第125話 魔女スタダムの昔話配信
----今から数百年前。
世はまさに、大魔女狩り時代。
魔女の有能性に目を付けた、その時の王様は、魔女の奴隷化作戦を決行する。
魔女を見つけ出す魔術、探査魔術【魔女狩り】が生み出されたのもこの時代である。
表向きは『魔女が持つ技術が世界を脅かす危険性がある』として、実際は『有能な者は自らの奴隷にして飼った方が都合が良い』という理由で、魔女たちはどんどん貴族や王族の奴隷となって、姿を消して行った。
そんな中、魔女スタダムは、『過激派』の魔女であった。
魔女狩りをしてくる、貴族や王族が悪いとして、逆に人間狩り----ヒトを奴隷化する事を始めたのである。
自分を奴隷にしようとする、貴族や王族などが派遣した兵士達を逆に奴隷化して、魔女スタダムは自らの国を作り出した。
そして、王様は魔女の怒りを買ったとして、他国からの集中砲火を浴びて、自らの首を差し出すことで、大魔女狩り時代はひとまずの終わりを告げる。
奴隷になった魔女達は解放され、多くの魔女達は見つからないように姿を消した。
そして魔女スタダムは、奴隷化を止めた。
----奴隷だった人達の首を、祖国へと送り返して。
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魔女スタダムは、大罪の魔女として人間国に指名手配されることになった。
人々を奴隷化したのは魔女狩りに対抗するために仕方なかったとしても、祖国に首だけを送り返した事を、正当化出来なかったからだ。
彼女は数十年間、逃げ続けた。
探査魔術【魔女狩り】があったのにそれだけの長い間逃げ続けることが出来たのは、彼女が自らの本名を人前ではあまり話していなかった事。本名を、魔女スタダムの名を知る者は、ごく少数だろう。
そして見つからないように、人間達には絶対に見つからない場所に入って、隠れ住んでいたからだ。
その場所の名前は、妖精の隠れ里。
妖精と呼ばれる魔物が生み出した、普通の人間は入ることが許されない、次元の狭間にある特殊な空間。
そこに魔女スタダムは、妖精を追い出して住み続けていたのだった。
そんな日々は、ずっと、ずーっと続くかに思えた。
そんなある日、魔女スタダムはこう宣言した。
「退屈だ。なので、私の代わりに、罪を受ける相手を見つける事にする」
彼女はそう宣言して、1つの魔道具を作り出す。
それは、この世界とは別の世界、異世界から人間を召喚する魔道具。
数年で完成させた魔道具の力により、彼女は『ニホン』と呼ばれる世界から『ジョシコーセイ』と呼ばれる少女を呼び出した。
「ここ、どこよ?! 私は今から友達とっ!」
「あなたの名は、今日から魔女スタダム」
魔女スタダムは、『ジョシコーセイ』をこの世界から呼び出した本物は、そう彼女に名を与えた。
「今から、この【人間奴隷化】の魔術を付与した短刀で、あなたと契約する。そして、あなたはそれに逆らう事は出来ない」
「ふっ、ふざけんな! 私は帰るんだ! お父さんと、お母さんと、友達と、皆がいる『ニホン』に!」
「それはもう無理な話。あなたは魔女。そう、私の名を受け継ぐ、二代目の魔女スタダム」
魔女スタダムは、二代目と名付けたその少女の指を、ほんのちょっと短刀で傷つける。
そして、【人間奴隷化】の魔術は完成する。そう、異世界から召喚された人間である少女に対して。
「契約内容は、三つ。
一つ、あなたは魔女スタダムと名乗り、行動をしなければならない。今までの名は捨てよ。
二つ、あなたは私に直接罰を与える事は出来ない。
三つ、あなたは私がこれからなる姿を覚える事は出来ない。
あなたには私の代わりに、魔女として逃げ惑ってもらう。自殺しようとしても無駄だよ?
あなたは私に、魔女スタダムに危害を加えることが出来ない。そう、私も、そして名を受け継いだあなた自身も。
-----という訳で、これからよろしくね、二代目ちゃん?」
そう言って、初代の、本物の魔女スタダムは、顔も、そして名前も変えて、どこかへと消えて行った。
あとに残ったのは、契約により元の家に帰れなくなった、二代目の魔女スタダム。
彼女は、最初こそ実家へと帰ろうとした。初代が残して行った錬金術の本を、必死に読み漁り、独学で魔女の錬金術を習得した。
本来であれば、魔女の錬金術は血筋を継ぐ者しか継承できない、特殊な代物。
しかしながら、契約内容にあった『魔女スタダムと名乗り、行動をしなければならない』という契約が、"魔女として行動するためには、魔女しか使えない錬金術を使えなくてはならない"という拡大解釈により、奇跡的に噛み合った結果であった。
ただの偶然と言えばそれまでだが、二代目の執念が魔女の錬金術を会得したと言えよう。
しかし、魔女の錬金術を習得して分かった事は、自分はもう、あの『ニホン』には帰れないという事だけだった。
『ニホン』に、元の世界に帰るには、元の世界との繋がりがないといけない。
あの短刀にかけられた【人間奴隷化】の魔術付与のせいで、自分の名前を捨てさせられた。よって、自分と元の世界との繋がりに使える、名前がなくなったのである。
----絶望した。
もう二度と、自分は元の世界に戻れないと知って、二代目は絶望した。
もう父親に甘える事も、母親に軽口を叩くことも、友達とバカやってはしゃぐ事も出来ず、誰も知り合いがいない世界で、『魔女スタダム』という自分を呼び出した相手の代わりをしなくてはならない。
彼女を殺したいと思った。罰したいと思った。文句を言いたいと思った。
しかし、契約によって、二代目は『魔女スタダムに直接罰を与える事は出来ない』し、『魔女スタダムの変装した姿も覚えてはいなかった』。
だから彼女は、行動に移したのだ。
承認欲求―――それは、自らを認めて欲しいという欲求。
彼女は魔女スタダムの名を、世界に知らしめることに決めた。
多くの人間が、それこそ姿を変えた初代ですら知らない振りすることが出来ないくらいに、大きな存在に、有名な魔女となる。
そして、彼女は処刑されるのだ。
持っているだけで大罪人として処罰される事が確定する、【人間奴隷化】の魔術付与を持った短刀を持った、愚かな魔女として。
永遠に、その名は、馬鹿な魔女として、語り継がれる事だろう。
それが二代目の、魔女スタダムとして出来る、最大限の嫌がらせだと信じて。
(※)魔女スタダム・二代目
魔女スタダムの名を与えられた、元人間。【人間奴隷化】の魔術付与により、魔女スタダムの名を無理やり継承させられ、自害する事も許されない身体になってしまった
元々は『ニホン』と呼ばれる世界で『ジョシコーセイ』をやっていたが、魔女スタダムによってこの世界に転移させられ、世間的にヤバイ所業を起こした魔女スタダムの代わりをやらされていた
復讐しようにも魔女スタダムがどういう姿に化けたのか分からず、結果として承認欲求の強い魔女として世間的に有名になった後に、【人間奴隷化】の魔術付与を持った短刀所持の容疑で処刑されることで、魔女スタダムの名を地に貶めようと計画する。そのため、悪行を行っていた頃の魔女スタダムの名を知る最後の1人が亡くなった後の、『錬金術師大会』から行動を開始する




