第132話 ウミヅリ王国で、お披露目しましょう配信
----やって来ました、ウミヅリ王国!
馬車を数台乗り継いで、ウミヅリ王国、その首都である王都イケッスへとやって来た私とガンマちゃん。
馬車から降りると、1人の青年が「やぁ、『あるけみぃ』!」と私を大きく手を広げて、歓迎の意思を表していた。
「あなたが、いっちゃん?」
「あぁ、そうだ。『お魚ハート・いっちゃん』こと、【ギジエ】という」
そう言って、手を差し伸べて来るギジエさん。
2mを越える背丈の、タコの魚人族。
屈強そうな身体と赤い肌が特徴で、8本の腕でこちらに歓迎の意思を見せてくれていた。
「大きいですね……」
「ははっ! もしや、魚人族を見るのは初めてか?」
ギジエさんの言葉に、私は「そうですね」と応える。
魚人族というのは、獣人族の魚バージョンみたいなモノ。
簡単に言えば、お魚の性質を有する人間。肺呼吸とえら呼吸、そのどちらも使うことが出来る水陸両用の人間なのである。
基本的には、人間と同じく腕が2本に足が2本。だけれども、タコの魚人であるギジエさんのように腕が6本で足が2本のような多腕種の者もいたりと、かなりバリエーションが多い。
「魚人族はほとんどがウミヅリ王国にいるので、見るのが初めてなんですよね」
「あぁ~、別の国から来た人はそういう印象かぁ~! うちらとしては、逆に魚人族ばっかりしか見ないから、あんたらみたいな人間族の方が珍しいくらいだよ」
確かウミヅリ王国に住まう国民の8割が魚人族、残りは他国からの移住者という内訳だったか。
それなら確かに、人間族の私の方が珍しく感じるギジエさんの気持ちが分かるというモノ。
「そこはお国柄、という感じですかね」
そんなウミヅリ王国なりの洒落を話し合っていると、「あのぅ……?」と後ろから控えめな女の子の声がする。
「ぎょぎょっ?! びっくりした?!」
「そんな、大げさに驚かないで欲しい、のだ……」
ウルウルと、後ろに居たガンマちゃんが恥ずかしそうにしていた。
ガンマちゃんのいまの恰好は、お腹が大きく出た露出度多めのロリータメイド姿。
髪は銀色のツインテール姿で、頬には特徴的なハートマークのシールが貼られている。
もちろんこれは、ガンマちゃんの普段着なんかではなく、コスプレ姿である。
これは私とベータちゃんがコスプレしていた『今日から私は百合します!』、それに登場するゆるふわ系美少女の恰好である。作中では、このキャラクターは自身の愛らしさ、可愛さを自覚して、ずるがしこく生きているようなキャラだったんだけど……。
「おい、ガンマちゃん。もう少し、ちょっと寄せる努力をしようよ……」
「そんな事、出来ぬのだ……」
うぅっと、しょぼくれた様子のガンマちゃん。
しかしそんな彼女に、私は「これは罰ゲームだからね」と告げる。
そう、そもそも『今日から私は百合します!』のコスプレ自体はベータちゃん発案だったかもしれないけれども、実際にこの作品をベータちゃんに提案したのがガンマちゃんだという事くらい、私はつき止めているんだから。
嘘は通じないよ? ぜーんぶ、既にベータちゃんからリサーチ済みだから。
「ううっ……外出だけでも、既に罰ゲームなのに、コスプレまでとは……外道、巨匠はまさに外道なのだ……」
「なにか言ってるけど、大丈夫?」
「ただ喚いているだけなんで、気にしないでください」
私がそう言うと、ギジエさんは「それなら良いか」と言ってくれた。
うん、スルーしてくれてありがとう。
「それで、私とギジエさんが観光している間、この娘には海に行って欲しいのだけど、大丈夫かな? この国、かなーり男女差が激しい国だと聞いてるけど」
確か、『男は海で働き、女は家を守る』的な、前時代的な価値観が今なお根強く残っている国だと聞いている。
私としては、ガンマちゃんには別行動で海の実地調査を頼みたいんだけどね。
「あー、1人だけってのはあまりオススメしないな。俺はそこまで気にしてないけど、もう少し世代が上の老人たちの中には、『海は女を嫌う』という考えの方もいるし。あー、確かゴーレムなんだっけ? その娘?」
「はい、なのだ。巨匠のお誘いを受けざるを得ない、可哀想なゴーレムなのだ……。出来たら、コスプレを止めて、家へ帰れとお願いして欲しいのだ」
図々しいお願い事をするな、っての。まったく……。
「そうだな……首からプラカードみたいなのを付けて、『私はゴーレムです。ただいま、製作者の命令で海に居ます』みたいなのをかけとけば、そこまで気にしないんじゃないか?」
「なるほど。では、早速」
私は【アイテムボックス】から出したプラカードに、さらさらーっと文句を書き込む。
そして、それをガンマちゃんの首にかけさせた。これで大丈夫、と。
「巨匠、私の勘違いでなければ、これは怪しい客引きのように見えるのでは……?」
まぁ、メイド服姿に、首からプラカードだと、そういう印象もあるかもしれないが、今の所、これ以上良い対策が思いつきそうにないのでこのままにしておこう。
私がそう告げると、「ガーンっ」と項垂れるガンマちゃん。
「じゃあ、私達は観光してるんで、ガンマちゃんの方もよろしくね」
「うぅ……了解したのだ……」
トボトボと、1人で歩いて海へと向かうガンマちゃん。
「他国では、あそこまで人間らしいゴーレムが作れるのか……。凄いな」
「まぁ、そうですね。凄いですね」
そして、私とギジエさんは、早速、観光案内配信のための準備を始めたのであった。




