第158話 ワットが納品されたよ配信(1)
「シガラキ代表、こちらススリアさんから納品を受け取った、新しいゴーレムとなります」
「ご苦労だな、スコティッシュ」
ドラスト商会の代表、シガラキ・マホウサマは、"ついに来たか"と喜び勇んで、スコティッシュを出迎えた。
----ドラスト商会の食堂担当のゴーレム、ジュール。
彼女は、ススリアに頼んで作ってもらった、ドラスト商会の食堂の利用率向上のためのゴーレム。
ジュールが作ってくれたラーメンは、ドラスト商会のみならず、他の商会、さらにはお客様にも影響を与えている。そして、大きすぎる影響を与えてしまった。
彼女が作るラーメン、そのラーメンのうちどの味が一番おいしいかという論争が波紋を呼び、ドラスト商会だけではなく、他の商会内でも派閥同士の足の引っ張り合いが起こっている。
「味噌味の派閥だけで取引をまとめに行った」とか、「醤油味と塩味がぶつかり合って、商品が破壊された」とか、挙句の果てには「一番荷物が運べるドラゴンが"魚介スープ"味のラーメンを食べるまで仕事をしたくないと言っている」だの、その影響はあまりにも計り知れない。とりあえず、ドラゴンにラーメンの味を教えたバカ達には、厳重注意と減俸を叩き込んでおいた。
とにもかくにも、ラーメンの影響は凄まじすぎる。
シガラキ代表の方でも、その影響の緩和をするために、一度、ジュールに3日間ほどの休息をとって貰ったことがある。
----あれは、とても悪手であったと、今でもそう思う。
3日間の強制的なラーメン摂取不可の状況に、ドラスト商会内、だけではなく取引先や他の商会などがこぞって暴動を起こした。内容は、ジュールが作るラーメンが食べたい。
1日目はなんとかやりすごしたが、結局、ジュールの休息はたった1日半で終わってしまった。
定休日として1日毎に休みを入れて貰っているが、取引先の中には「今日取引を決めてしまっても良いが、今日はラーメンが食べられないので明日で」と、ラーメンを食べたいがために契約締結の延期を求めてくる始末。
「ラーメンが凄いのか。はたまたススリアが作る魔道具が凄いのか。……スコティッシュ、君はどう見る?」
「両方、じゃないかと」
「だよなぁ……」
ただ単に、ラーメンが美味しいという理由だけなら、別のラーメン店を作れば良いだけの話。
そうはならないのは、ジュールがあまりにも優秀過ぎるから。
客の顔を1人ずつ見て、『好み』、『いま必要な栄養』、『必要な食事量』を計算して、その上で商品を提供されてみなさいよ?
自分の事をちゃんと見てくれていると、ますますハマってしまうという循環の出来上がりである。
ジュールは貧富の差に関係なく、どんな人間だろうとも、その人にとっての一番のラーメンを作るので、彼女のラーメンにハマる人が続出。
彼女の経営は至極優秀なんだけれども、その影響力が凄すぎるのは困ったモノである。
「それで、依頼したゴーレムは何を作るゴーレムなんだ?」
「それが……ススリアさんからは『よーしょく』としか聞いておりません」
「ヨーショク?」
ラーメン特化型ゴーレムで失敗した以上、次も1つの料理特化型だと同じような損害が出るかも知れない。そう思って、なんの料理か聞いてみたのだが、返って来た言葉は『ヨーショク』。
確か、ススリアが養殖事業を始めているという話を聞いてはいたが、まさかそれ関連? という事は、お魚料理のゴーレム?
「あと、こちらのダンボールの上に書いてある文字をご覧くださいませ」
スコティッシュにそう急かされ、シガラキ代表はそれを確認する。
そこには達筆な文字で、このような文字が書き込まれていた。
【こちらの商品、【料理業務型アルファ・ゴーレムサポートシステム搭載型ゴーレム・モード"仕事率"】(以下、ワット型ゴーレム)を使用するお客様へ
以下の仕様書は、このゴーレムを使用する際の注意事項になります。必ずよくお読みの上で、ご使用くださいませ
〇起動する際、この紙の裏面の魔方陣を上にして、ダンボールの上に載せ、魔力を通してください
〇【アルファ・ゴーレムサポートシステム】を使った別のゴーレムを先にご購入されている場合、起動する際に近くに配置してください
〇【アルファ・ゴーレムサポートシステム】を使った別のゴーレムをご購入されていない場合、別途付属品である魔道具【即席配信装置】を使用してください。なお、魔道具【即席配信装置】を持ってない場合、購入してください
〇このワット型ゴーレムは料理業務を担当しているゴーレムではありますため、料理業務に使ってください。それ以外の作業に使わないでください
今回はワット型ゴーレムを購入していただき、誠にありがとうございます ~錬金術師ススリア~】
達筆な文字の裏には、良く分からない錬金術の模様が書き込まれていた。どうやら魔力を通すのはこの模様に通す仕様みたいである。
「なるほど、了解した。スコティッシュよ、いますぐジュールを呼んで来てくれ」
シガラキ代表の指示を受けて、スコティッシュはすぐさまジュールを呼ぶことにした。
----このワット型ゴーレムが、この現状を変える事を信じて。




