が「そうだ、思い出しました」とスコティッシュに提案をもちかけた。
「実は、サクラアがスコティッシュさんに売りたいものがあるそうなのですが」
「ほうほう。それはいったい、なんですか、ニャア?」
正直、ドラゴンに詰め込み終わった焼き物のお皿よりも、サクラアが売りたいというモノの方が、スコティッシュとしては興味がある。
いったいなんだろうと思っていたのだが----
「ほら、あれですよ。以前、スコティッシュさんが仰っていた、ススリアさんの配信。
あれに出て来た、ピエームさん。あれのようにヒトなのに武器の性質を出せるようにする魔道具だとか、なんとか」




