第176話 闘争のカイデン討伐大作戦配信(1)
闘争のカイデン、その悪魔にサビキ元王女とトカリの2人が再び出会ったのは、【イシヅミ草原】と呼ばれる場所であった。ここはシガンの森からイスウッドの方向に200mほど行った場所にある、だだっ広い草原である。
見通しの良いただの草原であったそこは、黒い倒木がたくさん落ちている草原へと変わっていた。
「おや? なんだか/見覚えのある顔ですね」
クスクスっと、カイデンは2人の姿を見て、腰から2本の刀を抜く。戦闘準備は万全という様子で、2人を待ち構えていた。
「……見つけましたよ、カイデン!」
「敵討ちなのだ! 今日こそ、倒しますのだ!」
サビキ元王女は木に刺さっている刀を抜き捨てながら、トカリは刀を足で踏み壊して、カイデンに宣戦布告していた。その宣戦布告を受けたカイデンは、「?」と疑問符を浮かべていた。
「私/何かしましたっけ? すいません/覚えがまるでないんですが?」
えへへっと、笑って済ませようとするカイデンに、サビキの掌底が決まる。
「かはっ……!」
掌底を受けたカイデンはそのまま吹き飛ばされ、草原をコロコロと転がって、シガンの森の方へと吹っ飛ばされる。「いててっ……」と、カイデンは痛みを感じながら起き上がる。
そして、その起き上がった顔に、今度はトカリが掌底を与えて、さらに奥へと吹っ飛ばす。
「よっ/とっ!」
2度目ともなると、カイデンも対応する。
吹っ飛ばされたカイデンは、ごろんと転がりながら衝撃を和らげつつ、すたっと立った状態で、木にぶつからずに止まった。
ただし、飛ばされた事により、カイデンは再びシガンの森へと戻されたのだが。
「なるほど。前に倒したゴーレム/その関係者ということですか」
掌底で2度飛ばされた事により、カイデンはこの2人が以前倒したあのゴーレムの関係者だという事に気付いた。
カイデンを無様に、拳で吹っ飛ばしたのは、最近だとあのゴーレムだけだから。
「ゴーレムの敵討ち? なんともまぁ/おかしな話。ゴーレムなら/また作り直せば良いのに」
その一言が、サビキとトカリの2人の心に火を点ける。
2人がカイデンに挑む理由は、自分達を逃がすために殿を勤めてくれた、ジュレの敵討ち。それなのに、ジュレを殺したカイデンは、その事を何も覚えていなかった。
「覚えてないなら……それでも良いのでして」
「えぇ。むしろやる気が、どんどん湧き上がってくるのだ!」
2人は足の裏を刃と化し、そのまま滑るようにカイデンの方へと向かって来る。
それに対し、カイデンは木々に突き刺しておいた刀を、悪魔の力でひょいッと抜くと、2人に狙いを定める。
「丁度いい。同じ技で/くたばれば良い!」
‐‐‐‐しゅんっっ!!
風を切るような音とともに放たれる、音速に近い速さの刀。そんな刀は真っすぐ、一直線に、サビキの首めがけて飛んでいく。
----すっ。
しかし、その刀がサビキを捉える事はなかった。
サビキは首をこてんっと横に傾げるようにすると、その瞬間を狙いすませたかのように、音速で飛ばした刀が通り過ぎて行ったのだ。
「運が良い! それなら今度は/10本でどうだ!」
‐‐‐‐しゅんっっ!!
先程と同じく、音速に近い速さの刀が、今度は10本。2人の命を刈り取るべく、急所に目掛けて放たれていた。
先程は偶然にも、首を傾げたタイミングで刀が通った事で避けられたが、流石に10本ともなれば避けきる事は出来まい。カイデンはそう考えていた。
「「ふんっ!!」」
「はぁ……?」
しかし、カイデンの目論見は外れ、2人は飛んでくる刀を全て避けきった。一番近くにあった刀を弾き、残りの刀にぶつけて軌道を逸らす。
それは偶然とはもう、言い切れない事態。完全に見破られてしまっている、必然である。
「しまっ……!?」
カイデンが慌てて逃げようとしても、もう時すでに遅し。
2人の身体は既に、カイデンに攻撃を当てられる射程圏内に入っていた。
「「【刀剣拳法】、奥義っ!」」
2人の言葉が揃い、カイデンは急所だけは防ごうと、手にしている2本の刀を使って防御姿勢を取る。
「「【雷天】!!」」
サビキは上から、トカリは左から、それぞれカイデンが守りのために使う刀に、蹴りを叩きこむ。
叩きこまれた刀から振動が伝わり、カイデンの手はじりじりと麻痺してしまって、刀を落としてしまった。
「痺れっ……?!」
いくら悪魔であろうとも、刀を手にして、その刀に直接蹴りをぶつければ手が痺れる。
そして、いくら刀を自由自在に操れようとも、この瞬間だけは"カイデンは無防備である"。
「「喰らえ~!!」」
そして、その無防備なカイデンに、2人は拳を剣のように鋭く尖らせた気を纏わせると、カイデンの身体を真っ二つに切り裂いた。
「かはっ……!? まさか/私の身体を真っ二つにする/そんな猛者がこの世界に現れるとは!
‐‐‐‐やはり闘争とは/こうでないとっ!」
カイデンはそう笑いつつ、周囲に飛び散っていた刀を集める。そして、自らの身体に"ぶすりっと、突き刺した"。
「この形態になるのは/久しぶりだね」
刀が突き刺さったカイデンの身体は、真っ黒に染まって行く。それはまるで、刀を突き刺すことで黒く染まる、樹木のようであった。
「さぁ/第2ラウンドを始めよう」




