第185話 デルタと姫は成長する【武闘大会生中継配信】
~~フランシア~
『さぁ、白熱の第4試合! デルタブロックは激戦! 誰が勝ってもおかしくない激戦となっております!』
イプシロンちゃんの実況が聞こえる中、私は剣を手に対戦相手である2人に向かって行った。
私の対戦相手は、ウミヅリ王国から来たアザラシ族の元貴族トカリ。そして、ケンタウロス族の元騎士であるスグハ。
2人の攻撃に、私は少し遅れながらも、ギリギリくらいついていた。
彼らの強みは、種族特性の強さである。人間族が非力という意見はないが、炎を纏った徒手空拳で戦って来るトカリと、強靭な脚力で試合会場を走り回るスグハに比べると、私は彼らに勝つ決め手に欠けているのだ。
腕力ではトカリに負け、脚力ではスグハに負ける。
どちらか片方だけを相手にするならば、トカリに対しては腕力勝負を避け、スグハに対しては脚力勝負に避けるなど、相手の長所を潰して自分が有利になるように立ち振る舞うことが出来る。
トカリとスグハの2人も、相手の長所を潰して、自分だけが有利になるように、そういう風に攻めてきている。
この対決、1対1の対決ならそれで終わっていた。しかし、厄介なのはこれが1対1対1の、三つ巴戦であるという事だ。
どちらかの相手にかまけていると、もう片方が一気に潰しにかかる。そのため、私達はもう1人の相手の動向を気にしつつ、2人ともに攻め続けなければならない。
この場で必要なのは、相手と戦う事に集中する集中力ではない。状況をきちんと見極める、俯瞰の目であった。
「(----トカリか、スグハ。どちらかを倒せれば、事態は一気に進む。その事をこの場にいる全員が理解している)」
まず誰が最初に負けるのか。私達はそれを考えながら、互いに攻め続けていた。
----大技を使って、一気に片付けましょうか?
時間をかけて集中すれば、私は大技で片方を一気に倒せる。しかしその集中してくれる時間が確保できないうえに、大技を放てば大きな隙が生まれてしまうため、敗北は必須。
----このまま長引かせて、体力の限界を迎えるのを待つ?
トカリはともかっく、スグハの体力がどれだけバケモノ染みているかというのを、同じ道場仲間である私は良く知っている。体力勝負では私に勝ち目はない。
----どちらかと共闘を持ちかけて、2人でもう1人を倒す?
共闘が出来るのなら、とっくの昔にやっている。
打つ手なし、どうすれば良い?
「(考えろ! 戦いながら、考えろ!)」
このまま何も打開策を思いつかないままでは負ける、だが身体を動かしながらしていないとそれでも負ける。
勝つためには、戦いながら、勝機を見つけなければならない!
「(考えろ! 考えるんだ、私!)」
----そうやって考えている中で、私はトカリを見た。
彼の、炎を纏った徒手空拳による、私よりも優れた腕力を、私は羨ましいと思った。
----そうやって考えている中で、私はスグハを見た。
彼の、ケンタウロス族自慢の、私よりも優れた脚力を、私は羨ましいと思った。
「(そうだ、彼らには彼らの魅力がある。そして、その魅力あふれる部分を、私も使いたい)」
戦いながら、私は彼らの戦い方を学んでいく。
どうすれば、トカリのように、力強い徒手空拳を放つにはどうすれば良いのか?
トカリはどういう風に戦い、どういう構えを取っているのか。
どうすれば、スグハのように、力強い脚力で試合会場を駆け回れるのか?
スグハはどのように脚を使い、どういう風にしてスピードを調整しているのか。
だんだんと、戦いながら私の考えが纏まって行く。
今までの戦いに向き合った経験が、私に「こうすれば使える」という可能性を示してくれる。そして、そういう風に身体を動かすと、確かに同じような技を使うことが出来た。
トカリほどの力強さはない。スグハほどの脚力の凄まじさはない。
しかしながら、確実に2人の"良い所"を吸収して、私はこの戦いの中で成長していた。
「----!? 私と同じ技なのだ?!」
「この速さ、いままでのフランシア様ではない!」
2人とも、私の成長っぷりに驚いているようだけど、もう遅い。
トカリの構えを真似る事で、私の身体に熱き血潮が流れ、力が増してくる。そしてスグハと同じように脚を動かすことで、少ない力で前よりも速く走るコツを手に入れた。
そして、今の私なら----!
さっき出そうとした大技を1人ではなく、2人ともにぶつけることが出来る! そういう確信があった!
「----フランシア流抜刀術【大太刀回り・炎舞】!」
私はそう言って、炎を剣に纏わせて、全力全開で手にしている剣を回転させる。そして剣を、私は2人に向かって剣を勢いよく叩きつけたのでした。
『決まったぁああああ! 勝者は、『成長し続ける姫騎士』フランシア! トカリとスグハという強敵相手に、2人は勝ち切ったのであります! まさしく大航海、素晴らしい大勝利であります! どうでしたか、ススリア船長?!』
『恐らくですが、フランシアは戦いながら、対戦相手であるトカリとスグハ、その2人の良い所を取り入れたようですね。『成長し続ける姫騎士』という名前通り、対戦中に成長したようですね。……まぁ、完全に真似は出来てなくて、精々6割くらいの精度ですけど』
----1回戦第1試合アルファ・ブロック勝者、『シュンカトウ騎士団第五の槍』ピエーム。
----1回戦第2試合ベータ・ブロック勝者、『信念と執念の部隊長』ダンパン。
----1回戦第3試合ガンマ・ブロック勝者、『最新型魔物ゴーレム』アレイスター。
----1回戦第4試合デルタ・ブロック勝者、『成長し続ける姫騎士』フランシア。
『今ここに! 1回戦の勝者4人が、ベスト4が出揃いました! 準決勝、そして決勝戦は明日させていただきます!
----ススリアの弟子最強の座は、いったい誰の手に!?』




