第144話 ペンギンたちは、地獄を見る【体力作り大作戦配信】
「とりあえず、これからの流れについて説明しますね」
彼女----ススリアという、リイル王女が呼んできた助っ人さんは、私達をとある部屋に集めてそう語り始めた。
この部屋は、リイル王女が用意した秘密の部屋であり、防音対策などがしっかりと施され、『サビキ王女討伐作戦』というサビキ王女の陣営に聞かせたくない話をするのにぴったりの部屋、との事。
そんな部屋に集められた、10人の若者たち。そんな彼ら彼女らに、ススリアはザックリと、これからの流れを説明していく。
「君達には、私と共に1週間、みっちりと訓練に励んでもらいます」
「「「「「「「「「「いっ、一週間っ?!」」」」」」」」」」
私達は、驚いた。
いきなり1週間近くもトレーニングをする事になったという事ではない。たった1週間で、自分達があのサビキ王女を倒す事になるという事が信じられなかった。
ススリアさんは部屋に入るなり、私達の方を見て、より具体的に言えばペンギン族の娘である私に向かってこう言った。
----初めに言っておくと、そこのペンギン族の娘が、後々サビキ王女を倒します。他の方は、それを悟られないよう、訓練に付き合ってください。
その言葉に私は呆気に取られ、他の9人は自分がそんな重大な任務を任されることにならなかったことに、ホッと一息ついていた。
そんな安心している9人に向けて、「何を安心しているんですか?」とススリアさんはそう尋ねる。
----計画を悟らせないためとは言いましたが、他の皆さんでもサビキ王女を倒せる可能性はあります。あくまでも一番可能性が高いのが、ペンギン族の彼女というだけなので、皆さんも気を抜かずに頑張りましょう。
つまり、彼女は、この場に集まった全員に、サビキ王女を倒せるほどの才能があると言っているのである。
こんな、武術の才能どころか、経験すらないのに、私達に才能があるだなんて、今でも信じられなかったのである。
ススリアさんの隣の彼女、ガンマちゃんとやらが、スクリーンに映像を映す。
そこには、私達の1週間の流れというモノが、簡単に説明され始める。
「私があなた達のために確保できた時間は、1週間。それ以上は、私を家で待つベータちゃんが許してくれませんでした。なので、理想で言えば、1週間で叩きこみます。
最初の2日間は基礎体力を作り上げ、残り4日間でサビキ王女を倒すだけの戦闘技術を叩きこむ。最後の1日は総復習、そして8日目にサビキ王女と戦ってもらいましょう」
それは、なかなかのハードスケジュールであった。
たった2日で、あのサビキ王女と戦えるだけの体力が身につくとは思えなかったし、それからわずか4日程度でサビキ王女を倒せるだけの力が手に入るなんてありえないと思っていたからだ。
1週間の日程と言っているが、最後の7日目が総復習である以上、実質はたった6日で、あのズワイ騎士団長をあっさりと倒していたサビキ王女を倒せるとは……。
「最終的に7日目に、本番は誰が戦うかは判断しますが、まぁ、とりあえず他国の人がおかしなことを言ってるなーくらいの気持ちでよろしくお願いしまーす」
「「「「「「「「「「よっ、よろしくお願いします……」」」」」」」」」」
そうして、私達の、謎の合宿生活が始まるのでした。
「まず最初の2日間は、体力づくり。そのために皆さんには、こちらのポーションを飲んでいただきます」
最初に、ススリアさんが私達に出してきたのは、赤い、見たことがないポーションである。
恐る恐る受け取るが、見たことがないポーションに誰も口をつけずにいると、ススリアさんが説明し始める。
「このポーションは、1時間の間、身体能力の向上と、それから回復能力を向上させるスタミナポーションです。たった2日で体力を劇的に伸ばすのは難しいので、魔道具を使ってそれを補います。
このポーションを飲むことで、体力をポーションによって爆発的に上げ、その間、ずっと走ってもらいます」
「それじゃあ、ポーションの効果が切れたら、意味がないんじゃ……」
クリオネ族の子の言葉に、私を含めて全員が頷く。そんな薬頼りで強くなれるんだったら、誰だって強くなれるからだ。
しかし、ススリアさんは「その心配はない」と応える。
「この薬は、身体能力と回復力を一時的に上げる効果があるだけ。その間に運動をすればするほど、基礎体力の向上も見込める。
最初から今の貧弱な身体能力で走り込んだところで、疲れてバテるだけ。だから、身体能力が上がって、自分が感じたことのない速さで楽しく、走り込んでもらおうという事だよ」
私達の今の状況は、筋トレをしたいのに、それをできるだけの筋肉がないという状況らしい。
その改善のために、まずはスタミナポーションで身体能力を上げた状態で訓練をして、素の状態でも筋トレが出来る段階にまで持ってくるというのが、今回の目的との事。
「これから8時間、スタミナポーションを飲んで、ただ走ってもらいます。勿論、それだけでは体力がつかないので、こちらの重りをつけてもらいます。くれぐれも、ポーションを飲む前につけないように。今のあなた達では、着けられもしないくらいに重いので」
こうして、私達は訳が分からないまま、とりあえずススリアさんの話を聞き、ポーションを飲んで、重りを付けて、ただ8時間、ずっと走るのを繰り返した。
ポーションは1時間を目安にしているので、その時間が近付いて来ると段々と体力が落ちて来て、重りが重くて動けなくなる。その前に、簡易的な給水所に置かれている追加のポーションを飲んで、体力を回復させるというのを繰り返した。
ススリアさんの目は厳しく、私達が手を抜いて走っているのを見ると途端に雷魔法を撃って喝を入れ、効果が切れる1時間よりもずっと前に給水所のポーションを飲もうとしている者が居たら火魔法で追い払っていた。
----暴君だ、暴君がこの場に居る。
私達は、暴君ススリアの機嫌を損ねないように、全力で走り続けた。
8時間走って、その後2時間の休憩。この間に美味しい昼食が出て来たんだけど、私達は体力を使い果たしてヘロヘロで、とてもじゃないが、食べられそうになかった。
それでもなんとか口に入れ、午後からの訓練に望んだ。あと、昼食はめちゃくちゃ美味しかったです。
午後からは、走る事だけではなく、腹筋や腕立て伏せといったトレーニングもやる事になった。勿論、スタミナポーションによるブーストをした状態だったけど。
回数よりも、しっかりとした姿勢でやる事を意識させられ、終わるころには私達はヘトヘトになっていた。
その後、夕食もご馳走になった。スタミナポーションを使いたいくらい疲れ切っていたけど、「日常動作まで使い始めると、変な癖になるので、止めなさい」と暴君からの指示があったので、全員止めておいた。
昼食に負けず劣らずの、美味しい料理をご馳走になった後、私達は家へと帰らず、そのまま暴君が用意してくれた部屋で、泥のように眠った。
お風呂で身体を綺麗にせずに眠ったのは初めてだったかもしれない。けど、身体のべとべと具合よりも、酷使しまくった身体を休める事が、今の私には必要だった。
そんな生活を、次の日も続けた私達。
その効果を実感するのは、戦闘技術を叩きこむと最初に話していた、合宿生活3日目の事であった。




