第156話 スコティッシュさんと、ジュールについて話そう配信
「ではこちらの、魔道具【ワッフルメーカー】の設計図。買わせていただきます、ニャ」
「はい、ではこちらを」
いつものように、私は魔道具【ワッフルメーカー】の設計図を、ドラスト商会のスコティッシュさんに売り払った。いつも設計図をドラスト商会に販売譲渡している私だが、今回の設計図に関しては、いつもよりお安めに販売しておいた。
というのも、魔道具【ワッフルメーカー】の需要は、さほどないと判断したから。
この魔道具、"フライパンを2つくっつける事"。そして"特徴的な格子状になるように凹凸をつける事"の2つをクリアすれば、ある程度似たような魔道具を作る事は出来る。
ある程度の錬金術師としての知識、そして私の配信を見れば、設計図なしでも魔道具【ワッフルメーカー】を作る事は簡単に出来るだろう。
それに、【ワッフルメーカー】自体の需要もあまりない。
この魔道具はワッフル作成に特化しすぎているから、他のお菓子に流用出来ない。ワッフル自体も、他のお菓子と比べると然程需要が高いとは言えないし、汎用性があるとも言えない。
「だから遠慮なく、この金額で了承してくださいね」
「ニャーハハハッ! 確かにこれはさほど大きな取引に使えそうにない、ニャア。正直な話、盟主様の命でなければもう少し考えさせてもらっていた、ニャアね」
……御用商人も、大変なんだな。うん。
「そういえば、ドラスト商会に納品したジュールはどんな感じですか?」
ジュールとは、私がドラスト商会の頼みで納品した、【アルファ・ゴーレムサポートシステム】搭載のゴーレムである。
ドラスト商会の食堂でいまは働いている、ラーメン魂に満ちたゴーレムであり、以前に聞いた話だとすると、かなり多くの人間にジュールが作っているラーメンは愛されているんだとか。
「(ただ、最近どうしているのかについては、まったく話を聞いてたんだけど)」
一応、【アルファ・ゴーレムサポートシステム】に中継しているから、ベータちゃんやガンマちゃんに聞けば自然と情報を把握できるんだが、それで把握できるのは、あくまでもジュール視点の話。
別の人からの話というのは、やっぱり合った方が良いと思うからね。
私がそう聞くと、スコティッシュさんは汗をタラ―ッと流し始める。なんか、すっごく話し辛い雰囲気を出しているんだけど……。
「(えっ、なに? ジュールってば、商人さんにそう思われるようなナニカをしているの?)」
私は「なにかやらかしましたか、うちのジュールが?」と聞く。
既にドラスト商会に納品済みとはいえ、ジュールはうちの商品。商品に問題があったのなら、アフターサービスとかで対処するのは、錬金術師として当然の反応である。
「いえっ……その、実は……ラーメンで国が分かれる事態になりまして」
「えっ? 国が?」
どういう事かと話を聞くと、うちのジュールちゃんが作ったラーメンは国中をあげて、大ヒット。その売り上げで、ドラスト商会は食堂部門でかなりの黒字になったらしい。
----問題はその後。
ジュールが作るラーメンが好きな連中が増えると、彼らは「ラーメンが好き。その中でも特にこの味が好き!」という話に発展し、それが商会規模の大問題に発展しているのだとか。
ラーメンが流行った影響で、「自分は塩味派」だの、「私は味噌味しか認めない」だの、自分の好きな味が一番という派閥が出来てしまった。そして、同じ味が好きな者同士だけで組むようになり、ドラスト商会内でも5つ近くの派閥が出来てしまい、正直、困っているんだとか。
「"この商品を売るには、この商人がいると便利~"みたいなのも、派閥が出来てからは頼み辛くなりました、ニャ。果ては、ドラゴンと味が好みが違うという理由だけで、ドラゴンに乗れなくなってしまった者も居まして……」
「ドラゴンですら魅了しちゃったか、うちのドラゴン……」
ともかく、うちのジュールのラーメンがあまりに旨すぎるせいで、シュンカトウ共和国が大変になっているんだとか。
「(ラーメン一強がマズかったか……)」
ドラスト商会の、食堂の利用率を少し上げる程度という問題であったから、ラーメンしかメニューがないという方向でいたんだけれども、まさかラーメンでそんな風になるとは思いもしなかったなぁ……。
「なんとか、なったりします、ニャ?」
「今すぐは無理ですかね……ジュールはラーメン特化で作ってますので」
魔道具【ワッフルメーカー】と一緒だ。初めから『〇〇を作る事に特化』という形で作っているので、後から別の機能を追加するとかがし辛いんだよね……。
そもそも、ラーメン作り以外をするように向いていないというか。そういう風に作っていないというか。いまさら、ラーメン以外を作るように改造するのは無理というか。
「そのために、今日はうちのシガラキ代表からお願いがありまして----」
「そのお願いって、まさか……」
私が身構えていると、スコティッシュさんからこう提案されたのだった。
「----新しい、ジュールさんの代わりとなる料理用ゴーレムを作って欲しいんだ、ニャア」
……えっと、ジュールを作る時点でかなり考えたので、それはかなり難題だな。うん。




