第141話 ギジエさんからのお願い配信(2)
「実は私、国王にはいっさい興味がないのでしてぇ~」
サビキ王女は、最初にそう言って話し始めた。
サビキ王女曰く、彼女自身としては国政なんかより、戦闘に興味があるそうなのだ。
彼女としては、早々に継承権を放棄したギジエ王子と同じく、継承権を放棄して、その後は自国や他国でその力を磨いていきたいと考えていた。
誤算だったのは、彼女があまりにも強くなりすぎて、リイル王女の最高戦力であるズワイ騎士団長よりも強くなってしまった事。
ズワイ騎士団長は、騎士団長に選ばれるだけあって、普通に強い。
防御力が高い硬い甲羅と、長い足、さらには粘着性の高く相手の足止め性能に役立つ泡など、蟹の魚人族である彼はそれだけでも高い身体能力を持つ。それだけではなく、日々この王国の騎士団のためになるようにと、剣や槍などの訓練を欠かす訳ではない。
プロレスという形でなければ、サビキ王女が負ける可能性もあるらしい。
「私としては早々に負けて、国政から離れたいんですが、全然負ける気配がなくてぇ~」
「えぇ、成人していなければ、うちの妹が国王になってる未来となります」
サビキ王女は継承権を放棄して、早々に冒険者になりたい。国政とかどうでも良くて、それよりも冒険に出たい。
リイル王女は国政に興味があり、2人がやらないのならば自分が国王になりたい。国王になったら、やってみたい方策が10や20以上あるのだそう。
それぞれの希望に合わせるとすれば、早々にサビキ王女に次期国王候補から引退して貰えればそれで話が済むのだが、そう簡単に終わらないのが厄介な所。
「我が国では、海竜リヴァイアサンに認められる強者が、国王をするようにと定められています。そういう意味で言えば、うちのサビキはぴったりなんです」
「そうなんでぇ~。私としては、私よりも強い者に早く出て欲しいのでしてぇ~」
つまり、お互いの主張を叶えようと思ったら、リイル王女の陣営側から、サビキ王女を倒せるものが出て来て欲しいとの事。そして、そのための訓練を私に頼みたい、という訳らしい。
本選であるプロレス対戦の時には、武器なし、魔法なしだから、その流れに沿うものが良いんだそうだ。
「手を抜くという事は出来ないのかな?」
「一応、我が国を代表する、神聖な海竜リヴァイアサンの前で、八百長仕合を行う訳には参りませんという事です。それに、それで済むのでしたら、私達もススリアさんに打ち明ける必要はありません」
----サビキ王女の言う通りである。
確かに、それで解決するとすれば、わざわざ私にお願いしたりしないか。
「報酬はきちんと支払わせていただきますしぃ~、私の方も訓練を申し込んだりしませんのでぇ~。
----まぁ、ただ試合に手を抜いて、わざと負けるという事は出来ませんが」
それが一番の問題、なんだけども。
ともかく、この3人の話をまとめると、リイル王女の支持者の中から、サビキ王女を倒せるほどの逸材を見つけて、国民の目の前で倒す事。
ギジエ王子の、あの墨分身は便利だと思うし、上手く使えば有効な力の1つになると思ったのだが、それでギジエ王子が勝っちゃうと、今度はギジエ王子が国王になってしまう。だから、ギジエ王子の支持者も選んではダメ。
サビキ王女の支持者は、ほとんどが彼女の強さに惹かれただけの無法者たち。
この国では国王になった際に、その支持者は重要な役職に就くことが正しいとされているらしい。もし仮に、サビキ王女がこのまま国王になれば、その無法者たちを有力な支持者として重用しなければならず、この国はその無法者たちによって滅ぶ可能性が高いらしい。
なるほど、サビキ王女が国王になりたくないと言っているのは、そういった奴らに権力を与えないようにするため、という目的もあるのか。
「まぁ、強さで言えば、やはりテッポウウオの魚人族であるサビキ王女が一番なのでしてぇ~。私が負ければ、皆も納得して、リイル王女に従うと思いましてぇ~」
「えぇ。レジスタンスとして訴える可能性がない分、成人前の妹を倒すのに集中できます」
リイル王女の支援者は、メガロくんのような一般民衆。それに、この国を支えて来た大臣や貴族、そして騎士団。
支持者の数という面で見れば、数多くの存在が居るが、しかしながら強さという面で言えば、やはりサビキ王女を倒せるほどの実力者ともなると、ズワイ騎士団長くらいしかいないというのが現状らしい。
「まぁ、とりあえずそのリストを見せて貰えますか?」
「はい。リストの名前の横にはなんの魚人族なのか、あと長所と短所も書いていますので、参考にしてください」
うん、実にありがたい。こういう細やかな面も含め、リイル王女にはこの国の王になって欲しいものだ。
「そうしたら、国王権限で安く、稚魚を大量に仕入れられるのだ。流石は、巨匠なのだ」
「ガンマちゃん、私の心の内をバラさないでほしい」
そうして私は、リストを見て行く。ちなみに、次期国王候補の代わりに私が出ようかという案もあったが、この国の国民でないといけないらしいので、速攻で却下となった。
それだったら早く済むし、なんなら水中で戦う事に特化したデルタちゃんみたいなゴーレムを作れば終わると思ったのになぁ~。
「しかし、ろくな人が居ないですね」
アンコウ、ウニ、イルカ、金魚、クリオネ、ヒトデ、ナマズ、ピラルク……。
色々な魚人族がリイル王女を王にしたいという気持ちは伝わって来たが、どいつも戦闘に向いてなかったり、あるいは既にサビキ王女と模擬戦をして負けている者達だ。
サビキ王女と一番多く戦っているのがズワイ騎士団長なだけで、他にも多くの支持者たちが挑み、そしてボロ負けしている。一番、見込みがあるのがズワイ騎士団長、という話らしい。
「(あのメガロくんも挑んでいるみたいだけど、1分も持たなかったと書いてある。子供だから手加減してくれたと考えるべきか、あの巨体を1分で倒せるほどの力を、サビキ王女が持っている事に驚くべきか)」
とりあえず、サビキ王女がどれだけ強いか分からないと、何とも言えない。
私がそう言うと、サビキ王女はこう提案してきた。
「でしたら、今からズワイ騎士団長と恒例の模擬戦を行いますのでぇ~。見学がてら、見てくださいでしてぇ~」




