第165話 魔王ユギーの五本槍配信(2)
辺境イスウッドに向かうため、サビキ達3人組は国境近くの森【シガンの森】に近付いていた。
この森を抜ければ、辺境イスウッドに辿り着けるという所で、3人は森の雰囲気が明らかに変化している事を感じていた。
植物が違うとか、魔物が違うとか、そういった些細な違いなんかではなく、その森の中には濃密なる死の気配が色濃く漂っていた。
「ここ、なんかヤバそうな気配を感じるじゅる」
「えぇ、まさしくその通りなのだ」
ススリアにほんの少し指導を受けただけのトカリとジュレですら、なんとなく不穏な空気を感じるような森。今まで闘争に身を置いていたサビキは、2人よりもより強く、そして濃く、この森の不穏さを感じ取っていた。
「(なんなの、この森は? 不穏な、明らかにヤバイ気配が漂っている)」
恐る恐るサビキ達は、森の奥深くへと進んで行く。
そうやって進んでいるうちに、その不穏さが、きちんと目に見える形で、3人の前に見え始めた。
----剣である。刀である。刀剣である。
樹木1本につき、剣、もしくは刀がそれぞれ3本から5本くらい突き刺さっていた。その刀剣は逸品という訳ではなかったが、どれもがしっかりと作られており、そしてどれもが血塗れであった。
刀剣と樹木、ただでさえ不穏な雰囲気を漂わせているのだが、刀剣が突き刺さっている樹木はどれも真っ黒に染まっていた。
「なんだ、この黒い森林は……?」
「やばい場所なのだ。早く抜けましょうなのだ、サビキ様」
「まさか……いや、そんな訳はないじゅるよね?」
3人とも、刀剣から発せられる異様な圧を感じながら、早く抜けようと進んで行く。
----そして、奥へ奥へと進んで行って、遂にサビキ達はその根源に辿り着いた。
「おやおや? 見知らぬ人が/来ましたね。こんにちは/見知らぬ3人さん」
黒い樹木たちを抜けた先、そこにあったのは黒くも、ましてや近くに刀剣の1本も突き刺さっていない樹木たち。そんな樹木群が生える真ん中の広場に、刀を携えた謎の侍が立っていた。
その侍は藍色の和服を着た、2m近い大男。腰には2本の刀を携えており、顔の半分を覆う仮面には『闘争』という文字が書き込まれていた。
「あんたは、いったいここで何を?」
「なぁに/簡単な事です。呼び出されたので/命令を実行しているところです」
「こんな風に」と、仮面の侍は腰に携えていた2本の刀のうち、1本をひょいっと投げた。
----ぶしゅっっ!!
樹木に突き刺さる刀。そして樹木は3人が見て来たモノと同じく、真っ黒に染まっていく。
そして、真っ黒に染まった樹木を見て、嬉しそうにする大男を見て、3人はこう思った。
----あぁ、こいつが樹木をこんな風にしていた黒幕なのか、と。
怪しげな黒い樹木、刀剣、そして『闘争』の仮面の侍男。
サビキには詳しい事は分からない。しかしながら、こいつが悪者であるという事はすぐさま分かったため、自身の腕に水を集め、臨戦態勢を整える。
「あなた、名前は……?」
「これは/失礼しました。ヒトだろうと/悪魔だろうと/名前を名乗るのは/自己紹介の基礎/ですものね」
そう言って、仮面の侍男は頭をゆっくりと下げた。
「我が名は/【闘争のカイデン】。魔王ユギー様に仕える/五本槍の中で/『最も意地汚い者』と言われる者なり」
‐‐‐‐カイデンが名乗り終わるのとほぼ同時か、それよりも速く、サビキは行動を開始していた。
既に左腕に溜めておいた水で相手の元へと殴り掛かり、勢いよく水を噴射させながら、右腕で殴り掛かろうとして----
----行動が停止してしまった。
サビキ自身ですら驚いてしまうほど、カイデンを殴ろうとした右腕は空中でピタっと止まって、そのまま重力にひかれて落ちる事もなく、ただ無防備にカイデンの前に立っていた。
「何故、動かない……?!」
「隙ありですね」
相手の目の前で攻撃をしようとして、その場で動かない相手。
誰がどう見ても、"はい、殴ってください"と言わんばかりのその恰好に対して、カイデンは腰に携えていたもう1本の刀を抜き、そのまま斬りかかった。
「(やられるっ?!)」
----カンッ!!
しかし、それは金属音と共に、破られた。
「いてっ……!」
「大丈夫じゅるか、サビキ様!」
さっきまでピクリとも動かなかったサビキの身体はその場に尻もちと共に落ち、代わりにそこらの剣を拾ったであろうジュレが、カイデンの刀を防いでいた。
「ジュレさん! どうしてあなたは動けるの?!」
「私は魔王ユギーの研究をしていたじゅる! そして、闘争のカイデンの事も、もちろん存じ上げていたじゅるよ!」
力任せに刀を振るい、カイデンを弾き飛ばすジュレ。
そして、背後のサビキを庇いつつ、ジュレは大きな声で宣言する。
「こいつは闘争のカイデン! その権能は、『互いに刀剣以外での戦闘の禁止』! アイツの前では、刀剣以外を使った攻撃は無効化、それどころかペナルティーで動けなくなるじゅる!」
「へぇ~。よくご存じの/クラゲさんですね。‐‐‐‐という事は/これからどうなるかも/ご存じのはず」
カイデンの言葉に、ジュレはコクリと頷きつつ、
「サビキ様、それにトカリ! ここは私が食い止めるじゅる! ヤツは自身が定めた領域内以外では戦ってこないじゅる! だから、逃げれば勝ちじゅるよ!」
「わっ、分かったのだ! ほら、サビキ様! 逃げるのだ!」
「ほら、早く!」とトカリはアザラシ族の逞しい腕で、サビキを背負うと、そのままシガンの森から逃げるべく、走って行く。
そして、サビキは思った。
「領域内以外では戦ってこない」「逃げれば勝ち」、それならば何故、一緒に逃げないのか?
その答えは、すぐさまやって来た。
「良い判断だね。私が/誰か1人以上を殺さなければ/止まらないことを知りつつ/残るとは」
トカリに背負われながらサビキが見たモノは、一方的な虐殺。
ジュレの剣をカイデンは避けようともせず、身体で受け、その刀は身体をすり抜けた。
そして、カイデンの剣は、剣を振るった無防備なジュレの身体に、ぐさりっと、大きく斬りかかり、頭と身体を切り離す。
誰がどう見ても、ジュレは死んでいた。
そして、自分が庇われた事を知りつつ、サビキは復讐を誓うのであった。
あのカイデンは、絶対に自分が倒さなければならない、と。
(※)闘争のカイデン
魔王ユギーが配下、五本槍の1人。格闘ゲーム担当で、自称『最も意地汚い者』
読点を『/』で表す独特な口調で話す、仮面の侍。身体から無限に刀剣を出す権能を持ち、その刀剣を樹木に突き刺して、自身の領域を広げて、中に入った者を戦って殺すという行動をしている。なお、領域内から逃げようとするならば、誰か1人を犠牲にしなければならない。そうでなければ、カイデンは必ず追いかけてきて、無理やり戦闘をするよう迫って来るからだ
刀剣以外の攻撃をお互いに封じる特殊な条件を互いにかけ、お互いに刀剣での戦闘を強いりつつ、自らは刀剣の攻撃を無効化するという力を使い、一方的な戦闘で相手を叩きのめす悪趣味な悪魔である




