第183話 ベータは誰が勝っても良いブロックなのか?【武闘大会生中継配信】(2)
「ではただいまより、1回戦第2試合! ベータ・ブロックの対決を始めたいと思います! 出場選手は、試合会場までお進みください!」
司会役のイプシロンちゃんの声により、試合会場に3人の人間が現れる。
1人目は、銀の鎧に身を包んだ、筋肉モリモリの大男。パワー自慢を見せつけるかのように、大きな斧をしっかりと握りしめて、一歩、また一歩と近付いてきた。
2人目は、赤い金属鎧で全身を包んだ、細身の長身男。槍を手にしており、恐らくは彼がザザードと呼ばれる自称四天王の1人であろう。しかし、筋肉モリモリの大男よりも大きいとは、凄いなおい。
3人目は、黒いグローブを身に着けた、痩せ身の男。上半身は何も着ていないが、しっかりと鍛え上げられた筋肉を見ると、彼にはそれで十分だろうという事がうかがえる。
1人目のダンパン部隊長、2人目のザザード、3人目のイボーク。
銀の鎧、全身を覆う赤鎧、筋肉の鎧。
三者三葉、同じ『騎士』というカテゴリーから来たとは思えない3人の登場に、会場が盛り上がりを見せる。
「おはうおっち! という訳で、折角なのでこの様子を配信しながらやらせていただきたいと思います」
(※)『おはうおっち!』『いつもながら唐突に始まるアレ』『俺、リアルで観客席にいるんだけど、こっちも気になる!』『解説、1試合目ほとんどなかったからなぁ』
仕方ないでしょ、解説は。
あんな刻一刻と戦況が目まぐるしく変わる対決を、横で「やれぇ! ぶっ放せぇ! そこだぁ~!」とか、イプシロンちゃんの大声がうるさすぎて声がかき消されたんだよ。私じゃないよ、悪いのはイプシロンちゃんだよ。
この武闘大会での私の役割は、イプシロンちゃんが「あれ、なんでしょうか?!」と聞いて来た時の解説役である。それなのに、それを振るイプシロンちゃんの態度があれじゃあ、解説のしようがない。
まぁ、一応第1試合終了後に、イプシロンちゃんが「今の試合のポイントはなんでしょうか! ススリア船長!」と来た時に応えたから、やる気がない訳ではないのだ。
あくまでも司会役のイプシロンちゃんが、こちらに話を振らないのが悪い。悪いのはイプシロンちゃんだから、ここ重要だから。
「----おっ、試合が始まったようですね」
私はそう言って、試合を見る。
そうして、私は試合を見ながら、カタカタとキーボードを打ち始めるのであった。そうすると、画面に私が打ち出した文章が表示された。
【さぁ、始まりました! 3種類の騎士達による第2試合! 斧、槍、そしてグローブ! 勝つのはどの騎士か 注目ですね!】
(※)『画面に解説が出て来たww』『声でするんじゃないんかい!』『でもまぁ、リアタイしている俺からして見たらこれが一番いいかな』『どっちにしろ、観客席からでは良く分からない感じもあるし』
このキーボードは、ガンマちゃんの技術を応用した私特製の魔道具の1つ、【リアル表示ボード】。
キーボード型の魔道具であり、ここで文章を打ち込むと、配信映像内に文字を直接入力できるという代物だ。しかも、読みやすい大きさ、色なども自動補正してくれる代物だ。
「(イプシロンちゃんが急に話を振って来る事もあるし、試合を見ながらキーボードを打つのだって結構慣れれば簡単だ)」
要は、どこを切り取るか。それさえ分かれば、これくらいマルチタスクにもならない。
【おっと、まず動いたのは斧の銀鎧、ダンパン部隊長! 斧をぐるんぐるんと振りながら、けん制しつつ、じりじりと迫って来るぞ!】
(※)『このまま進めんのかい!!』『いや、だがイプシロンちゃんの司会よりも分かりやすいぞ』『いや、あの司会もどうかと思うが』『ただ、「やったれ~!」とか言ってるだけだものな』
おい、言われてるぞ。イプシロンちゃん。
【ぐるんぐるんと斧を振り回すダンパン部隊長! そんな中、ザザードは槍を構えつつ後退、イボークは脇を閉めて突っ込んだ!】
(※)『槍は引っ込み、グローブは突っ込む』『射程距離的には逆だけどなww』『斧で逃げ道を塞がれる前に、勝負に出たか!』
【突っ込んできたイボークに対し、ダンパン部隊長はニヤリと笑う! これは勝利を確信しての笑みか?! それとも真っ向から受け入れるという決意の表れか!】
(※)『えっ?! ニヤリと笑ったの?!』『そんな瞬間まで見えてたの?!』『もう、解説じゃなくて普通に実況すれば良いのに』
嫌だよ、実況は。私は巻き込まれた側だからね。
……それに、多分ここからの展開が一番面白いよ。
【ダンパンとイボークがぶつかり合うその時! ザザードが彼らの頭上へと移動しているぞ?! しかも、明らかに空中で静止している! これはどういう事だ?!】
……まぁ、どういう事も何も、ただ単に自らに糸をくっつけているだけだが。
全身を包む金属鎧、あれはただのダミー。ダンパン部隊長よりも大きい人が道場に居たら、流石に私でも分かるというモノ。
多分、本人の大きさ的にはあの鎧は本人の1.2倍か、それとも1.3倍くらいで身を包んでいるのだろう。
そして、金属鎧の中から糸を使って操って、今まで戦っていた。
試合会場に居る2人からして見れば、無理して大きな鎧に身を包んでいる事は既にご存じだったのだろう。だから先に2人で戦い合い、勝った後からでも対処できると2人揃って思ったのだろう。
【解説すると、ザザードは自分よりも二回りくらい大きい鎧に身を包んでいた。それを特殊な糸による操作術を用いて、身体を動かしていた】
(※)『人形遣いのようなモノか!』『人形を使って戦うって、あの?!』『今回は大きな人形の中に自分を入れて、操ってるという事?!』『それで空中で静止ってできるモノなの?!』
出来ているんだから、出来ているのだろう。
魔法の一種だと思われるが、自らを纏う鎧を操って、あり得ない位置まで移動するというのが、ザザードの戦い方なのだろう。
「ウグワーッ?!」
【まぁ、それで勝てたら苦労はしないけど】
(※)『ですよね~』『普通にグローブで殴った』『斧をぶち当てた!』『ただ、頭上で静止しているというだけだからな~』『狙いは悪くなかったけど』
負けたのはザザードであった。空中という場所を制圧したのは悪くないが、それは混戦でこそ効果を発揮する。
空中に移動するなら槍ではなく弓を使っての遠距離攻撃、槍を活かしたいなら鎧を高速で移動させるという方法を取るべきだったのだ。中途半端すぎて、2人には歯が立たないというべきか。
【そうこうしているうちに、ダンパンとイボークの2人の戦いが始まりました!】
(※)『斧で斬りかかる!』『それをグローブで殴る!』『斧VSグローブ fight!!』『斧で斬りかかり、グローブで殴る!』『激しい攻防が俺達の前で!』
イボークのグローブは、恐らく彼の毛を編んで作ったグローブ。あの硬い毛を編んで作ったグローブは、ダンパン部隊長の斧よりも武器としてのランクは高いだろう。
普通にやればイボークの勝利なのだが、斧が保たれているのはダンパン部隊長の腕がいいからだ。斧に負担が一番少ない方法を熟知して、それでグローブの攻撃を流している。
【おっ!? グローブの糸が解け始めましたよ?! 斧の斬撃が効いている証拠でしょう!】
「止めだっ!!」
「ウグワーッ?!」
ダンパン部隊長の斧がグローブを斬り、グローブが万全でなくなったからだろう。
ダンパン部隊長の攻撃を捌き切れなかったイボークが吹っ飛ばされ、この対決はダンパン部隊長の勝利に決まったのであった!
(※)『やっぱり普通に話して開設した方が良かったのでは?』
【疲れるし、めんどいからこの先もこれで】
(※)『身もふたもないww』『それでいいのかよww』『で、誰が勝ったんだっけ?』『お前は何を見てたんだよ、おい……』




