第129話 夏が近付いたし、ゴーレム作成を決意するぞ配信
朝起きたら、机の上にコスプレ衣装が置いてあった。
どうも、朝から謎の圧を受けて困惑している、錬金術師のススリアです。
この衣装を置いた犯人は分かっている。きっとベータちゃんに違いない。
構いすぎなかったという理由で、ほぼ罰ゲーム的に受けたコスプレ配信は、毎回大盛況を受けている。
その理由は恐らく、ガンマちゃんの紹介映像が巧みな事と、いつもは無表情な顔を見せるベータちゃんがとびっきりの素敵な笑顔を見せている事だろう。コメントもそう言うのが多いし。
一方、私はというと、このコスプレ配信はあまり好きじゃない。毎回、「止めて欲しい」と心の底から願ってるくらいに。
コスプレ配信は精神を削られる。毎回、際どい衣装を着させられるから精神的にキツイ。
私は可愛い女の子を愛でたいという気持ちは人並みにはあるけど、自分も可愛い衣装を着たいという想いはあまりないからね。というか、ほぼゼロレベル。
「こんなのを置かれても、着ないって……」
溜め息を吐きつつ、私はタンスから別の服を取り出して着る。
季節は現在、初夏。
少し夏の暑さが近付いているのをひしひしと感じるこの時期に、こんな無駄に動きづらい恰好とか、ほぼ罰ゲームに近いでしょ。
「そうか、もうすぐ夏か……」
夏と言えば、海。海水浴の時期だろう。
水着、日焼け、釣り、それにサーフィン。色々と盛りだくさんの季節だ。
「夏と言えば……そうだ。1回、やりかけていた計画があったな」
その名も、イプシロン計画。
そう、私のこの日々の生活を支えてくれている、ゴーレムシリーズの新作機体である。
私にも色々とポリシー、方針というモノが存在する。
ジュールは商会からの要請、アレイスターはドラゴンの卵を獲得したからと、かなり突発的に作ったゴーレムである。
一方で、ベータちゃんを始めとしたゴーレム達は、初めから作ることを計画していたゴーレムである。
今までイプシロンを作っていなかったのは、彼女の使い道が限定的であったから。
彼女にお願いしたい仕事は、養殖。そう、いつでも新鮮なお魚を食べられるようにするのが、このイプシロンちゃんの目的である。
家事手伝いのベータちゃん、編集作業のガンマちゃん、戦闘用のデルタちゃん。
そういったのと比べると、どうしてもイプシロンちゃんの作成が遅くなるのは無理もないだろう。
なにせ、養殖業というのは、非常に金がかかる大型事業だから。
莫大な餌代、生け簀の管理費、周辺の海への悪影響、病気へのリスク。
----いつでも新鮮なお魚を食べられ、なおかつ高品質のお魚を食べられるというメリットに比べると、初期投資があまりにも大きすぎる。
だから、今まではこのイプシロンちゃん作成計画に着手できなかった。
とてもではないが、ただの辺境錬金術師がやるには、あまりに大きすぎる計画である。
最近になり、シュンカトウ共和国のドラスト商会からの援助もあって、ようやく実行の目途がついたようなモノだ。
それに、治癒神であるカンロ神との協力体制を組んだことにより、村との繋がりが出来たのも良い事なのだろう。
村の人とのおかげで、現在は使っていない旧役所を格安で購入することが出来た。
この旧役所なんだけど、多少埃が被っているのと、一部の部屋が雨漏りしていたりと居住空間にしては問題があるのだけど、そもそもただ魚を養殖するための広い場所があればそれでよかったのだ。
これで、いつでも新鮮なお魚を食べられるという、私の夢に一歩近づいたとも言える。
「あとは、お魚の養殖技術か。これに関しては、実際に現地に行かないとダメだね」
養殖は、魚の生態を良く知らないとならない。
これに関しては、配信でどうにかなる範疇を越えている。そこまで専門的な配信は、使えそうな配信はなかった。
養殖する魚にとっての適温、餌の量、飼育に何か月かかるのかなどといったのは、やはり専門的すぎるのだろう。そもそも、養殖事業ってのをやっている事業者が存在するかどうかも怪しいくらいだし。
ただそういう情報を全て知ることが出来れば、すぐさま養殖業は軌道に乗る事だろう。
イプシロンちゃんは、そういうために作り出そうとしているゴーレムだ。
海の情報、魚の情報を事前に学習させておけば、後は魚の個体ごとの生育情報を把握して、完璧に育て上げる。一度成功すれば、よほど特殊な生態の魚でない限りは、じゃんじゃん養殖して、完璧に育て上げてくれるだろう。
そのための、養殖用ゴーレム、それがイプシロンちゃんなのである。
「養殖する魚の選定なら----シュンカトウ共和国よりも相応しい国があるな」
シュンカトウ共和国も一応、海に面しているから知識がないという訳ではないと思うけど、あそこは元々、商いの国。
漁業をするよりかは、商売をして稼ぐ方が主だろう。少なくとも漁業の知識はあまりないはず。
とりあえず、配信で呼びかけてみる事にしよう。
今回の、イプシロンちゃん開発で、一番力になってくれそうな国へ。
漁業と水産の国----【ウミヅリ王国】に。




