第190話 決勝戦、ヒトと武器【武闘大会生中継配信】(1)
~~フランシア~~
----決勝戦。
司会役のイプシロンの合図と共に、2人の人間が試合会場に上がって来る。
1人はこの私。剣を手に、ただ真っすぐ一歩一歩確実に試合会場へとあがっていく。
もう1人はピエーム。準決勝で見せたあの『回転鋸剣』という武器の姿へと変形し、影を人間の形として武器を手に取らせていた。
「(今回は、最初から武器の姿で登場って事ね)」
ピエームはどういう原理かは知らないが、あの『回転鋸剣』の武器の姿へと変身する能力を持っている。そして、その能力を使って、彼女は準決勝の相手であるダンパン部隊長を倒した。
ダンパン部隊長は、師匠が手配した神官さんのおかげで、命に別状はないそうだが、それでもかなりの深手だったらしい。警戒はしておくべきでしょう。
『さぁ、『ススリアの弟子の中で一番強いのは誰か』選手権! 遂に決勝戦となりました! 今回の試合会場の特別仕様は、ダメージ床! 試合会場の一部の床は踏むことで様々な効果を起こす、目に見える罠! 火傷、毒、麻痺! 色分けされている床は、様々な効果を発生させるので、お気を付けください!』
イプシロンはそう言っているが、私としてはこの特別仕様はピエームには関係ないと思う。
なにせ、相手は影。影に毒や麻痺などの状態異常は効かないでしょう。つまり、気を付けるのは私だけと言えましょう。
『決勝の舞台に上がったのは、この2人! 『シュンカトウ騎士団第五の槍』ピエーム! そして、『成長し続ける姫騎士』フランシア! 果たして、この選手権の優勝はどちらになるのか! 試合開始ぃぃぃぃぃ!!』
試合開始の合図と共に、ピエームは……ピエームの影は、こちらへと突っ込んできた。
普通ならどの床が大丈夫で、どの床が大丈夫じゃないかを把握すべきだと思うが、影の場合はそんな事を考えずに攻め込める。
炎で焼かれようと、雷で麻痺させられようと、毒に侵されようとも。
武器となったピエームには、その全てが無意味な効果なのでしょう。
『一気に、止めを刺します!』
武器から言葉が聞こえてくる。ぶるんぶるんっと、高速で回転する刃。その刃で、ピエームは私を仕留めにかかる。
「準決勝で、その攻撃は見ましたよっ!」
私はそう言って、高速回転する刃、その持ち手部分を剣によって弾き飛ばした。
弾き飛ばされ、影からするーっと飛んで行き、床に突き刺さる武器化したピエーム。
あの高速回転する刃は、触れたら私の武器も粉々になってしまう。そしてあの影に攻撃しても、ダメージは通じない。
だったら私が狙える箇所は、1つ。そう、持ち手の部分だけ。
あの刃がどれだけイカレてようが、剣である以上は、持ち手がある。そして、その持ち手部分でなら、剣で弾き飛ばせると踏んだわけだ。
「なるほど。持ち手部分を弾くとは、驚きましたよ」
すーっと、実体化させていた影を元に戻し、武器の姿から人間の姿へと戻るピエーム。
ピエームは両腕両脚から、武器化した際の刃についていた小さな刃付きのベルトを生み出す。そして、その生み出された刃が、彼女の腕と脚の上を、物凄い勢いでぐるんぐるんっと回転していく。
「だったら今度は、こちらの姿でお相手しましょう!」
彼女はそう言って、床を蹴ると、私に向かって飛び膝蹴りをしてきた。
あの足を防いだら武器が壊れると瞬時に察した私は避けに徹し、避けられたと見るや、ピエームは腕と脚を使って、殴り、蹴りかかって来る。
もちろん、その際、彼女の刃はフル稼働。物凄い勢いで、回転しながら、私を殺そうとばかりに抉って来る。
刃が出ていない部分なら攻撃出来るかもと、瞬時に察した私は、懐から投げ用ナイフを取り出す。そして、彼女の心臓目掛けて、ナイフを発射。
発射されたナイフは、見事、彼女の胸部分に突き刺さる。しかし、突き刺さった瞬間、皮膚の下から小さな刃がぐるんぐるんっと回転しながら現れて、あっという間にナイフは粉々の姿へと変わっていた。
どうやら、彼女の全身から、あの小さな刃を高速回転させるという技が使えるようだ。あの回転刃に触れれば、私の武器も、そして私の身体も、大きなダメージを受けるのは必須。
「さぁ、負けを認めてください姫様! 武器化できるようになったこの姿こそが、ヒトが歩むべき進化の形! 進化していない姫様に勝ち目はないですよ!」
「随分と言うじゃないですか。まだ勝負はついてないですよ」
「だったら、まだまだ攻めさせていただきましょう!」
彼女はそう言うと、彼女の手の平から、大きな円状の刃が出て来た。出て来た刃は、自動的に勝手に回転し始め、ピエームはその刃をこちらに向かって投げつけて来た。
遠距離攻撃もいけるのかと、私は剣を床へと突き刺すと、その床を引っこ抜き、回転する円状の刃にぶつけて、軌道を逸らす。
「まだまだ、いっちゃいましょう!」
彼女はそう言って、手のひらからどんどんと、円状の刃を出すと、それを私へと発射して行く。
特別仕様の床の下の地面に剣を突き刺した私は、その地面を塊として発射して行く。
『あー! せっかくのダメージ床仕様がぁあああ! 床を掘るという形で、解決されてゆくぅぅぅ!!』
イプシロンは嘆いているようだが、それを禁止しなかったそちらの責任である。
そして、そんな事をしていると、ピエームは次の行動へと移行してきた。




