第145話 ペンギンたちに、対策を聞かせよう【びっくり座学配信】
合宿生活3日目、暴君はまず私達に重りを外させ、ポーションなしで全力疾走する事を指示した。
「とりあえず、1000m走。どれだけの体力がついたかを測るテストだよ。順位は関係ないし、とりあえず全力疾走をして見ようじゃないか」
たった2日、ただポーションをがぶ飲みさせながら訓練したところで、そんなに変わってないでしょう。
私達はそう思って、1000m走に望んだ。
----結果、全員が見事に完走した。しかも、息切れなしで。
「「「「「「「「「「おぉ~!! すっごく、速くなってる!」」」」」」」」」」
私達は自身の体力が、たった2日で爆上がりしている事に驚いていた。
多分、初日の1回目のポーションを飲ませてもらった時に走った時よりも、今の私達は速くなってる。これは私の感想ではなく、実際にそうだと後押しがあった。
実は、暴君----いや、教官の付き人(付きゴーレム?)であるガンマちゃんに計測してもらっていたのだ。裏でこっそりと計測してくれていたらしい。
そんなガンマちゃんの情報によれば、今の私達の速度は、この国の騎士団の精鋭クラスの速度だという。実際に投影された映像を見ると、私達がいかに速くなっているのかが、実感できた。
「まぁ、伸びしろがあった君達が、物凄い勢いで走りまくった事で、本来の実力以上が出せるようになった、という事だろう。
----だがしかし、君達は強くなったんではない。タガが外れただけだ」
自分達が強くなった事に浮かれていた私達に、教官はそう喝を入れた。
「確かに今の君達は、騎士団の精鋭クラスの者達と走り合っても勝てる、もしくは互角の勝負くらいはできるくらいにはなっている。しかし、それはあくまでも最初の数本だけの話。
彼らは常日頃から重い鎧やら民草を守るための武具を持ち、険しい道などで、持久力を含めたトレーニングをしている。一方で君達は、スタミナポーションをがぶ飲みして、100%、いや120%以上で走れるように、戦えるようになっただけの話。
騎士達は何十本、それこそ何百本と走ったところで、そんなに計測時間は落ちないだろう。休憩を適宜入れれば猶更だ。対して君達の全力が出せるのは、だいたい1時間----それ以上全力を出そうとすれば、力尽きて倒れてしまう」
教官は、そう語った。
つまり、私達が全力で戦えるのは、たった1時間だけ----騎士団や冒険者のように、移動時間などを考えたら、全然戦力にはならない、との事だそうだ。
「この戦力を長続きしたいのなら、持久力、つまりはスタミナを上げる訓練が必要となる。具体的には、スタミナポーションの飲む量を減らしつつ、今の全力の速度を、最終的には20%くらいの力で出せるようになる、そういう風にコントロールする訓練が必要となってきます」
「「「「「「「「「「おぉ~!!」」」」」」」」」」
「しかしながら、それには最低でも2か月以上かかります」
「「「「「「「「「「そっ、そんなぁ~!」」」」」」」」」」
ガックシと、落ち込む私達に、教官は「でも大丈夫」と応える。
「問題ありません、今回あなた達が目指すのは、サビキ王女に勝つ、その試合中に力尽きなければ良い。1時間も戦えるのなら、サビキ王女との試合中は持つでしょう」
「「「「「「「「「「たっ、確かにっ!」」」」」」」」」」
「では、次のレッスンに入りましょう」と、教官は私達を連れて、最初に案内された防音対策ばっちりの部屋に移動する事になったのでした。
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「さっきも説明しましたが、あなた達がまともに戦えるのは、およそ1時間。つまり、訓練に当てられる時間も、およそ1時間程度。休憩を入れたり、ポーションで回復するにしても、あまりに短い。
----そのため、事前に"これからどういう風なトレーニングをしていくか"という座学を始めたいと思います」
「「「「「「「「「「はいっ! 教官っ!!」」」」」」」」」」
「……誰が教官ですか、こちとら錬金術師だっての」
ぶつぶつと文句を言う感じで、教官はガンマちゃんに指示を出す。指示を出されたガンマちゃんは、教官の背後の壁に、映像を投影し始めた。
「まず第一に、あなた達が倒すべき敵であるサビキ王女が何故強いかを考えましょう。"敵を知り、己を知る"----これは兵法の基本中の基本であり、相手が強い理由を知れば、突破口が見えてくるからです」
丁寧な説明を終えた教官は、1人1人に、「何故、サビキ王女が強いのか」について聞いて行く。
「水鉄砲っ!」「消えたよう見える足さばき!」「怪力!」
「腕が強い!」「えっ、えっと……飛び道具!」「相手の技を真似出来る所!」
「顔が良いっ!」「緩急の付け方でしょう、えぇ、いきなり止まったかと思えばトップスピードに入る。あの緩急の速さは対応がし辛く----」「全部。武器を持っても強いし、なくても強い」
「えっと……! 泳ぐのも速いと聞いたことがありますっ!」
私達は、知っている。
リイル王女の陣営として、なにより同年代であれだけ凄い人が居るんだって、だからこそ彼女の強い所、良い所はいくらでも挙げられた。
私達が挙げると共に、映像内にその内容が記載されていく。
その数は50を超え、100を超え、まだまだこれからという段階で、教官が止めに入った。
「はいっ、ストップ。あまりに良い所がありすぎて、何個か被りだの、僻みだのが見えだしましたので、ここまでにさせていただきます。
----さて、あなた達が倒すべき相手は、これだけの強さの理由を持っていますが……」
教官が指差す先には、私達が挙げに挙げまくった彼女の長所が、ずらーっと並んでいた。
「----勝てそうですか?」
「「「「「「「「「「絶対、無理っ!!」」」」」」」」」」
改めて分かった。サビキ王女が、どれだけ強いのかという事が。
こんな相手に、勝てるだなんて、到底無理なんだと改めて理解した。自分達が強くなったことが分かったから、より相手との差がどれだけ開いているのが実感できた。
「まぁ、確かに相手は強すぎますね」
サラッと、教官はそうまとめあげた。
「サビキ王女は強すぎる。弱点らしい弱点もなく、長所を挙げればこんなにも出て来てまだまだ出て来そう。
----そんな彼女を倒す方法が、これです」
スッと、次のスライドが、映像に投影された。
【サビキ王女の強さを、自分のモノにする】
「"目には目を、歯には歯を"。そして、"サビキ王女にはサビキ王女を"。
ただいまより、サビキ王女を倒すため、彼女の技を自分でも使えるようになってもらいます」
「「「「「「「「「「……どういう事?」」」」」」」」」」
教官が提示してくれた解決策は、私を含め、全員がそう言うのが無理もない、とんでもない解決方法だった。




