第172話 いま必要な魔道具と料理配信
「ふむふむ、なるほどなるほど」
ムラマサから送られてきた情報を読み取りながら、私はカイデンについての情報を読み解いていく。
ムラマサの攻撃が効いたという事は、サビキ元王女とトカリの2人もこのまま学んで行って良いのだろう。あのムラマサは、【刀剣拳法】をモチーフに生み出したゴーレムだからね。
カイデンが悪魔だって事を聞いて、神聖術も使わないのかと思ったけれども、どうやらそういう感じはないみたいだからそこは嬉しい。
ただ、問題なのは----ムラマサがやられた、目にも止まらぬ速度の剣の投擲。
あの時はただ真っすぐに放たれただけだが、重さもコントロールできるとするならば、上へと飛ばして頭上から雨のように降らせるという戦法だって出来るはずだ。
雨粒の代わりに降ってくる、破壊力を増した剣の雨とか、想像するだけでも恐ろしい能力である。
「ムラマサが感じたという"皮膚の上を虫がうじゃうじゃと這う感覚"というのが、【お互いに剣でしか戦えない】という呪いの正体だとしたら、防虫剤のようなモノで対処できるか?」
もしも、その虫たちが"剣攻撃以外をしたら、動かないようにする"という呪いの正体だとすれば、虫を追い払う防虫剤のような代物を作れば防げるだろうか?
……いや、あくまでもムラマサは『そういう感覚』だったというだけで、実際は虫ではなかったのかもしれないし、そう考えすべきモノでもないかもしれない。
「やはり【刀剣拳法】にて、あのカイデンの投擲術をなんとか掻いくぐり、攻撃するしかないか」
しかし、どうすれば良いだろう?
敵は、刀剣を放つことが出来る悪魔。
一方でこちらは、戦闘方法が1つに固定されてしまった状態で、ほぼ近接戦でしか戦えない。
「----だとすれば、取れる手段はこれが最善か」
いまから私は、ピッチングマシーンを作る!
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
----マスターが、また何か変なのを作ろうとしてる。
私はマスターのために差し入れのうどんを届けながら、そう感じていた。
「秘技【無限紡績】!」
なんか秘技とか言いながら、マスターが一心不乱にボールを作っている。野球ボールというのを作って行く。
ゴムのようなモノを芯にして、あるいはコルクのようなモノを芯にして、革で包んで糸を使って縫い合わせている。
出来上がって行くのは、大量の野球ボール。数十個、数百個という"些細な数"ではなく、数千、あるいは数万という大量の野球ボールを、我がマスターは作り出していく。
そして、部屋の奥には、それを発射する装置が置かれていた。
野球ボールを超高速で発射する魔道具【ピッチングマシーン】。私の知識の1つとしてある、打撃練習する際に用いられる魔道具であった。
球速や球種を自由自在に変化させる魔道具に良く似ていたが、1つだけ明らかに異なる点があった。
それは、"翼"である。
魔道具【ピッチングマシーン】には、動かないように土台があったり、銃のように発射するモノもある。しかしながら、翼があって、常に浮遊するのは記録になかった。
明らかに本来の用途である、野球に使うために作っていないのは、事実である。あんな翼があると、ピッチャーが投げるホームベース以外から投げるように作っていると考えるのが自然でしょう。
浮遊する魔道具【ピッチングマシーン】は、マスターの後ろを追いつつ、マスターが高速で作り上げた野球ボールを1つずつ収納して行く。
「(あれがどのようなモノになるかは分かりませんが、マスターが作ってくれる魔道具ならば、役立つモノなのでしょう。それならば、家事担当である私は、マスターを支えるのが仕事です)」
あのペースですと、確実に野球ボールの材料が足らなくなる。
野球ボールを作るのに必要なモノは、芯の代わりとなるコルクとゴム、芯を覆う革、そして縫い合わせるのに必要な糸。
糸やゴムに関しては在庫は多めでしたが、革に関しては少し在庫が乏しかった気がする。
「マスターはいま、製作の真っ最中。でしたら、追加で取っておくことを指示するのは、何も問題はないはず」
私はそう思い、素材回収担当であるデルタとアレイスターの2人に、多めに革の素材を取っておくようにお願いしておいた。
マスターがいくつ、あの野球ボールを作りたいのかは定かではありませんが、マスターのあの熱量からして見て、大量の素材が使われるのは容易に予想がつきます。でしたら、早めに取り揃えておこうというのは何も間違ってはいないはず。
「さて、差し入れは温かくて身体にもいいうどんにしていましたが、あの様子でしたら片手でサッと食べられるようなサンドイッチ系の差し入れが向いてそうですね」
私はそう察すると、早速サンドイッチの作成に取り掛かるべく、台所へと戻るのであった。
----サンドイッチはあまり好きではないんですがね。
カツサンドやタマゴサンドといったお腹に溜まるサンドイッチ系だと、汁がこぼれるなどして、ああいう作業中に食べるモノとしては向いていない。
だから、ハムサンドといった、こぼしてもまだ被害が少ないサンドイッチを作るんだけれども、これだとマスターの胃を満たすことが出来ない。
だからこそ、温かいうどんを差し入れしたというのに。
「まったく……。作業が終わりましたら、いっぱい、それこそ腹が千切れるくらい満たして差し上げますね? マスター?」
そうして私は、サンドイッチの調理に取り掛かるのであった。




