第107話 とある治癒神の在り方について配信
治癒神様曰く、登録者が一定数を越えた者を賞賛する事。
それが治癒神様の仕事の1つなのだという。
「多くの人間に登録される----それは即ち、多くの人間に愛を届けているということ! ならば、愛を司る治癒神としては、お祝いせねばと駆け付けた訳です!」
「はい、どうぞ!」と、治癒神は私に銀の盾を渡してくる。
盾とはいったが、それは武器としての性能を持ち合わせていないトロフィーみたいなモノで、そこには私と、私の配信者名。そして【登録者10万人突破おめでとう!】の文字が刻み込まれていた。
「えっと、うっ、嬉しいなぁ~……反応はこれで合ってます?」
「大丈夫! これにて治癒神様の使命、完了ってね!」
「さ~て、帰ろっと!」と、治癒神様がクルっと反転して帰ろうとする。
「おっ、お待ちくださいませ!」
「おんやぁ?」
いま正に帰ろうとする治癒神様を、聖職者タメリックが引き止める。
「治癒神様! 私はあなた様に聞きたい事があります!」
「おー、コレはアレかな? 『約束通り案内したのだから教えて欲しい』と、そういう事なのかな? 良いよ良いよ、何事にも"お返し"は要求すべきモノだからね☆」
----それで、何を教えて欲しいのかな?
治癒神様の優し気なお言葉に、聖職者タメリックはこう質問した。
「あなたの名前は、存在しないのでは?」
その質問に、治癒神は首を縦に振る事で、応えるのであった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
魔王ユギー、それは堕落を司る恐るべき魔王。
かの魔王の権能は全てを堕落させ、停滞させ、衰退させる。
神々は、そんな魔王の在り方を『否』として、否定する道を選んだ。
誰かが世話をしなければ、『農耕』は成り立たない。
停滞を良しとするならば、『知識』は不要な存在となってしまう。
神秘を解明する事こそが、『魔術』の本質である。
堕落せず己を鍛えてこそ、『武闘』は真価を発揮する。
堕落を司るユギーと言う存在は、他の神々にとって滅ぼすべき、悪しき存在となった。
故にだからこそ、自らの名が消えるかもしれないリスクを取ってでも、研鑽の神アカデミアという号令を広め、魔王ユギーを滅ぼそうとした。
一方で、他の4柱の神々が、魔王ユギーを否定する中。
治癒神だけは、魔王ユギーの在り方を『是』とした。
治癒神は、治癒と愛を司る神。
治癒には相手を慈しんで、頑張る事を一時的に『停滞』させ、休養して欲しいという意味が。
愛には相手を愛する故に、『堕落』させて自分に身を任せて欲しいという意味が。
それぞれ含まれているからこそ、"堕落"と言う概念を、彼女は否定しきれなかった。
全ては、程度の問題だ。
全てを禁止すべきではなく、魔王ユギーと話し合い、共存共栄の道を探るべきだと、治癒神はそう考えたのである。
----それが故に、他の4柱の怒りを買った。
「魔王ユギーを滅ぼそうと、みんなで躍進している中、1柱だけ、空気を読まずに話し合おうというんですよ☆ そりゃあもう、いっぱいの罵詈雑言をいただきまして、私は、神としての名を彼らに奪われた☆
具体的には、彼らの信者によって、治癒神の名が載っている書物を消され、書き換えられ、私は神としての名を失ったんだぁ~☆ てな感じに、【配信者が一定数以上の登録をした際に現れる亡霊】と言う生き方が精一杯の存在となってしまったんだよね☆」
「いやぁ、参っちゃったなぁ~☆」と、治癒神はそう笑いながら答えた。
「まぁ、私のつまらない身の上話はさておいて、今この世界には辛うじてながら、名前を持たないちっぽけな私を信仰しようという気概を持つ信者が少なからずいる……。その身体を借りて、私は唯一残った使命を果たしに来たんだよぉ~☆
----遅れてごめんなさい、配信者『あるけみぃ』! 何度も言うようだけど、登録者数10万人突破おめでとう!!」
パチパチパチパチと拍手する治癒神。
「……そうか、今はそれだけしか役目がないのか」
そして私は、
「だったら、聖職者タメリックさん。今からその治癒神様と共に作りましょう」
聖職者タメリック、そして治癒神に提案した。
「----神様を作るという、新興宗教を錬金しようではありませんか!」
(※)治癒神
治癒と愛を司る神、そして魔王ユギーの在り方を『是』としてしまったために他の4柱の神より名前を奪われた神
元々は生き物を癒す治癒、他者を愛するための力を授ける神々であり、堕落もまた「治癒に、そして愛に繋がるのならば、そういうやり方もアリではないか」と魔王ユギーの事を封印ではなく、懐柔、もしくは和解すれば良いという考えであった
しかしながら、堕落を否定する4柱の神々の逆鱗に触れた結果、治癒神の姿を模した像や書物は尽く滅ぼされ、名前もまた徹底的に消されてしまい、現在は"配信者がある一定の登録者数を突破したら、信者や像を借りてお祝いする"という行為しか出来なくなってしまっていた
かの治癒神にいまなお仕える天使達も大勢いるが、肝心の治癒神がこのような状況なために、『天使降臨』で降臨させられない状況にある




