第150話 鮭の良さを語って行くぞ配信
鮭とは、赤い身が特徴の、白身魚である。
……分かっている。赤い身なのに、白身魚とはどういうことなのかっていうね。
この世の魚は、『白身魚』と『赤身魚』の2種類の2つに分けられる。
これらは身の色ではなく、成分によって分けられる。色素タンパク質の量が多いか少ないかの違いとかもあるが、要は筋肉の違いである。
マグロやカツオ、アジなど、泳ぎ回るために持久力が高い『遅筋』という筋肉を持っている。人間で例えたら、長距離ランナーに必要な筋肉の持ち主である。
いっぽうでタイやヒラメ、フグなど、瞬発力の高い『速筋』という筋肉を持っている。普段は泳ぎ回らず、餌を捕まえたり、敵から逃げたりするなど、人間で例えたら、近距離ランナーに必要な筋肉の持ち主である。
養殖において、最も大切な事。それは、魚にストレスを与えない事。
マグロやカツオなどの赤身魚は、ずーっと泳ぎ回っている魚だから、養殖の際もそれだけの広い漁場が必要となって来る。
いっぽうでタイやヒラメ、そして今回養殖を行おうとしている鮭などは、普段はジッとしている魚なので、赤身魚と比べるとそんなに広い漁場を必要としないのである。
さらに、鮭を選んだ理由は他にもある。それは、増肉係数の低さだ。
増肉係数というのは、魚が1kg太るのに必要な餌の量の事。
たとえば、マダイの増肉係数は『2.7』と言われている。これはマダイが1kg太ろうとするのなら、餌を2.7kg用意しなければならないという事だ。
一方で、我らが鮭の増肉係数は『1.2』。つまり、たった1.2kgで1kg増えるという事である。
白身魚だから、赤身魚と比べると狭い漁場で大丈夫。
増肉係数も『1.2』と低く、餌の量を抑えれる。
そして鮭を使った料理のレパートリーも、照り焼きやムニエル、ホイル焼きやクリームシチューなど多種多様な料理に使うことが出来る。
----だからこそ、私は鮭を養殖する魚として選んだ、という訳だ。
「(鮭が軌道に乗ったら、高級魚の代表格たるフグとか、あるいは赤身魚とかやってみても良いかもね)」
まぁ、流石の私も、前世で養殖は見ただけだから、あくまでも手探りスタートだから、まずはやりやすいであろう鮭から試して行こうという訳だ。
「マスター、これがその鮭の稚魚、という訳でしょうか?」
「この世界だと、ホワイトサモーンという魚で呼ばれてるらしいよ。ベータちゃん」
私はベータちゃんと共に、氷漬けで運んできたホワイトサモーンと呼ばれる、この世界における鮭の稚魚を確認する。
鮭が赤いのは、食べている餌が、赤く色付く色素物質を多く含んでいるからなのだが、この世界のホワイトサモーンと呼ばれるこの魚が食べる餌は、その色素物質をあまり多く含んでいないようである。
まぁ、その代わりに、身が黒いブラックサモーンやら、身が緑色のグリーンサモーンと呼ばれる魚がいるらしいのだが、これぞ異世界、というものだろう。
ちなみに、身の色で区別されているが、実際は全く同じ魚であり、食べている餌の違いで身の色が変わってくるのだとか。
「この魚の身を、赤くして、食卓に並べたり、あるいは売り出したりするおつもりで?」
「あぁ、別の世界の話になるが、『かぼすぶり』と呼ばれ養殖の魚がいたらしく、そんな感じで作れたらいいなと思っているよ」
かぼすぶりというのは、餌にカボスを加えられたモノを食べて育った、ブランド魚と呼ばれる魚。
カボスに含まれているポリフェノールやビタミンCといったものなどの抗酸化作用により、血合肉の鮮やかな色が通常の養殖ブリより20時間持続するというだけではなく、味もさっぱりしていて、脂っこくないのが特徴の魚である。
養殖魚の特徴として、こだわりの餌を与える事で、ブランド魚として売り出せることだろう。
私が育てるサモーンも、そういった要素を取り入れていきたいと思っている。いずれは、この王国、もしくはシュンカトウ共和国などの外国で売るのも一つの手かなと思っていますので。
「まぁ、どう育てるかは、イプシロンちゃんの判断にお任せだね」
「そのイプシロンちゃんとやらを育てる目途は、立っているんですか? マスター?」
データ解析や処理などは、既にガンマちゃんによって完了済み。
必要な機能も、だいたいが設計完了済みである。
今回、イプシロンちゃんに必要な機能は4つ。
----餌や水温など、魚の生育を把握するための魔道具【管理者の瞳】。
----材料から餌を丸めて生成する、餌生成機能。
----丸めた餌を射出する、餌射出機能。
----適正時期を見極めてこちらに通達する、通信を行う魔道具【通信者の耳】。
「正式稼働はもう少し先だが、既に出来ているよ」
今はまだ、施設の準備が出来ていないからね。
イスウッドの元村役場を格安で購入したので、後はサモーンを養殖するための施設さえ用意できたら、イプシロンちゃんの正式稼働だろう。
「さぁ、とっととサモーンの養殖場を作っていきましょうか」
そうして私は、早速サモーンの養殖場作りを開始したのであった。




