第181話 アルファと言えばエルフだよね?【武闘大会生中継配信】
~~スルーヨ~~
『1回戦第1試合! なんと、全員エルフという、エルフ対決になってしまいました!』
海賊服姿のゴーレム娘、イプシロンの掛け声を聞きながら、私は対戦相手の2人を見ていた。
1人は、タラタ。錬金術師ススリアに、この大会の参加者のうち、誰よりも早く馳せ参じて、弟子入りを直談判したエルフの少女。エルフというのは私を含めて長命種なのだが、彼女はまだ15歳の伸び盛り。
錬金術師としての弟子という事で武闘にはあまり優れてはないと思うが、今日の衣装は銀色の鎧に、なにやら強そうな魔術付与をしてありそうな刀。
「(戦いの経験は少なくても、錬金術師の腕は私よりも一歩も二歩も上。ならば、物凄い武器を持っているに違いない)」
警戒すべき相手なのは、間違いないでしょう。
もう1人は、ピエーム。シュンカトウ騎士団四天王と勝手に名乗っている4人組に、こっそりと入っていた5人目。しかも、バンブーエルフと言う。
タラタのような純粋種のエルフ、そして私のようなダークエルフ、他の種族と交わったハーフエルフなど、一般的に『エルフ』と呼ばれるのは、この3種。
一方で、バンブーエルフとは、住んでいる土地の種類で分類される特殊系。竹を主食としているから顎が強靭だとか、竹を食べるパンダを騎獣として乗りこなすなどと言われているが、同じエルフとしても彼女達の事はあまり知らない。何一つ分からないと言っても良い。
「(武器は槍……それくらいしか分からないけれども、本選に出場しているという事は、それなりの実力はあるという事)」
タラタと同じように、警戒すべき相手なのは間違いないでしょう。
『勝利条件は単純明快! 相手が「まいった」などと降参するか、試合会場から落ちたら敗北です!
では、これより1回戦アルファ・ブロック! タラタ、スルーヨ、ピエームの試合を開始します! 豪快に言っちゃえええ!!』
司会の掛け声と共に、鳴り響く銅鑼の音。
試合開始の合図と共に、ピエームが槍を持って、私に突っ込んできた。
予想通り、定石通りの戦い方。
刀と槍なら、攻撃範囲を考えれば、どう考えても槍の方が長くて有利。そして、私が使う弓は、圧倒的に攻撃範囲が広く、一番最初に倒すべきなのは明白。
----だが、そんな事は私自身が一番よく知っている。
「展開せよ、【迎撃魔法具】!」
私の掛け声と共に、私が弓矢を入れている弓籠の中から、5台の装置が勢いよく飛び出してくる。その装置のうちの1つは、飛び出した勢いと共に、ピエームの槍を弾き、また別の装置が背後からこちらを斬ろうとしていたタラタの腕を弾く。
2人の攻撃が装置で弾かれた瞬間を狙い、私は弓を構え、2人に向かってそれぞれ1発ずつ放つ。ただ相手に向かって放つ事のみを優先して放った速射は、もちろん2人を掠める事すらなかった。
しかし、私が放った速射の弓は、そもそも2人を狙った物ではない。本命は別だ。
『ボボォォォォォォ!』
『ピィッッカアアアアアア!』
2人の背に向かって放たれる、炎と雷。
私が放った装置、【迎撃魔法具】。私自身の名前を付けた、私の十八番の装置である。
錬金術師ススリア様から貰った教本、その中でも『最高難易度』として載っていた、"魔法の魔道具化"。それが私が作った【迎撃魔法具】なのである。
簡単に言えば、【ファイアーボール】や【サンダーボール】といった実体のない魔法に、魔道具として扱うために制御装置の役割を果たす術式を組み込むという手法だ。
5台の装置はそれぞれ火属性の【ファイアーボール】、水属性の【ウォータースフィア】、雷属性の【サンダーボール】、風属性の【ウィンドカッター】、土属性の【マッドショット】----合計、5属性を魔道具化した代物で、私の指示によって、敵を自動的に攻撃してくれる。
さらに! 私の弓がその【迎撃魔法具】を通ると、自動的にそれぞれの属性に沿った魔法攻撃が、相手に向かって放たれる。
「(数多の魔物を、そして大会参加者を倒して来たこの【迎撃魔法具】! 分かっていても、防げないわよ!)」
私の予想通り、ピエームの身体は炎魔法によって包まれ、あらぬ方向へと転がって行った。
しかし、タラタは違った。
なんと、雷魔法を、見えない視覚から放たれた魔法を、彼女は斬ったのである。
「----【自動迎撃】?!」
「そうなのであります! どんな攻撃も、この刀は防いで斬る!」
驚いた。魔法が防がれたという事もそうだが、魔法を斬った際の刀の美しさに、私は見惚れてしまっていた。
隙を作ったとすぐに悟った私は、二の矢を構えるも、既にタラタは刀をこちらに振り下ろす瞬間であった。
この距離なら、刀の方が先にぶつかる。迎撃機能も、あくまで自動だから、すぐさま戻って来る訳ではない。
「(だったら!)」
私は矢を強く握ると、そのまま迫って来る刀の刃の部分を思いっきり殴りつけた。
----かぁんんっ!!
殴られて揺れる刀。戻そうとするタラタ。
その間に私は、弓を構え直して、後ろに自ら蹴り飛んで、距離を取る。
仕切り直しだ。もう一度距離を取って、タラタを、今度は力を込めまくって、試合会場から吹っ飛ばしてやる。
私の狙いに気付いたタラタも、こちらへと走って来る。
外したら負け。自動防御の刀を、どうやって破るか。
同時に2本の弓矢を射れば解決できるのか? いや、それで解決するのなら、乱戦必須の予選大会で敗けているはず。
だったら、刀だけでは防げない位置に射る。
腕の関節領域から逆算し、身体を無理に曲げなければ絶対に防げない位置を見つけ出す。そして、そこに目で追いつけない速さの弓矢を放って----
「はい、勝ちました」
「「えっ……?」」
『けっ、決着ぅぅ!!』
思わず、タラタと2人して、間抜けな声が出てしまうほど、呆気なく。
いつの間にか、私とタラタの2人は、試合会場となるステージの外に居た。
どうやら動いているうちに、いつの間にか外に飛び出してしまっていたらしい。
『勝ったのは、なんとピエーム! あの火炎を逃げ惑いながら消した彼女が、このアルファ・ブロックの勝者となりましたぁあああああ!!』
会場が盛り上がる中、私はタラタと顔を見合わせる。
……なんだか不完全燃焼というか、負けた実感が薄い試合だったね、と。




