第148話 ついに、ペンギンは戦う【VSサビキ王女配信】
合宿8日目----つまり、『サビキ王女討伐作戦』という合宿を終えた翌日。
私、ペンギン族族のアデリィと、サビキ王女の戦いの日を迎えた。
「今日はぁ~、いつもとは違う相手にちょっとだけぇ~、ワクワクですねぇ~」
サビキ王女はそう言って、笑っていた。
「いつもの騎士団長の方が良かったですか?」
「いいえ。どうせ、勝敗は変わらないのでぇ~」
どうやら、私も、そしてあんなに頑張っていつも戦っていたズワイ騎士団長ですら、彼女にとっては、ただの『敗北を認めさせる相手』にしか過ぎないらしい。
私が、他の9人が、ススリア教官によって、『サビキ王女を倒す』という目的で、訓練をしていることは、とっくに筒抜けに違いない。
それでもなお、彼女は警戒も何もしていない。まるで、どんな訓練を受けようとも、自分を倒すのは無理だと思っているかのように。
「(それも当然と言えば、当然ですか。今まで私は、なんの訓練を受けていない、ただのペンギン族の娘だったんですから)」
たかが1週間訓練した所で、自分が負けるとは思っていない。
----それこそが、私にとっての勝機です!
「ただいまより、サビキ王女陣営とリイル王女陣営のプロレス勝負を取り始める!
サビキ王女陣営代表、サビキ王女! リイル王女陣営代表、アデリィ! 正々堂々と、海竜リヴァイアサンに恥じぬ戦いをとり行うように!」
審判の声が聞こえると共に、私達の、プロレス勝負が始まった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
先に動いたのは、私の方だった。
私は平地を走る時のように、腕を大きく振り、足を大きく上げて、サビキ王女に迫る。
それに対して、サビキ王女は何もしない。
腕をだらーんと下に垂らして、脱力している姿勢にしか見えないが、あれが彼女なりの防御策。
相手がどう動くかを見極めるため、ただそれだけに集中している。
「(私の行動を見た後でも、しっかりと防御が間に合うと確信しているからこその姿勢。今まではただだらんと脱力しているだけにしか見えなかったけど、訓練を受けたからこそ分かる! あの姿勢が、サビキ王女の防御姿勢!)」
初手は防御に回るという事は、ススリア教官も言っていた。
相手はチャンピオン。防衛すれば良いだけの人間であり、それだけの実力もある。
1週間特訓していた私達を警戒して攻めるよりも、相手がどういう特訓をしていたのかを知るために、防御に回るというのは想定通りであった。
「(----次は、どこまで私達の訓練を知っていたのかの確認!)」
脱力して、こちらの動きを見ているだけのサビキ王女の顔に、私は手を向ける。
----シュッ!
私は、手から水を放出する。鉄砲魚拳の壱の型【水流放出】である。
放たれた水は、サビキ王女を思い浮かべるかのように、水の光線となって放たれていた。
「----?!」
私が水を放って来たのを見て、サビキ王女の顔に一瞬だけ見えた驚きの表情。
アレは恐らく、私が放てるのを"知らなかった"、もしくは"聞いていたが出来るとは思ってなかった"のいずれか。
どちらにせよ----私の攻撃は、彼女の意表を突くことに成功したみたいである。
「----次はこれ!」
そして私は、続いて参の型【水手裏剣】を用いて、水で生み出した手裏剣を3発放つ。
「ただの手裏剣にしただけならぁ~、どうって事ないよねぇ~!」
サビキ王女はそう言って、自らに迫る手裏剣状の水の塊を、水で撃ち落としていく。
しかしながら、私が放った手裏剣は、水にで撃ち落とそうとされようとすると、サビキ王女が放った水を"吸収して"、そのままサビキ王女へと襲い掛かって来た。
「へぇ~! それじゃあ、これで!」
サビキ王女は、腕の噴出口から水を調節し、そのまま鋭利な刃物の形にして固定。その固定した刃で、手裏剣を真っ二つに切り裂いた。
----しゅーっ。
切り裂かれると共に、水手裏剣はただの水となり、その場にこぼれていった。
「いやぁ~、まさかペンギン族が、私のテッポウウオ族の技を使うなんてねぇ~! 驚きだよぉ~!」
パチパチパチ!
拍手をして、喜ぶ様子のサビキ王女。
「さしずめ、私と私との対決、ってな所かなぁ~? いやぁ~、嬉しいよぉ~!
----なにせ、あなたを倒せた時には、私は"いままでの自分"を越えたという、証明だから!」
サビキ王女はそう言って、両腕に、水の刃を固定して生み出し、接近戦の構えを取る。
私がこれからどういう風に水を発射したとしても、全てあの刃で切り裂かれる。
私も接近戦で向かえば、戦闘経験の少なさにより、サビキ王女が勝つのは、間違いないでしょう。
「まったく……ここまで予想通りです!」
「なに、それはどういう……」
その時、サビキ王女は気付いた。
自分の足元から、上に、どんどん氷が登って行く事に。
そう、自分の身体が、どんどんと凍っているのである。
「今まで私がお見せしたのは、サビキ王女を模した拳法----鉄砲魚拳。
そして、この氷こそ、ペンギン族の性質を宿した、新たなる拳法。私だけしか使えない、その名も『鉄砲魚拳・片吟式』! 凍らす力からは、誰も逃れられないっ!」
サビキ王女は、焦った。同時に、久方ぶりに血沸き肉躍っていた。
何もできない。魔法なし、武器なしのプロレス勝負において、この技から逃れる術を彼女は持っていなかった。
「(恐らく、3発投げた水手裏剣----あれを切った時に、落ちた水を使ったのね。私の足元に落ちた水、それに"凍てつく大地でも生きる氷の力"を宿すペンギン族の力を加える事で、"自由自在に凍らせる水"を会得した。今の彼女は、私のように水を飛ばし、そして自分の好きなタイミングで凍らすことが出来る!
水を発射する私の力では、彼女の氷の力を跳ね除ける事が出来ない……まさしく、打つ手なしね)」
身体がどんどん凍る中、サビキ王女はワクワクしていた。
「(あぁ! これでようやく王位を捨てて、自由に生きられる! 冒険が私を待っている!)」
サビキ王女は元々、王位に一切興味がない。
弱肉強食を謳うこの国のせいで、今まで王位を破棄し、外に出られなかっただけなのだから。
「(そして、見つけた! 私をワクワクさせるモノが!)」
そして、彼女は、凍り付く身体の仲、彼女をじっと見つめていた。
たった1週間ぽっちで、私を倒せるほどの極上の強者を生み出した女----錬金術師ススリアを。




