第124話 魔女スタダムの目的とは何か? 配信
「お前のせいだっ!」
----ぶんっ!!
大きな怒鳴り声と共に、魔女スタダムは大鎌を振り回す。
「あんたが優勝しなければっ! あんたが王都に来なければっ! あんたが怪盗めしどろぼうと私の関係に気付きさえしなければっ!」
----ぶんっ!! ぶんぶんっ! ぶんぶんぶんっ!!
魔女スタダムの荒れようは、凄まじい。
手にしていた大鎌を技術ではなく、単なる馬鹿力で、彼女は勢い良く振るっていた。
「死んで私の、偉大なる功績になっちゃえっ!」
彼女はそう言って、勢いよく大鎌を振るって----いや、違うっ! あれはブラフだっ!
私は剣を強く握りしめ、彼女の頭に被る魔女帽子を斬り弾いた。
----しゅっ!!
斬り落とした魔女帽子からは、鋭利な短刀が1本入っていた。
大鎌を振ってわざと隙を作り、その作った隙の中に入って来た獲物を、この魔女帽子の中の短刀が飛び出して切り裂く。そういう手筈になっていたのだろう。
「くそっ! 私の魔道具【びっくりデスサイズ】がっ!」
魔女スタダムは大鎌を【アイテムボックス】内に収納う。
そして私を睨みつつ、次にどう戦うかを思案している様子だった。
「魔女スタダム、その戦い方をどこで学んだ?」
収納して次の手を考える、そんな魔女スタダムに私はそう問うた。
「はっ?! こんなの森の中で、魔獣退治してればすぐ覚える戦法ですよ!」
「いや、それはあり得ないな」
私はそう問い返す。
大鎌を大げさに振るい、隙を見せたところで本命の魔女帽子からの短刀攻撃。
これは魔物相手の戦い方ではない。知能のある、ヒトとの戦い方を想定しての戦い方である。
「相手に攻めまくって、わざと隙を見せる。そして、その隙に向かって本命の短刀を放つ。魔物相手にしては、面倒すぎる手順だ」
「そっ! そういう魔物が居たから覚えただけだ!」
確かに、ヒトを装って攻撃してくる魔物も居る事は居る。
だがしかし----私は、魔女帽子から出て来た短刀を拾う。
「この短刀に付与されている魔術は、【人間奴隷化】。その名の通り、短刀で傷つけた相手が人間だった場合、問答無用で自らの奴隷に変える禁術だ」
この世界には、魔物を含めて、多くの人種がいる。
そんな中、対象を人間のみに限定することで、相手が人間であれば、たとえ王様であろうと、英雄であろうとも、問答無用で奴隷に出来る、危険な魔術だ。
私も、鑑定によって知り得ただけで作り方は一切分からず、というか見るのも嫌になってすぐさま魔法で粉々に、それこそ砂のように散らせた。
「【人間奴隷化】の魔術付与がされている以上、言い逃れは出来ないぞ。この魔術だけでも、あんたがお望みの大罪人として処刑確定だ」
【人間奴隷化】がある以上、【ドラゴン奴隷化】、【国王奴隷化】など多種多様のバリエーションを誇る禁術だって作れるはず。
そんな事実があれば、魔女スタダムの処刑は、それこそ『人類をまるごと己の支配下に置こうとした大罪の魔女』として処刑が確定されるだろう。
「魔女スタダム、理由は不明だがあんたは犯罪者でも良いから、承認欲求を欲しがっていた。それなら、『錬金術師大会』の時でも、それこそ怪盗めしどろぼうという案件を起こそうとしなくても、この禁術1つで即刻、大犯罪者として名を刻めただろう。どうして使わなかった?」
私がそう聞くと、彼女は「あははっ!」と笑っていた。
「それが、その魔術が、使える訳ないでしょう?」
さも、どうしてそんな事を聞くのか分からないかのように。
「だって、その魔術で、私はこんな世界に来させられたんだから」
魔女スタダムの目からは、うっすらと涙が流れていた。
「良いわ、教えてあげるわよ。どうして魔女スタダムが承認欲求を求めたのか。善悪の区別もなく、有名になりたいと望んだのか。
----これは復讐だからよ。魔女スタダムに対するこの私による最大限の復讐」
魔女スタダムはそう言うが、私には理解できなかった。
----怪盗めしどろぼうなどを起こしたきっかけが、自分自身に罰を与えたかっただけ?
完全にドエムの所業じゃないかと思いつつ、そんな事を言える雰囲気ではなかった私は、彼女の言葉が続くのを待った。
【アイテムボックス】の中から、新しい魔女帽子を被り、彼女は私にそう宣言する。
「事情を話すから、連行しなさい。私は、スタダムという魔女を有名にして、その後に『禁術の使い手』として世界に刻み込むために活動していた"ニホンジン"よ」
(※)【人間奴隷化】
魔女スタダムが持っていた短刀に魔術付与として刻み込まれていた、禁術。この禁術を使ったり、付与したモノを持っていた場合、問答無用で大罪人として処刑されるほどの禁術
相手が人間であれば、英雄だろうと、国王だろうと、従順な奴隷へと変える精神作用術式。使用制限はなく、1万人であろうともこの禁術は作用される
恐ろしいのは----この禁術は、解けないという事である。たとえ基となった術者が死亡したとしても、その術者が下した命令をずっと守り続けなければならない。まさしく禁忌の術
そしてこの禁術が使える者は、【奴隷化】の術式を保有しているのも同じで、人間のみならず、ドラゴンや他種族、果ては貴族など、どんな相手であろうとも自らの奴隷に帰る事が出来る手段を持ち合わせているという事である




