第178話 闘争のカイデン討伐大作戦配信(3)
『嘘だ……我が最強の技が/破られるだなんてぇ! あぁ/"呼ばれた役割は/果たして"/これからだったのにぃぃぃぃ!!』
悲痛な叫びと共に、魔王ユギーの五本槍の1人、『闘争のカイデン』は倒された。
無残に、バラバラに、カイデンの身体は消えていく。
「やったのでして……」
カイデンが放った大技、【巨影の災厄】。それを斬って脱出したサビキは、崩れ行くカイデンの姿を見て、倒した事で喜んでいた。
これでやっと、ジュレの敵討ちが出来た。強いというか、厄介な相手であったが、倒せたことに、私は満足していた。
「やっぱ、私に国王は無理なのでしてぇ~」
そして、やっぱり自分には国王という役職は無理だと、私はそう実感していた。
国王とは、国民の生活を守るために活動する者。そして、国民を自らの手足のように使う者。
しかしながら、私にとっての幸せとは、今回のように強い相手を倒したという達成感。そして自らが倒したという実感。この2つがあって初めて、幸福だと思える。
国王のような為政者という道を選んでいては、絶対に手に入れる事の出来ない、達成感を得られたことに、私は例えようのない喜びを覚えていた。
「(やっぱり、私にウミヅリ王国の国王と言う器はないのでして。リイル姉、立派な国を作って欲しいのでして)」
私には、ウミヅリ王国の国王になりたいという欲望はない。だが、ウミヅリ王国が幸福で繁栄して欲しいという想いはある。
国王にはなりたくないが、それ以外はとても素晴らしい、私の自慢の故郷なのだから。
「あれ……?」
と、強敵の勝利という喜びを私が全身で感じていると、一緒に戦ったトカリが首を傾げていた。
どうかしたのだろうかと、私はトカリが見ているモノへと視線を落とす。
「嘘……?」
そこにあったのは、カイデンの死体。
近くには戦いの最中に彼が握っていた刀が2本落ちているし、顔の半分を覆っていた『闘争』という文字が書き込まれた仮面も落ちている。
----そして、そこにあったのは、"ジュレの死体であった"。
私達をカイデンから逃がすために殿を勤めてくれた、クラゲ族の考古学者。
カイデンと立ち向かったはずの彼が、何故かカイデンを倒した跡に、横たわっていた。
それはまるで、カイデンの中に、ジュレが居たかのように。
「あの、サビキ様」
と、トカリが手を挙げる。私はそんな彼に、「言って良いのでして」と告げた。
「では、僭越ながら……もしかして、ジュレが倒された後、カイデンはその身体を奪い取ったのではないでしょうか?」
トカリの問いかけに、私は頷く。そう考えるのが自然だったから。
悪魔というのは、身体を持たない生き物。しかしながら、身体を必要としていない生き物ではない。
悪魔は他の生物の身体を奪う事で、さらに強力な存在へと進化することが出来る。身体を奪っていない悪魔と、奪った悪魔では、その力の差は歴然、といったくらいに。
だから、カイデンは、自分と戦ったジュレの身体を奪った。
そう考えると、カイデンが居た場所に、ジュレの死体があった事に説明がつく。
----しかしそれじゃあ、ジュレと戦う前は?
あの時、カイデンは身体を奪っていなかったのか。それとも、奪っていたのか。
奪っていたのだとしたら、ジュレと戦っていた時に使っていた身体は、いまどこにある?
「(そもそも、この刀だって変よね……?)」
私はジュレの死体のそばに落ちていた2本の刀、そして木々に刺さっていた刀を抜く。
----どの刀にも、血はついていなかった。
カイデンと初めて会った時、私達が強烈な嫌な予感を感じたのは、木々を黒く染め上げていた刀剣たちが、どれも血塗れだったから。
しかし今、抜き取ったのを見ても、どこにも血なんか付いちゃいなかった。
私は最初、血まみれの刀剣を生み出すのが、カイデンの能力だと思っていた。しかし、カイデンが出していたのは血なんか付いちゃいない、ただの刀剣。
突き刺したモノを黒く染め上げる能力は凄いと思うが、どこにも血なんかなかった。
という事は、あの血はどこから付いたのだろう?
「一度、考えるべきかもなのでして」
「えぇ、今は勝利に喜ぶだけにすべきなのだ!」
……喜ぶだけ、ね。
確かに、為政者である事を諦めて、目の前の戦いの方に喜びを感じるのが、私である。
しかしながら、どうしても、【これで終わった】と考えられなかった。
「(カイデンが最後に言っていた言葉も、気になるし……)」
----あぁ/"呼ばれた役割は/果たして"/これからだったのにぃぃぃぃ!!
カイデンはそう言って、果てていた。まだ生きていたいとごねていたが、人の命を奪ったアイツがそんな事を言うなというツッコミはどうでも良い。
「(呼ばれた? 役割? 果たした?)」
あー、なにか陰謀の臭いがするぅ! そして、私が苦手な分野である。
「ダメだ。分からないのでして」
こういう、複雑な考えが苦手で、国王の座から降りたというのに。
どうしていま、そんな事を考えちゃってるんだろうか。
「----まっ、トカリの言う通り、考えるのは後にしようっと」
1人で考えていても分からない。トカリと考えていても分からない。
それなら、もっと多くの人達と一緒に考えるべきだ。
そうして私は、その多くの人達がいる、そしてここまで訓練してくれた教官のいる、イスウッドに向けて帰り始めたのでした。




