第146話 ペンギンたちは、戦い方を教わる【目には目を歯には歯を王女には王女を、配信】
私達が、というかこの10人が倒さなければならない相手----それが王女にして、テッポウウオの魚人族であるサビキ王女である。
彼女の力は本物である。武器や装備品、あるいは魔法などを使えば、もう少し倒す方法もあったかもしれないが、魔法にも武器にも頼れないプロレスという舞台では、ほぼ勝ち目がないと言っても良い。
それも、ただ強いだけではない。彼女には向上心とそれを為すための才能があり、試合中であろうとも、相手の戦法を見様見真似とはいえ、真似してしまう。
----サビキ王女を倒すために強くするという事すら大変なのに、相手がその強さの理由を理解して、そして強くなる可能性が高いとか、ほんと、冗談じゃないよね。
教官はそう言って笑いつつ、こう告げた。
「だから、サビキ王女を倒すためには、彼女の強さを自らも使えるようになるしかないかなーというのが、私の授業計画になります」
教官はガンマちゃんに頼んで、私達の腰かけている机の上に指輪を置いてもらっていた。
その指輪をつけるように促されたので、指輪をはめる。ただの指輪にしか見えないが、これもポーションと同じく、なにか意味があるのだろう、とそう思って。
全員が嵌めたのを見届けたところで、教官がさらに説明を、どうしてこの10人を選んだのかという理由を伝えていった。
「この世には、『蟷螂拳』という拳法があった。これは、自然界に存在する蟷螂の動きなどを真似て、武術として、戦う技として完成させた代物の事を言う。同じように、ドラゴンを模した『龍如拳』、鳥のように空を飛んで戦う『有翼舞拳』というモノがあった」
聞くところによると、先ほど挙げたこの3つの武術。これらは教官が、過去の、私達が生まれるずっと前の配信動画で流されていた、実際に会った拳法だったという。
この世界に実際に存在していた拳法である。以前、配信の発掘作業中に、アーカイブから見つけたことがあり、練習がてら身につけようとしたことがあるそうだ。
「最も、習得には成功したんですが、使い勝手が悪いので、あまり使っていないんですけどね。しかし、この経験は、いまこの場で活かされたのです」
----サビキ王女が強すぎる。
----それなら、そのサビキ王女の長所を学び、拳法として、戦う方法として身につければ良い。
教官は、そう簡単に語っていた。
「サビキ王女の強さを活かした拳法----名付けて『鉄砲魚拳』。
この拳法を学ぶのに必要なのは2つ」
----"自分よりも強い者の動きを学ぶ"。
----"その動きを技術体系として会得する"。
この2つが必要だからこそ、私達を選んだとそう教官は語った。
「自分よりも強い者の動き----そう言っても、サビキ王女の強さは知っていても、彼女がどういう動きをするから強いと言い切れる人は少ない。なにせ、彼女の動きを一番見れるのは、戦っている当人よりも、その動きを横から見れる第三者の方なのだから。
そして、君達はその大勢いる戦った事のない第三者の中でも、同年代という事で比較されることも多かったはず」
それは、確かにその通りであった。
「あなたはサビキ王女と同い年なのに、どん臭いわね~」と、何度親に言われ、その当人がどれだけ動けるかを見るために、何度戦いを見に行かされた事か。
「あの、技術体系として会得する----というのは、どういう事でしょうか?」
ドジョウくんの言葉に、私を含めた他の人達も頷いていた。
同年代が良いのならば、私達の他にも色々と候補はいたはずだ。それこそ、サビキ王女と戦っていないが、ある程度武術の心得がある人の方が良いはずに違いないのに、自分達を選んだ理由が知りたかった。
「君達に分かりやすいように例えるとすれば、これが一番分かりやすいかな?」
教官は、メモ帳を1つ取り出して説明し始める。
「「「「「「「「「「メモ帳……?」」」」」」」」」」
「そう、メモ帳は人によって書き方が違うでしょ? 縦書き、横書き、ページの分け方などなど」
確認のためにお互いに話し合ってと言われ、話し合ってみることに。
すると、確かに人によって大きく書き方に違いがあることが判明した。
メモ帳を縦に開いて書く人、図や表を多用する人、色分けする人など様々であった。
「仕事に慣れてくると、やりやすい仕事の流れが自分の中で出来てくるとは思うけど、それは戦いにおいても一緒なんですよ。走り方だって、走っているうちに自分なりに疲れにくいやり方を見つけ出していると思います」
「「「「「「「「「「言われてみると、確かに……」」」」」」」」」」
「そういう人に、"今までのやり方とは違う、こういう戦い方があるからやって欲しい"と伝えても、そんなにすぐには納得できないので。いままでと全く違う、『鉄砲魚拳』というモノに手を出そうと思ったら、逆に初心者の方がこういう時は良い事もあるんですよ」
教官はそう言うと、指を拳銃のように構える。そして、そのまま私達の方に指の先、つまりは拳銃の先を向ける。
「バァンっ!」
----ピュルルルルゥ!!
「「「「「「「「「「----えっ?!」」」」」」」」」」
「まっ、原理さえ掴めば、ザっとこんなモノ」
教官の、拳銃のように構えた手からは、まるでサビキ王女のように水が光線のように放たれていた。
「名付けて----鉄砲魚拳・拳技【水流放出】ってね?」
「「「「「「「「「「すっ、すごぉぉぉぉいいっ!!」」」」」」」」」」
その光景に私達は、ワクワクした。
だって、教官の言う通りだとすれば、私達はあのサビキ王女のように、水を発射するという方法が、使えるようになるのだから。
「これをだいたい、3日かけて習得を目指します。そのために必要となって来るのは、その指輪。この拳法は、魔力と体力、その2つを体内で練り上げるという技術が必要となって来る」
この指輪、正式名称は【魔力巡回監査用医療指輪】という医療器具だそう。
体内に入った魔力を色付けして、身体のどこに魔力が巡っているかというのを検査する魔道具。魔力が正常に流れているかを検査するのだそう。
「鉄砲魚拳は、体内魔力をコントロールする事によって初めて可能となる。今の【水流放出】も、体内で魔力を操作したりして、サビキ王女のような水流を操ることが可能となる。
この部屋で指輪を付けた状態で、魔力の流れの使い方を学び、しっかりと出来たところで1時間しかない実践をしていきましょう」
「「「「「「「「「「了解ですっ!!」」」」」」」」」」
そうして、私達は行動に移った。
指輪をつけて自身の体内魔力の流れをしっかりと理解し、その後はそれを実践で確かめて流れを理解するなどの方法に移った。
最初に、水が撃てるようになったのは、私だったから、ちょっぴりだけ優越感があった。




