第140話 ギジエさんからのお願い配信(1)
翌日、私はガンマちゃんと共に不退転の心構えで、生態調査のコラボ配信に向かう事にしたのであった。
ガンマちゃんにずっとカメラを回してもらえれば、『お魚ハート・いっちゃん』ことギジエさんが厄介なお願いをする事を阻止することが出来るだろう!
そう、私の計画は完璧なのだよ!
「すいません、ススリアさん。ここから先は王城なので、普通に撮影禁止でして」
「うっそぉ~」
くそぉ、そう来たか!
生態調査のコラボ配信をしようと、ギジエさんと集合場所に集まった私とガンマちゃん。
「カメラをずっと生中継してるんですよ」と言ってけん制したら、連れていかれたのがまさかまさかの、ウミヅリ王国の王城だった。
まさか、生け簀が王城の庭の中にあるとか、思わないでしょう。
----嘘でしょ、撮影禁止をネタにして配信を止めるとか、バケモノの考え方じゃん。
「巨匠、落ち着いてくださいなのだ。相手は普通の事を言ってるのだ」
「はっ……! そっ、そうだな!」
どうやらコラボに使うための魚は、王城の中庭の池で飼育しているらしいので、中庭の撮影許可はおりたのだが、王城の中は撮影禁止らしい。
仕方ないなと諦め、私はガンマちゃんと2人で王城の中へと入った。
ガンマちゃんの撮影を止め、中に入ると、じっとギジエさんがこちらを見て来た。
「あの、一体なにを……?」
「うむ、イケそうだな」
イケそう……?
「----ぷっ!!」
言葉の意味が分からずにいると、途端にギジエさんが目の前に墨を吐いた。
墨は吐かれた先で、ヒトの形になっていき----
「「なんとっ……?!」」
あっという間に、私とガンマちゃん、そしてギジエさんの3人の分身が出現した。
墨を用いての、質量ある分身----墨分身とも呼ぶべき彼女達。そのうちのガンマちゃんの墨分身は、本物のガンマちゃんからカメラを受け取ると、墨分身3人で中庭の方へと歩いて行った。
「あれは、私の十八番だ。体内で生成した墨と、魔力を組み合わせる事により、最大12時間の長さの、本物そっくりの偽物を生み出せる」
「良く配信でも使っているんですよ」と、ギジエさんは語っていた。
なるほど、配信者としての姿はカモフラージュでもあったのか。
あの墨分身の力を使えば、生中継による配信映像という立派なアリバイを作りつつ、他の所に行くことが出来る。
彼にとって配信とは、自由な時間を作り出すための手段でもあったという訳か。
そして、そんなアリバイ工作を私に見せたという事は、それを見せてでもしたい重要な話をしたいという事なのだろうか。
「さぁ、コラボ配信はあちらに任せましょう。大丈夫、墨分身は本体と同じように話しますし、なんなら消えたらその時の話が経験として入って来るので」
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墨分身という彼の十八番を披露してまで、ギジエさんが私達を連れて来たかった場所には、2人の少女が居た。
1人は、全身真っ白な、透き通る肌が特徴の魚人族の少女。腕や足などは同じく白い鎧のようなモノで守られており、頭からは2本の長い触角が伸びている。
もう1人は、頭にガンマンハットのような帽子を被った魚人族の少女。両腕に拳銃のようなモノを取り付けており、ひらひらとしたヒレのようなモノが揺れている。
「紹介しよう。私の妹達だ」
「初めまして、リイル王女と申します。兄、そして妹共々、よろしくお願いします」
「サビキ王女と申しますのでぇ~。兄と姉ともども、よろしくお願いしますのでぇ~」
……おや? 随分と仲が良さそうだね?
メガロの話からすれば、この2人の仲はあまり仲が良くないように聞いていたんだけど。
「その顔、私達の不仲という噂を聞いていたと分かります」
「えぇ~。我が国では、そういう話をしている人が多いのでぇ~。そんな事は、全然ありませんのでぇ~」
「「そうだねぇ~」」
……この様子を見ていると、メガロさんの話にあった不仲という話はどこから来たのだか。
「実は話というのは、この2人の事について----というか、次期国王についてなんでして」
ギジエさんは「これが結構、難題で」と困っているようだった。
「我が国の事でご迷惑をかけ、申し訳ないです」と、リイル王女は笑う。
「本当にそうでしてぇ~」と、サビキ王女は帽子を深々と被りながら、自嘲気味に語っていた。
「実はねぇ~、私は国王になりたくないのでぇ~」
「……え?」
----どういう事?
「あなたには、是非とも私の、立派な花道を作って欲しいのでぇ~」
「アハハぁ~」と笑いながら、サビキ王女は笑っていたのであった。
(※)リイル王女
ウミヅリ王国の第2子にして、第1王女。エビの魚人族ではあるが、白子症と呼ばれるからだの色素が生まれつき不足している
全身真っ白な、透き通る肌が特徴の魚人族の少女。腕や足などは同じく白い鎧のようなモノで守られており、頭からは2本の長い触角が伸びている
美しい純白の身体と高い知能から、多くの人間に慕われている。白子症の特徴からか、少し病気になりやすい傾向にあるため、公の場にはあまり外に出ない




