第151話 イプシロンちゃんは海賊っ娘配信
イスウッドの村役場----それは、山近くに作られた平屋建ての建物。
今から数世代前の人々によって建てられたこの建物は、長い間雨風に晒されたことにより、かなりぼろぼろの状態にあった。
一部の柱は雨に侵食されてしまっていて、根元部分が腐っている。
床には穴が開いていて、さらに厄介なのはハウスイーターが住み着いている事。
ハウスイーターとは、白アリのような魔物で、建物を少しずつ食っていく恐ろしい魔物であり、強さ自体はスライムと同レベルと弱いのだが、とても小さくて、数が大勢いる事から当時の人々はこの建物の破棄を決めたのである。
「(一部、改装を施せば、十分に作り直せるだろう)」
よし、それじゃあ早速、改装を施していきましょうか。
「----という訳で、早速手伝ってもらいましょうか! シュンカトウ共和国の兵隊の皆さん!」
「「「「「了解しましたっ! ススリア師匠っ!」」」」」
私の指示の元、シュンカトウ共和国の兵士達が大工道具を持って、集まってくれた。
彼らは、道場にて修行中の兵士達である。道場の兵士達は、私が師事する代わりに、私のお願いを聞いてもらうという責務がある。
私としては、彼らに指導する必要はないんだから、その見返りというモノだ。
私が道場から改装のお手伝いとして引き抜いたのは、合計10名。
ただ力自慢というだけで呼んできた人達5名と、多少は大工仕事が出来る技術がある5名----その2班で、今回の改装を手伝ってもらってるという訳である。
「それじゃあ、こちらの運搬をよろしくねぇ~」
「「「「「了解しましたっ! ススリア師匠っ!」」」」」
「そして、運搬した後にこの設計図通りにお願いしますねぇ~」
「「「「「了解しましたっ! ススリア師匠っ!」」」」」
……よしっ、これで改装の方は大丈夫だろう。
「という訳で、こんな感じでどうだろうか? 【イプシロン】ちゃんよ」
私の視線の先には、先日作り上げたばかりのイプシロンちゃんの姿があった。
海賊帽子を被った、眼帯をしている海賊姿の青髪の美少女。
袖を通していないジャケットを羽織っており、身体には色々なチェーンアクセサリーをつけていた。
「----アーハハハッハハ! 任せておきたまえ、ススリア船長!
このイプシロンちゃんの手により、最高級の養殖業をさせていただきましょう! 大船に乗ったつもりで任せるが良かろう!」
----はい、この偉そうな海賊美少女が、私が今回作らせていただきました、イプシロンちゃんである。
眼帯の下には魔道具【管理者の瞳】。腕には体内で作った餌を射出する大砲を取り付けており、その他にもこの元村役場に取り付ける漁場管理施設に直接、接続機能しており、いつでも養殖準備をする体制ばっちりである。
「このイプシロンちゃんの手にかかれば、七つの海を制するのは時間の問題! そう、世界はイプシロンちゃんの手の中にあるっ!」
「いや、別に海の制覇とかは考えてないから大丈夫だよ……」
まぁ、多少キャラが濃い性格にはなってしまったが、許容範囲内というか、これくらいの味付けは必要だろう。
「さて、ススリア船長よ! 私はイスウッドの森に行きたい! 是非、同行者の選定を頼むっ!」
「森に行きたい……? 何しに?」
「決まっているだろう、それは! 我が養殖せしサモーンの餌に相応しき食物、この手で見定めたいと思うのは何も変なことではなかろう!」
……まぁ、確かにサモーンのブランド化は、いずれしたいなーとは考えていたけれども。
そんなすぐに、そのブランド化を始めてくれるとは、嬉しい限りですね。
「分かった。ちょっと待っててね、デルタちゃんを呼んでくるから」
「デルタ嬢の助け? 不要である!」
----バンッ!
ジャケットの裾をぶわっと浮かせ、イプシロンちゃんは高らかに宣言する。
「私が欲しいのは、私の配下として、私の手助けになるモノ! ガンマ嬢の強さは分かるが、借りられるのは所詮は一瞬の、刹那の間だけ。それでは信頼関係を築くことはできない!
私が欲するは、忠心! 私と共に、船長のための養殖を作って行く配下たちを、求めたいのである!」
……つまり、どういう事?
「要するに、何人か配下が欲しいので、それを作れる能力もください!」
えぇ~、そんなぁ~。
うわっ、めちゃくちゃ面倒臭い事を言いだしたよ、この人ったら。
「だったら、簡易的とは言え、ゴーレムを作る魔道具がある」
魔道具【焔のカンテラ】----ゴーレムの核代わりに、人魂型の魔物を使役するカンテラの魔道具である。人形の頭に、人魂型魔物を入れれば、自身の配下の出来上がりだ。
「死霊術の一種のようなモノだから、あまり良くない対応をする人もいるので、気を付けてくれ」
「恩に着るよ、船長! この魔道具で、私の、イプシロン船団を旗揚げだぁ~!!」
……うん、頑張ってね。イプシロンちゃん。
(※)イプシロンちゃん
ススリアが新たに作ったゴーレムが1体で、正式名称は『養殖業特化型アルファ・ゴーレムサポートシステム搭載型ゴーレム・ナンバーε』
元々は、魚の生態を把握するための魔道具【管理者の瞳】が、人形みたいに見えるから眼帯で見えないようにした結果、海賊のような姿になってしまった
海賊姿になった結果、船員を求めるようになってしまった。あとで、ススリアちゃんの方から、ゴーレムを作り出す魔道具【焔のカンテラ】を渡して、自ら船員を作るように言われてしまっていた




