第139話 明日の配信の予習をしようよ配信
----次期国王候補の、3人の王子。
----リイル王女と、サビキ王女の対立。
----プロレスで決まる王位決定戦。
ガンマちゃんから話を聞いた私は、あまりのとんでもなさっぷりに驚いていた。
「まさかその王子の1人が、私と一緒にコラボ配信をしていた『お魚ハート・いっちゃん』のギジエさんだったとは……」
「巨匠ってば、気付いてなかったとは驚きなのだ」
……いや、普通は気付かないでしょ?
まさか、気軽にコラボ相手を了承してくれた『お魚ハート・いっちゃん』が、放蕩している第1王子だなんて分かるはずもないでしょう。
「あのメガロって男の子も、リイル王女のために巨匠から赤い膜の力を学ぶつもりだったのだ」
「あの赤いオーラに触っていたのは、そういう理由か……」
「巨匠は教えれば、良いと思うのだ。既に、デルタちゃんでも出来ているのだし」
そう、私が今日使った【オーラ】は、デルタちゃんが既に使っている。
新しく作り直したデルタちゃんが、兵士達の練習試合の際に披露したのも、【オーラ】の力だ。
最も、人間の私よりも遥かに多くの【オーラ】を使えるように設計しているから、最初の模擬戦の際に誰もその戦いっぷりを認識できなかったんだけど。
「だけど、【オーラ】はあまりに"強すぎる"」
そう、圧倒的なまでに強い。これは、強すぎる。
下手に操作を間違えば、自壊してしまうほどの力なので、これを教えるのは躊躇してしまう。
私が教えてしまったせいで、身体を壊し、もう二度と立てなくなってしまう可能性だってあるくらいの、危険すぎる力だ。
「こんなのを、一介の王族だの、他国の兵士達に教えて、身体を壊してみろ? 使いこなす私がバケモノ扱いされるに決まってるじゃないですか」
「確かに、そうですね……」
だから頼まれても、絶対に教えない。
子供でも使える力だと、メガロにはプロレス中に言ってしまったけど、あれは挑発みたいなモノだという事にしよう。うん、そうしよう。
「それに、この【オーラ】の力以外にも、サビキ王女を倒す手段ってある気がするんだよね」
「ほぉ! 巨匠は既に、倒す手段が思いついているのだ?」
「いや、全くちっとも」
だって、まだその肝心のサビキ王女とやらに会っていないんだもの。
どれくらいの強さなのかというのも、ガンマちゃんが聞いたメガロの話という、又聞きの状態だし。
「案外、プロレスという戦いでは無双しているけれども、遠距離攻撃出来るというだけで、そこまで強くはないのかもしれないし」
「なるほどなのだ……」
それに、ギジエ王子、リイル王女、ズワイ騎士団長、メガロ、サビキ王女と、たった1日しかこの国に来ていないというのに、もうこれだけ多種多様な魚人族の存在を知ったのだ。
リイル王女の陣営の中に、ズワイ騎士団長よりも対サビキ王女に向いている魚人族が居る可能性だってあるじゃないか。
「まぁ、いざとなったら、【オーラ】以外にもある強くする力で、それほど自壊してしまうほどの危険性がない力だってある」
無論、【オーラ】よりも習得は難しいし、【オーラ】ほど力は安定しないだろうけど。
「だから、ガンマちゃん。明日のコラボ配信には、カメラを持って同行して欲しい。配信生中継をしていると、ギジエさんには伝えておくから」
「なるほど、そうすれば余計なお誘いを受ける可能性が減ると」
「あくまでも、気休め程度だろうけど」
生中継をしている最中に、わざわざ自国の恥を晒すような真似はしないだろう。
ガンマちゃんを振り切ったり、止めさせようとしたりしたら、こちらからやんわりと止める事は出来ないと伝えれば良いだけ。
「そもそも、今回の目的は新型ゴーレムのイプシロンちゃんを作るためのデータ収集。ガンマちゃんの事だから、メガロに付き纏われつつも、肝心の調査はあらかた終わってるのでは?」
「巨匠の言う通りなのだ。既に、一般的な魚の養殖が可能レベルくらいには終わっているのだ」
「よろしい。明日は、当初の予定では、一般的ではない魚の生態をクイズ形式で学ぶという事になっている」
『寝るときは砂浜に潜る』とか、『火属性の魔力を必要とする』みたいな、その魚だけが持つ固有の生態がある魚についてのクイズをすると、コラボする前に聞いている。
そして、私の調査によれば、そういった固有の生態を持つ魚の方が希少価値が高く、なにより美味しい魚なのである。
イプシロンちゃんを使って魚の養殖を軌道に乗せようとすれば、明日の配信は是非とも知って置きたい。
しかしながら、それはあくまでも軌道に乗せようと、商売にしようとすればの話である。
「2日目の生態調査配信は、あくまでその高級魚の飼育をするとした場合に必要な知識。この時点で、イプシロンちゃんの正式稼働用の基礎知識は調査済みだよ」
そう、私達の目的は、既に達したと言っても過言ではない。
「もし仮に、あちらが嫌な条件を出して、こちらに不利な取引を持ちかけようものなら、私はガンマちゃんと共に帰還するつもりだよ」
「巨匠……!」
だから、ガンマちゃんもそんなに不安がらないで良いよ?
私は、そんな面倒な依頼を、いつまでも受ける、今までの女配信者ではないのだから!




