第157話 ジュールに負けないゴーレムを作ろう配信
スコティッシュさんからの提案の後、ベータちゃんを通して、ジュールに確認を取った。
【アルファ・ゴーレムサポートシステム】をお互い使っているから、互いの連絡がスムーズに出来るのは良い事だ。
ジュールからの話も聞いてみたところ、どうやらスコティッシュさんの話は本当、だったみたい。
ジュール視点から言うと、同じ味のラーメンを食べる集団がテーブルごとにまとまっていたり、別の味のラーメンを食べている人はそのテーブルに座ってはいけないという感じで、少々偏りが出来ているなーくらいのレベルの話らしい。
しかしながら、それとスコティッシュさんの話を合わせると、少々マズい状況になっているのは確かである。
世の中、争いのきっかけというのは、だいたいが、そんなに大したきっかけから始まっていない。
「おたくの食物が高いので、もっと安くしろ」とか、「あんなに大きな領土持っているのズルくない?!」とか、「こんな良い物を認めないとか、同じ人間じゃないでしょうが!」とかだの、互いへの理解力の差が争いごとに発展するのである。
お互いに「それは良い物ですね」と認め合っていれば、争いない、平和な世界で過ごせるのだ。
今回の話で言えば、同じラーメンというモノが好きなのに、好きな味が違うという事が、争いの火種になりそうな状況にある。
いま現在は、些細な足の引っ張り合い程度であるが、これがさらに発展してしまうと、本当に争いに発展してしまう。
「商いの国シュンカトウ共和国がその火種というのが、マズいよね……」
一番大きく考えられるのは、ボイコット。ストライキというヤツだ。
自分達の主張が聞き入れられない限り、相手は職場放棄という形で、仕事をしないという状況をされると、うちの国への流通なんかも止まってしまう。
私はスローライフ、ほぼ自給自足的な生活を送っているから影響は少なそうにも思えるけれども、そもそもの話、私が作ったジュールのラーメンが騒動の原因だと知られるとマズいよなぁ~。絶対。
「そのためにも、ラーメン一強のこの状況を変えるゴーレムを作らないと」
そもそもの話、問題としては"ラーメン以外、美味しいモノがない"という状況が問題なのだ。
シュンカトウ共和国を探せば確かに美味しいモノは他にもゴロゴロと出てくるだろうが、『手軽に』、しかも『安くて』、『美味しいモノ』という条件で探せば、ラーメンがピックアップされるというこの状況こそが、問題なのだと思う。
ラーメン、けっこう中毒性が高い食事だものなぁ~。
美味しいし、安くて手軽だから。
この状況を変えるには、ラーメンにはない味で勝負するゴーレムが必要となるだろう。
「(最初はただ食堂の利用率を上げるために作ったゴーレムが、争いごとのきっかけになるかもしれないって、ほんと、人生なにがあるか分かったものじゃないね)」
ラーメンの他にも、同じように『手軽』、『安い』、『美味しい』を満たすメニューはたくさんある。
ある……のだけれども、このまま同じようにやった所で、"ラーメン一強"の時代から、"ラーメンとその料理の二強"という時代に変わるだけだと考えた私は、全く別のアプローチを考えた。
ジュールを作ったきっかけは、スープやトッピングなどを変えるだけで、出来る限り楽に作れることを念頭に置いて作ったから。
しかし、あの時の私にはなくて、今の私にはある技術と伝手がある。
ドラゴンを使ったゴーレムであるアレイスター、彼女から取れるゲンエインジウム。
それから、治癒神のカンロ様の調印を貰っている、クラフトビール。
「よしっ、決めた! やるぞぉ!!」
こういうのは、一気にやるのが大事! 大事!
あとから「えっと、もう少しいいやり方があるよね?」とか、色々と考えても良い事なんてない。今回の事件だって、ジュールちゃんを作った結果起きた事件だけど、私、ジュールちゃんを作った時はこんな事が起きるだなんて予想できなかったし。
こうして私は、着々と新型ゴーレムの開発に取り掛かる事にしたのであった。
今回の開発で重要視したのは、多様性。ラーメン料理に特化したジュールちゃんと違い、メイン料理、サイドメニュー、それにデザートなど多種多様な料理を提供できるようにした。
無論、いくつもやりすぎてしまうと、今度はジュールのお株を奪う結果になってしまうため、その点に関しては配慮を行うとして----。
「よしっ、完成! こんな感じでいくとしましょうか!」
設計図を書き上げた私は早速、ゴーレムを作成り上げたのでした。
今回のゴーレムは、なんと分解可能! ゲンエインジウムを使う事で、特定の術式越しに魔力を流せば基の身体、性能を発揮するようにしておいた、超最新型である。
これから先、【アルファ・ゴーレムサポートシステム】搭載のゴーレムを納品するような事業が軌道に乗るとしたら、こういう風に分解可能にした方が、運びやすくて良いからね。
という訳で、私は分解したダンボールをダンボール箱に詰めて、スコティッシュさんに運んでもらうことにしたのであった。
後は頼んだよ、新型ゴーレムの【ワット】ちゃん!




