第184話 敗北を見極めるのも大切です。そうですよね、ガンマちゃん?【武闘大会生中継配信】
~~アレイスター~~
アルファ・ブロックの勝者、そしてベータ・ブロックの勝者。その勝者の名前がイプシロンによって読み上げられると共に、私は出番が来たのを悟った。
「ふふんっ! そろそろ私の試合が始まるッスね!」
ようやく、このアレイスターの力を皆に、そしてススリアに見せつけることが出来るッス!
あの女、この私があなたの弟子になるために、魔物ゴーレムとなった事を忘れてないだろうかと、最近はそんな事ばかりを考えてしまう。だって魔物ゴーレムとなった後、あの女が私に指南した事なんてほとんどないんですよ! これは怠慢だ、絶対許すわけにはいかない!
「(この大会で優勝して、この私に指南させてやります! 目指せ、私への弟子入り認知!)」
そうやって私は情熱を持って、試合会場へと向かう。
試合会場へと向かうと、既に対戦相手の2人が揃っていた。
王女でありながら、生粋の武人でもあるサビキ元王女。
強面の筋肉ムキムキ、黒いスーツに身を包んだネゴシィ騎士団長。
どちらも武人として一流の人間であり、私が本気でやらなければ勝つ可能性は限りなく低い。むしろ、決勝戦でやるレベルを想定しなければならない、超重要な試合ッス。
「(この2人の目的は、ススリアの弟子として認められることではなく、デルタ先輩の教えを受ける事だけ! それだけが目的の相手に負けるはずがありません!)」
気持ちだけで勝てるとは思わないが、最後の最後で勝利を引き寄せるモノが根性である事は事実だと思っている。だからこそ、この戦い、負けるわけにはいかない!
「----アレイスター嬢」
と、そんな風に気持ちを高ぶらせていると、こちらを見ていたネゴシィ騎士団長が話しかけて来た。
「初めに言っておこう。すまないが、私はこの試合に参加することが出来なくなった」
「……はい? 初めから参加する気持ちがなかったって事ッスか?」
勝つつもりがないのに参加していたなんて、とんでもない不義理である。私がそう思って睨みつけると、ネゴシィ騎士団長は申し訳ないと頭を下げる。
「私も、君達と共に戦い合いたかった。しかし、サビキ元王女の実力を見て、私は彼女を倒せないと判断し、戦いを辞退する事に決めたのだ。本当にすまない」
確かに、大会のルール既定の中では、自ら敗北を認める事も可能と、明記してあった。
相手と戦っても勝てない、そう見極めるのもまた、武人として必要な要素の1つである。
ネゴシィ騎士団長の判断は何も間違ってはいない。だがしかし、それなら試合が始まる前に、こうして呼び出される前に自ら辞退するという道もあったはずだ。
わざわざ、試合会場まで来て、「やっぱ勝てませんので、辞退しまーす」と言っているようなモノだ。到底、許される判断とは思えない。
「……勝てないと判断するのが遅すぎないッスか? それとも、私にも同じように敗北を自ら願い出ろと催促するために、この場で言っているッスか?」
「そんな訳はない。闘いを降りたのも私の判断であるし、君にそれを強要するつもりもない」
だったら、なんでこの場で、敗北を希望したのか。
アレイスターには、その意味が全然分からなかった。
「……なんでもいいので始めましょうでして」
と、ネゴシィ騎士団長と言い合っていると、サビキ元王女がそう話しかけて来た。
「確かに、いつまでも言い争っている場合ではないッスよね」
そうだ、戦えばすぐに分かる。
この私が、この私こそが、この大会で優勝して、ススリアの弟子として認められるべき存在であることが!
試合開始の合図が聞こえると、サビキ元王女は腕から水の弾を発射して来る。テッポウウオ族の特徴を活かした、水を発射する戦術。
さらに言えば、ススリアとの特訓により、その弾は相手を斬る斬撃特性も付与されている。
受けるのは得策ではないとすぐさま判断した私は、大きく深呼吸する。そして、そのまま吸い取った息を、物凄い勢いで目の前に放つ。
放たれた息は、サビキ元王女が放った水の弾を吹き飛ばし、お空へと飛ばす。
「(水の弾、しかしそれはただの水! 空気で押し出しちゃえば、防ぐ必要もない!)」
その様子を見ていたサビキ元王女は遠距離戦では不利だと判断し、今度は水をレーザーブレードのように一直線の形で固定して、こちらに踏み込んできた。
接近戦に持ち込むつもりだと判断した私は、受けて立つとばかりにゲンエインジウムの力を使って、元王女と同じようにレーザーブレードの幻影を実体化させて、迎え撃つ。
斬りかかるサビキ元王女、それに対して私もまた幻影のレーザーブレードで応戦する。
私と彼女の技量は、そこまで離れている訳ではない。彼女の方が上なのは揺るぎようがない事実であるが、それはこのドラゴンという恵まれた身体を覆すほどの差ではない!
私が力を込めて打ち返すと、彼女の水のレーザーブレードは霧散する。水を色々な形にするのが得意のようだが、所詮は水!
「勝つのは私ッスよ!」
私はそのまま幻影を実体化されたレーザーブレードで、彼女に斬りかかる。
勝った! そう思った瞬間、彼女の手は私の腹に触れていた。
「どんな生物でも、腹は柔らかい弱点なのでして!」
「しまっ----?!」
「----【水流波】!」
どごぉぉぉんんっっ!!
サビキ元王女が放ったのは、水の衝撃波。
私のお腹に触りつつ、そこに水の衝撃を一直線に叩きこむ。
「水は確かに弱い。しかし、一点を集中すれば岩をも穿つのでして」
いま私はお腹の部分に、水の衝撃波をモロに喰らった。
身体を通って、サビキ元王女が放つ衝撃が身体を通り抜けて来る。
痛いっ! 死ぬかもしれないっ! 倒れたいっ!!
「----だから、どうしたッスかあああああああ!!」
「なっ……?!」
おらぁ! と、私はサビキ元王女の衝撃を気合いで打ち消す。身体はじんじん痛むが、耐えられないほどではない!
そのまま、次の一手を取らせないうちに、私はサビキ元王女の首に、高速の手刀を当てる。
首が揺れ、頭に血が回らなくなったサビキ元王女は、そのまま倒れた!
『勝者は、アレイスター選手! ドラゴンとしての、ススリア船長の作り出したゴーレムとしての意地を見せつける勝負であった!!』
イプシロンの声を聞きつつ、私は勝利に酔いしれていたのであった。
~~ネゴシィ騎士団長~~
「ふむ、やはり彼女が勝ったか」
手刀で気絶するサビキ元王女を抱えて、勝利を嬉しそうに喜ぶアレイスター嬢の姿を見て、私は自分の判断は正しかったと実感した。
「サビキ元王女は確かに強い。しかしながら、彼女に比べたら、いやこの私もそうだが、勝利への渇望が薄かった」
アレイスター嬢の腹に与えた、水の衝撃波。
普通ならあれを耐えきる人間は居ない。身体の中を、衝撃波が通って行くのだから。さしずめ、自分の身体が物凄く揺れ、筋肉や骨がボロボロになっていたと言って良い。
アレイスター嬢が耐えられたのは、ドラゴンの身体を基にしているからというのもあるが、この勝利はそれだけでは片付けられない。
彼女が本気で勝ちを狙っていたからこそ、限界を突破して、あの技を耐えきれたのだ。
「見事だ、アレイスター嬢。また機会があれば、勝負したいものだ」
この大会で彼女に勝つのは、ほぼ無理だろう。私はそう判断して、勝負から降りた。
しかしながら、ずっと勝てないと悲観するつもりはない。
いつか必ず勝って見せる。
私はそう闘志を燃やしながら、今はアレイスター嬢の勝利を喜ぶ1人の人間として、祝福を彼女に贈るのであった。




