第174話 さぁ、出陣の時間だよ配信
それから3週間後。そろそろ夏の暑さを感じるようになって来た頃。
シュンカトウ共和国の兵士達から、私のもとに報告が上がって来た。
----シガンの森に居る『闘争のカイデン』が、森の外へ出ようとしているらしい。
監視役の兵士達の報告によれば、シガンの森に設置しておいた魔道具【盆栽メーカー】が破壊され、カイデンの支配領域の証たる黒い木々の範囲が広まっているんだそうだ。
『闘争のカイデン』は木々に剣を突き刺して、領域を広めるという方法を取っていた。
あの森には岩や池などもあったが、剣を突き刺していたのは木々だけだったため、"木を媒介として領域を広げている"のだと判断した私は、その対策として、私は魔道具【盆栽メーカー】を提供した。
魔道具【盆栽メーカー】は瞬時に大きな木のようなレプリカを作り出し、専用の道具がないと木々を切り倒せないという利点があり、それ故に『木々に剣を突き刺して自身の領域を広げる』という、カイデンの領域を狭めるのに役立つと思った。
その思惑は確かに役立ち、カイデンの侵攻を3週間近く遅らせることに成功した。【盆栽メーカー】が作り出した木々のレプリカは、剣を突き刺そうが何も変化はなかった。
しかし、カイデンは別の手を打って来た。
カイデンは木を切り倒して、それを投げたのだ。
投げられた木は、【盆栽メーカー】によって作られた木のレプリカの近くに落ちた。そして、その落ちた木にカイデンは剣を突き刺して領域を広げた。
領域を広げる媒介は木でなくてはならないが、木であれば、別に生木でなくても構わないらしい。
このようにして、【盆栽メーカー】の領域を抜けて、カイデンはこのイスウッドに迫って来てるのである。
まさか、そんな技を使って、領域を広げてくるとは思ってなかった。
反省すべき……いや、魔王様の配下とやらを3週間近く、足止めできたのを褒めるべきだろうか?
「「それじゃあ、行ってきます!」」
そして今日、サビキ元王女とトカリの2人は、カイデン退治に向かう事になった。そもそも、カイデンを退治するために、今日この日まで訓練してきたのだから、当然と言えば当然なのかもしれないけれども。
カイデンの所に行くのは、この2人だけ。
そもそも、カイデンは『剣攻撃でしか戦えない』、そして『剣攻撃は効かない』という厄介な特性を持っているからこそ、2人は倒すための修行をしていたので、逆に人が増える事はこの場合は足手まといでしかない。
「スカッシュ訓練法、超高速クリアしたって本当?」
「はい! 慣れればいけるのでして!」
「水中よりも遅いから、いけるのだ!」
なんとこの2人、私が嫌がらせ目的以外の何物でもない要素として入れておいた、あの『超高速モード』というマッハの速さで発射される野球ボールを避ける事すら出来るという。
そういえば、音の速さは物質の種類によって異なり、空気中で伝わる音よりも、水中の方が速いと聞いたことがある。
空気中での音の速さは、毎秒約340m。いっぽう、水中での音の速さは、毎秒約1500m。
簡単な計算だと、水中での音の速さは、空気中でのおよそ4倍から5倍程度に相当する。
私が作り出したマッハで発射する『超高速モード』は、あくまでも空気中での音の速さを参照している。水中での音の速さに慣れている魚人族の2人にして見れば、私が設定した『超高速モード』は遅い、という事だろう。
いや、だからって、マッハの速さで射出される野球ボールを避けられるかって言えば、別の話だけど。
というか、トカリは私の合宿以前は、貴族の三男坊のごくつぶしで、運動とは無縁の生活を送っていたはずなのに、なんでここまで成長しているんだか。私としては、サビキ元王女よりも、コイツの成長率の方が異常を感じるね。
「では、2人の成長を確かめるため、こいつに頑張ってもらいましょう」
今すぐにでも、シガンの森に行こうとするサビキ元王女とトカリの2人。
しかし、その前に。ちゃんと【刀剣拳法】を身につけたのか、私はその確認のため、コイツで確かめたいと思う。
「カモン、【カゲミツ】!」
「イエス、ボス」
私がそう指を鳴らすと、私の目の前に赤い髪のイケメンが現れる。
その赤い髪のイケメンの頭には狐耳が生えており、お尻からは9本の狐の尻尾が生えていたのであった。
「刀剣搭載型ゴーレム、カゲミツ君だ。
----さぁ、どれくらい強くなったのか確かめさせてくれ」
(※)刀剣搭載型ゴーレム【カゲミツ】
名刀【森嵐】を使って作った刀剣搭載型ゴーレム【ムラマサ】の、後継機。今回は核として、妖刀【厄狐丸】を使っている
サビキ元王女、そしてトカリの2人の成長を確かめるために用意したゴーレム。ムラマサと同じく"拳法"と"刀剣"、2つの性質によって戦う近接格闘系統のゴーレム
今回はススリアが作った妖刀【厄狐丸】を使っている。本来は名刀【森嵐】を作ったタラタちゃんに新しく作ってもらう予定だったが、ムラマサが倒されたのをまだ引きずっているらしく、ススリアが代わりに作ることになった