第187話 ダンパンVS.ピーエム【武闘大会生中継配信】(1)
~~ダンパン~~
『一夜明けて、最高の決戦日和となりました! イプシロンちゃん主催! 『ススリアの弟子の中で一番強いのは誰か』選手権~!
司会は昨日に引き続き、この私! 昨日、アホみたいに船長に怒られましたイプシロンちゃんです!』
ピエームの様子がおかしいのを感じつつ、私は今日この日を迎えていた。
準決勝第1試合、この私とピエームとの試合。夜に彼女と出会うまでなら、普通の一試合として楽しんでやらせていただいたのだが、そういう訳にはいかなくなってしまった。
「あぁ! 世界よ! この私の強さを、そして偉大さを見せつけてやりましょう! ふふふっ、アーハハハハハハッハハハハ!!」
……その理由が、これだ。明らかにピエームの様子がおかしいのだ。
あの後、彼女と仲が良い四天王の4人に聞いてみたが、普段から口数が少ない方ではあってどういう性格なのかは分からないが、少なくともこんな高笑いをあげるような性格ではなかったという事だ。
「(四天王が嘘を言っているという事はないだろう。私もそういう認識だったし)」
1回戦第1試合、彼女が出場したアルファ・ブロック。そこで彼女は息を潜め、ベストタイミングを見極め、タラタとスルーヨの隙を突いた見事な戦い方であった。
あの時点では、彼女はいつも通りだったと思う。そうでなければ、あのような隙を突いた戦い方は出来なかっただろう。
「(つまり、1回戦第1試合終了後からあの夜の間に、彼女をあんな風にしてしまう"なにか"があったのだろう)」
時間的に考えて、ピエームがどこかに行ったと考えるよりかは、この試合会場でなにかがあった、誰かに何かをされたと考えるべきだろう。
とすれば、その要因が、そのような事をした誰かは、この会場に居る?
『準決勝ではススリア船長の力によって、試合会場自体にちょっとした仕掛けを施させていただいております! この第1試合では、魔道具の力により足場がランダムで変化する特別ステージとなっております!』
『本来は、地面の硬さを変化させて、作物をより良く育てるための代物なんですけどね』
ふむ……見かけは全く同じにしか見えぬが、剣などで突っついてみると、確かに床ごとに多少の軟弱さの違いがあるようだ。準決勝はいつもとは違うステージでの対応力を見たいと、そういう事だろうか。
「(武闘大会で、いきなりルールが変更されるなんて日常茶飯事だ。試合会場の床程度で済んだのは、僥倖だと言えよう)」
この対決でピエームを叩きのめして、なにがあったか、直接聞いてやろうじゃないか。
『では、試合開始っ!!』
司会役のイプシロンの声が鳴り響くと共に、いきなりピエームが攻めてくる。
槍使いとはいえ、慎重な性格である彼女がいきなり攻め込んでくるとは……やはり、いままでの彼女とは違うようである。そして、そのまま槍をこちらへと勢いよく突っ込んでくる。
「(だが、踏み込みが甘いッ!)」
やはりいつもと違う事をしているのが、大きかったのだろうか。ピエームの槍さばきはいつもより弱く、隙が分かりやすかった。
私はその攻撃に合わせる形で槍を避け、手にしている剣を使って、槍を弾き飛ばす。
「そのまま行くぞっ!」
床の柔らかさが不安定ならば、床を強く蹴って威力を増す技は使えない。だとしたら、私が取れる手段は、床を必要としない攻撃技だ。
私は剣を手でしっかりと握りしめ、そのまま彼女の腹に剣を殴りつけるようにして、ぶつける。
「それは効きませんよ!」
「----なにっ?」
剣で殴りつけた際、彼女の腹から明らかに人とは思えない音が聞こえて来た。そして、その音が私の聞き間違いではないという事がはっきりと分かった。
----私の持っていた剣の刃が、ボロボロに切り刻まれていたからだ。
『おおっと?! なんだ、あの刃は?! 彼女の足に大量の刃がくっついているぞ?!』
司会のイプシロンが言う通り、ピエームの足には大量の薄い刃がくっついているベルトが付いていた。そして、そのベルトが彼女の足でぎゅるんぎゅるんっと、高速で回転していた。
それだけではなく、ピエームの身体にも、ベルトのようなモノが高速で回転していたのである。
明らかに、異様な気配を纏っていた。少なくとも、これこそが彼女に感じた違和感の1つであると私はそう確信していた。
「(このベルト、服の下の身体に仕込んでいたとかではない。皮膚の下から出て来ているようだ。……これが、ピエームの言っていた"私の強さ"なのか?)」
「ほらほら、行きますよぉぉぉ!!」
ピエームはそう言って、ベルトを高速で回転させながら、私に蹴りを入れたり、殴ったりしてくる。
私はそれを後ろへと、当たらないように逃げる。当たったらどうなるのか、それはぶつかった剣が、ずたぼろになった様子から見ても、明らかである。
そうやって、ピエームの見覚えのないベルトに私が驚いていた頃。解説役のススリアさんが、彼女のことをこう言っていたらしい。
----彼女は、"チェンソー"という武器のようであった、と。




