第108話 新興宗教とは、ビール造りと見つけたり! 配信(1)
「はいみなさん、おはうおっち! 錬金術師系配信者の、あるけみぃです!
今回は案件配信となります! 新興宗教【憧憬の会】を作りたいと思いまーす!」
(※)『おはうおっち!』『新興宗教、だと?!』『おはうおっち!』『魔道具じゃないだろうが?!』『新興宗教作りは、錬金術師系配信者の領分ではないだろう?』『おはうおっち!』『おはうおっち!』
錬金術師系配信者『あるけみぃ』こと、ススリアです。
本日は、治癒神様のために、新興宗教を作りたいと思います。
「今回の案件主はこちら、治癒神様からの紹介となります!」
「ちゃおっす☆ 治癒神様だよ! 今回は『あるけみぃ』さんのお祝いに来たら、宗教を作ってくれるなんて嬉しいっすわ☆ ほんじゃまぁ、よろしゅう!」
画面内に突如として現れた、白フードの服を着た桃色髪少女。
自らを神様、『治癒神』だと語るその少女の登場に、コメント欄が沸き立つ。
(※)『神?!』『神?!』『神?!』『神?!』『神?!』『神?!』『神?!』『神?!』『神?!』『神?!』『神?!』
「はいはーい! 神様ですよ~! 名前はただいま募集なりけり~!
----というのも……って、色々と語るのはアレなんで、概要欄をチェック! チェック!」
(※)『要チェック! 要チェック!』『チェックしてみるか!』『なんやかんやあって、神の名前がなくなった』『だから絶賛募集中、って聞いてないんだけど?!』『なんやかんやって、なんだよ?!』『なんやかんやは、なんやかんやよ』『なんやかんや=あれやこれや』
配信映像内に治癒神様を映らせている間に、私はベータちゃんと共に神像を作ってゆく。
この神像こそが、これから作る新興宗教【憧憬の会】における上で一番重要な代物であり、この治癒神様の目玉になる。
治癒神様が忘れられたのは、他の神々の信者による妨害工作があったのもある。
だけれども、そもそも治癒神様の名前とイメージが強く根付いてさえいれば、妨害なんか負けず、今もなお治癒神様の信仰は続いていただろう。
「そのために必要となって来るのが、こちらになります!」
どんっと、私は配信映像にその肝心要となる魔道具を見せる。
(※)『樽』『樽だな』『樽です』『樽ですわー』『樽ですよね?』『樽だな』『樽だは』『樽ねぇ~』『樽! 樽だわ!』『なんで樽?』『樽にしか見えないんだが』『新興宗教=樽?』『樽』『樽が出てくるの変じゃない?』『樽が来るのは意味不明なんだが』
「えっと……なんで樽なんです?」
動画内のコメント、そして治癒神様の反応が1つにまとまっている通り、私が動画内に映し出したのは、大きな樽である。
私の10倍はあろうかという巨大な樽で、下の方には数字を入れるボタンと蛇口を取り付けている。
「こちら、今回の新興宗教【憧憬の会】の目玉----その名も、魔道具【クラフトビール・クラフター】!
この新興宗教における一番重要な目玉となります! 説明は、うちのベータちゃんの方からさせていただきたく思います」
「はい、どうぞ」と、ベータちゃんに説明をお願いする。
そして、眼鏡をかけたベータちゃんが、レポートを持って、いかにも知的な印象を漂わせながら現れるとコメント欄が騒然となる。
(※)『ベータ様ぁ!!』『ベータ様ぁ!!』『ベータ様ぁ!!』『ベータ様ぁ!!』『ベータ様ぁ!!』『ベータ様ぁ!!』『ベータ様ぁ!!』『ベータ様ぁ!!』『ベータ様ぁ!!』『ベータ様ぁ!!』『ベータ様ぁ!!』『ベータ様ぁ!!』『ベータ様ぁ!!』『ベータ様ぁ!!』『ベータ様ぁ!!』『ベータ様ぁ!!』『ベータ様ぁ!!』『ベータ様ぁ!!』『ベータ様ぁ!!』『ベータ様ぁ!!』『ベータ様ぁ!!』『ベータ様ぁ!!』『ベータ様ぁ!!』『ベータ様ぁ!!』『ベータ様ぁ!!』『ベータ様ぁ!!』『ベータ様ぁ!!』『ベータ様ぁ!!』『ベータ様ぁ!!』
うわぁ、なにこれ?
なにこのめちゃくちゃ統率されまくっているコメント達。ひくくらい、怖いんだけれども。
「まず初めに言っておきますと、こちらの魔道具【クラフトビール・クラフター】は、この樽の中に果物を入れる事で、皆さんのオリジナルビール、クラフトビールを作るというモノです」
クラフトビールとは、小規模に作られた職人渾身のビールの事である。
この魔道具【クラフトビール・クラフター】は職人要らずの、自動ビール造り魔道具。
フルーツを入れると、そのフルーツを処理して、職人レベルのビールを作り上げてくれる、そういう魔道具なのである。
ちなみに、この樽の中は、【アイテムボックス】と同じ異次元空間となっており、最大1万種類のビールを、この樽1つで管理することが可能となっている。
最小でいえば4人前くらいという個人で楽しむ程度の量のビールから作る事が可能で、気軽にビール造りが楽しめるようになっている。
必要なのはこの新興宗教を信奉する事と、『加工するかしないか』を指定してフルーツを持ってくる事。
あとは、この魔道具に突っ込めば、あなたのためだけのビール、クラフトビールの完成である。
ちなみに、魔道具が作ってくれるとは言え、流石に酒造りの免許を持つ人は必要となって来ると思うので、イスウッドの馴染みの酒職人さんにこの樽を置いてもらう許可はもらってある。
設置費用と郵送費用などはこちら持ち、土地の使用とかはあちら持ちという契約だ。
「こちらの魔道具はマスターの手により、敢えて魔道具が"調整しない"魔道具となっております。フルーツの種や皮などの処理、ビールとしての熟成などもしてくれますが、味の調整はしてくれません。簡単に言えば持ってきた量、加工したかしなかったかによって、味が全然変わってきます」
(※)『人によって無限に味が違うって事?!』『それは面白そうだな!』『私、実はブドウを栽培してるんだけど、そのブドウを使ってもいいって事かしら?』『うちの牧場の新たな名物に使えそうだな』
「そう、この魔道具の売りは、あなたの用意したフルーツの量、品質により、クラフトビールの味が変わってくるという事です。ですので、『今年は失敗したなぁ~』とか、『来年はこのフルーツを試してみようか』という事も出来るという事です。
この新興宗教【憧憬の会】に参加してもらえれば、こちらのクラフトビールの作成の権利、そしてクラフトビールのお返しを授けます。また、その年の優秀作であるクラフトビールを発表したり、【憧憬の会】のメンバー同士でのクラフトビールの売買なども行います」
(※)『おぉ~!』『自分だけのビールが作れるって事!?』『酒! 酒が欲しいんじゃあ!!』『お父さんに、お酒を送るってのもアリかもしれないなぁ~』『友達同士で、お酒の交換と言うのも良いかもしれないわね?』
何事も、目に見えるお返しがあった方が分かりやすいだろう。
そういう意味で言えば、クラフトビール造りは、その目に見えるお返しと言う訳なのである。
『フルーツを渡したら、確実に美味しいビールが出来る』というよりも、フルーツの品質や量、さらにはシロップにするなどの加工するかしないかによって味に大きく違いが出れば、『来年はこうしよう』『次はこのフルーツをやってみようかな?』という期待にも繋がる。
ビールなんて、自分好みの味をこだわりはじめたら、それこそ個人個人に欲しい味が違ってくるから、この商売----いや、新興宗教は流行るだろう。
ゆくゆくは商売として売り出すことも視野に入れるかも知れないが、基本的には【憧憬の会】内でのみの販売にしておけば、限定感もあってお得だろうし。
(※)『でもこれって、農耕神の領分なんじゃ?』『治癒神に繋がるのかな?』『愛とお酒は、別物では……』
よーし、いいタイミングでその質問が来た。
それじゃあ、第2幕。
なんで、クラフトビール造りと治癒神が繋がって来るのかと言う話をしようではないですか。




