第168話 闘争のカイデンは召喚された?【考察しようよ配信】
「----っ!」
「ていっ! ----トカリさん、呼吸してなかったですよ」
「----うぐっ!」
「とぅっ! ----サビキ様、呼吸忘れてましたよ」
はいっ、サビキ元王女とトカリさんの特訓はまだまだ続いていた。
2人1組となって、片方が気を集中させる。もう片方の相手は相手が気を集中しすぎて、人である事を忘れてしまった時に、そこから意識を元に戻すというのが役目である。
まぁ、端から見てたら、片方がヤバくなったら呼び戻すという、"叩いて被ってじゃんけんぽん"という遊びに見えるというのも十分に分かる。
----そして、その様子を配信を通して皆に見て貰ってる私が、一番ヤバイというのも。
「(いやいや! 私は何も間違っていない! 映像を撮るというのは、訓練において重要な事じゃないか!)」
どんな人間であろうとも、ずーっと長時間、集中し続けるというのは不可能である。人間である事を忘れてしまう可能性が高い、気を用いたトレーニングともなるとなおさら集中し続けるというのは難しいだろう。
だからこそ、私は1時間毎に休憩を取らせて、その休憩の最中に自分がどういう事をしているのかという事の確認のために撮影しているのだ。だからこれは、何も間違った事ではない……はずだ!
彼女達も納得してくれて、映像を撮っているのだから、何も問題はない……はずだ。
面白映像を撮ればファンが増えるかも知れないと、若干思ったのは、内緒である。
「さて、カイデンについての対処はこれくらいにして、私はどうしてカイデンが現れたのかを考えよう」
カイデンが現れたという、シガンの森に、私は何度かデルタちゃんを向かわせたことがあるけれども、いままで一度もカイデンと出会った事はなかった。
デルタちゃんの運が良くて、サビキ元王女たち一行の運が極端に悪かったという可能性もなくはないだろうけれども、私は別の可能性を考えている。
----闘争のカイデンを、誰かがあの場に召喚した、そういう可能性だ。
五本槍という大層な肩書きがついているが、カイデンは悪魔。
私が調べたところ、この世界には悪魔を呼び出すという黒魔術が存在しているらしく、恐らくだがカイデンはその黒魔術によってシガンの森に召喚されたのではないか。私はそう考えている。
もし仮にカイデンがどこか別の場所からシガンの森へと移動したとすれば、もっと被害が大きく出ているはず。カイデンは刀剣を樹木に突き刺して真っ黒にして、領域を広げていくんだから、スコティッシュさんのようなドラゴンによる空送だとしても、上からすぐに分かるはずだ。
しかしながら、シガンの森以外でカイデンによる被害が発生したという、そういった情報はないと、道場に居た親切なシュンカトウ共和国の兵士さん達が教えてくれた。
カイデンがシガンの森に入るまで暴れなかったという可能性も考えられるが、それよりもあのシガンの森の中が出発点である可能性が高いと、私はそう考えている。
----だが、だとすれば誰が召喚したのか?
悪魔召喚の黒魔術は、禁術として伝わっており、私もその召喚方法は知らない。というか、悪魔を召喚する方法なんて、誰が知っていると-----
「あっ……」
そこで私は、思い出した。
私が対峙した悪魔は、2体。
1体は、シグレウマル。私の弟子となっているフランシアさんの弟子入りのきっかけとなった悪魔で、いま現在はうちの泡立て器の動力として、料理に役立っている。
そして、もう1体。
魔女スタダムが使っていた人造人形マージ・マンジ。アイツは人形の中に、悪魔を入れたという事が、のちの検証によって判明している。
つまり、魔女スタダムは悪魔を召喚する方法を知っている。
冒険者組合の長であるスピリッツ組合長から、逮捕に協力してくれたという理由で、私は魔女スタダムの供述をいくつか聞いている。
その中には、『人造人形マージ・マンジは、悪魔を中に入れることで、自我を持ったような動きをさせた』と供述していたのだ。
彼女自身は、魔女として入れ替わった際の知識の1つだと言っていた。
私が連れていた自我を持って動くゴーレムを見て、悪魔を中に入れれば似たようなモノが出来るという判断で作ったのだそうだ。
悪魔を中に入れたという事は、きっと悪魔を召喚する方法を知っているに違いない。
「悪魔の召喚術がどういうモノか分かれば、それを検知する魔道具だって作れるはず。うまくいけば、悪魔を送還する魔道具だって作れるかもしれない」
これは、是非とも取りかかっておくべき事だ!
そう思った私は、すぐにスピリッツ組合長に連絡を取る。
確か、怪盗めしどろぼうとして王都に混乱をもたらした魔女スタダムは、王都にある牢獄に収容されたという話になっているはず。
その収容されている魔女スタダムに話を聞きたいと、私は闘争のカイデンの情報と共に、スピリッツ組合長に掛け合った。
私の要請はすぐさま通り、魔女スタダムとの配信会談----いわゆるリモート会議が開催される事になったのである。




