第147話 ペンギンは、自分の力を信じる【応援? 洗脳ですねこれは……配信】
サビキ王女の力を技術体系にした戦い方、鉄砲魚拳というやり方を教わったのが、合宿生活3日目。
それから2日後の、合宿生活5日目の日の朝。私は教官のススリアさんに、1人だけ呼び出された。
「さて、ペンギン族のアデリィちゃん。昨日で、どこまで進みましたか?」
「はいっ! 放った水を別の形に変える【水手裏剣】まで会得出来ました!」
教官が技術体系とした、鉄砲魚拳。教官はこれを6つの技として、体系化した。
----壱の型【水流放出】。身体の中で魔力を操作し、"空気中の水蒸気を水に変える"と"水を勢いよく放つ"の2つを組み合わせる事で、大量の水分を放つ技。
----弐の型【水龍跋扈】。放った水の流れを操作して、相手を攻撃して行く技。水の流れを操作をするという事で重要となってくる技。
----参の型【水手裏剣】。水の形を変え、手裏剣のようにして放つ技。水の形態を操作するという事で重要となってくる技。
----肆の型【水魚之舞】。放った後の水を操作して、相手にぶつける技。水の中の魔力量を調整したり、完全に体外から離れた水を操作するなど、コントロールが必要となってくる技。
----伍の型【水神激怒】。水の勢いを操作して、勢いが違う2種類の水流で攻撃する技。水の勢いをコントロールする技であり、勢いの変化が必要となってくる技。
----零の型【激流化身】。身体の中を魔力を操作して巡回させ、身体能力を向上させる。これを使うと、私達の活動時間を1時間から、1時間半に出来る基礎中の基礎の技。
私達はまず、零の型【激流化身】の習得から始めさせられた。これは、全ての基礎となって来る技であり、これを使っていれば私達の当初の活動限界である1時間から、1時間半まで出来ることが出来たのである。
その後、壱から順番に学んでいたのだが、私は皆が壱か弐の取得で留まる中、ただ一人、最速で参の型の取得が出来た。
その事についての話なのかなと思っていると、教官はこう言ってきた。
「さて、それじゃあアデリィちゃん。君は今日から個人レッスンの時間だ」
----なんと、私だけ個別レッスンが始まったのであった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「まず大前提として、今のままではサビキ王女には絶対に勝てない」
「えっ?! どっ、どうしてですか!? サビキ王女の強さを、拳法として会得しようとしているのに!」
「だから、ですよ」
教官はそれが理由だと、そう語る。
「そもそも鉄砲魚拳は、サビキ王女がいま持っている力を、自分達も扱えるように体系化した拳法。どれだけ頑張って習得して、伍の型までマスターしたとしても、それでようやくサビキ王女がいま持っている力と互角でしかない」
「あっ……! そう、ですよね」
私達は思っていた。サビキ王女が使える力を、自分達も使えるようになれば、自分達もあのサビキ王女と肩を並べられるんじゃないかって。
しかし、それはあくまでサビキ王女が『出来る』ことを出来るようになっただけの話であり、サビキ王女に勝てるかどうかの話をすれば、その限りではなかった。
「初めは、サビキ王女も驚くとは思う。しかしながら、同じ力を使えるのなら、あとはそれの熟練度と、素の身体能力の話になって来る。そうなった場合、軍配が上がるのは勿論----」
「サビキ王女、ですよね?」
今まで、武術の"ぶ"の字も知らないような素人だった私。
そんな私が、ズワイ騎士団長などと相手に切磋琢磨してきたサビキ王女に、身体能力で勝っているはずがない。
「それじゃあ、私達は負けるしか、ないんですか……?」
諦めるように、私が愚痴をこぼすと、教官は首を振る。
「いいや。同じ力で勝てないのならば、同じ力ではない力を加えれば良い」
「例えば、こんな感じです」と、教官は手から水を球のように生み出した。
拳法を知る前だと水魔法の【ウォーターボール】かと思っていただろうが、武術を学んだ今なら分かる。これは、魔力を用いて水の形を変える【水手裏剣】、それの応用版だという事が。
「凄いっ……」
私だって、【水手裏剣】を扱えるから、同じように水の形を球体に変化する事は出来る。
しかし、それはあくまで一時的な話で、今回のように手元で形を維持し続けるなんてのは、私には出来ない。やはり、教官は凄い人である。
「これは水の形を変えただけ。そして、ここに----ふんっ!」
教官が力を込めると、水の球体は2つに分かれ、そして間を雷が発生していた。
「なんですか、それ?! 雷が出来てますけど?!」
「球を2つに分け、片方は左回転、もう片方は右回転の力を加える事によって----まぁ、簡単に言えば、流れの向きを変える事で、電流を生み出したという所かな?」
「そんなことが出来ちゃうんですか……」
凄いっ! こんなことが出来ちゃうんだ!
「(雷の力を加えた水----確かに、これはサビキ王女の戦い方でも見たことがない)」
これを使えるようになれば、確かにサビキ王女に勝てちゃうかも!
早速、このやり方を教官に聞こうとしたんだけど、教官は「このままでは無理だよ」と応える。
「これはあくまでも、私に合わせた戦い方であって、アデリィちゃんがやった所で、付け焼刃にしかならない。----だから、アデリィちゃん用に合わせた戦い方を見出す」
「私用に……?」
「そう、正確に言えばペンギン族の戦い方を見つけるというのが、分かりやすいかもね」
ペンギン族……そうか、テッポウウオの魚人族であるサビキ王女様用の拳法があるのならば、私のペンギン族の拳法があってもおかしくはない! ……のかも?
「サビキ王女様の、テッポウウオの魚人族としての強さ。そして、その上にアデリィちゃんだけのペンギン族の力が加われば、サビキ王女を倒せる武器となる」
「私だけの武器……でっ、でもでも、私なんかが本当に勝てるんでしょうか?」
憧れていた。別の派閥とはいえ、同年代としてあの強さは眩しかった。
あんな強さを持つサビキ王女に、私なんかが勝てるんでしょうか?
私がそう落ち込んでいるのを見かねたのか、教官がこう励ましてくれた。
「大丈夫だ。ここ数日で、君はめちゃくちゃ強くなっている。今までは戦うステージすら上がれなかったのに、上がれただけでも十分な進歩だと思いましょうよ?
----私を信じなさい。私が信じる、あなたの、ペンギン族の強みを信じなさい」
その言葉は、落ち込む私の心に、元気と勇気を与えてくれたのだった。
そして個人レッスンを受けつつ、鍛錬をした私。
同じように鍛錬した他の皆の励ましを受け、今日、私は、サビキ王女との決闘に望むのでした。
「巨匠、あの台詞、録音しといたので、後で配信に使って良いですか?」
「恥ずかしいから、止めなさい。言ってた私も、正直恥ずかしかったんだから」




