第105話 デルタちゃんと兵士達の勝負配信
「----では、勝利条件を決めましょう」
デルタちゃんは、そう皆に提案する。
「それは……」
「最初に提案するモノでは……」
「ないのかな、と思うのだが……」
「ガクッ……」
しかし、その場にはデルタちゃんの他には誰も立っていなかった。
デルタちゃんに、最初に挑戦を申し込んだ自称四天王。
自称四天王の頑張りに即発されて、参戦した兵士達。
漁夫の利を狙い、後から戦いにこっそり来た兵士達。
ただ奥から見守っていた兵士達。
その全員が、ゆっくりとその場に倒れてしまっていたのだ。
武器を振るったなら分かる。蹴られたり殴られたりしても分かる。魔術であっても分かる。
しかしながら、今回はそのどれでもなかった。
----ただただ、デルタちゃんが構えたと思ったら、全員がやられていた。
それはもはや、意味が分からなかった。
「すみません。ただの模擬戦にも関わらず、この機能は封印すべきでした。
----なので、この機能を封印した"一割"の力でお相手します」
その言葉に、誰も異論は出なかった。
なにせデルタちゃんからの提案は、そこまでお膳立てしなければ、まともな勝負にもならないという、ただの事実だったからだ。
こうして、実に不本意な話しながら、全員が納得するという形にて----。
1割の力で相対するデルタちゃんとの戦いが、始まるのであった----。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
全員をデルタちゃんが【アイテムボックス】から出したポーションで癒し、仕切り直す。
そうして、デルタちゃんと兵士達による対決は、グラウンド場でようやく始まった。
「参ります」
学ランのポケット、【アイテムボックス】に手を突っ込んで、木刀を2本取り出していた。
「----デルタ流抜刀術、【蟻地獄】」
デルタちゃんはそう言って、一番兵士が多い場所に向かって突っ込む。
「全員、防御姿勢!」
「「「はいっ!!」」」
その群れの隊長がそう号令を出し、デルタちゃんの木刀による突きを防いでいた。
防ぐ事には成功したが、彼らは後ろへと吹っ飛ばされ----
「「「「なっ----!?」」」」
そのまま、地面に沈んでいた。
吹っ飛ばされた兵士達は漏れなく、底なし沼のように足が地面にずぶずぶと入っていき、膝辺りまで沈んでしまっていた。
「おいっ! あの兵士、岩の中に沈んでるぞ!」
そして、ある兵士を見て、他の兵士達も驚きの声を上げていた。
飛ばされた兵士の中には身体が軽い兵士も居て、その兵士はアクロバットを用いて衝撃を逃がしていた。
他の隊員よりも速めに、自ら後ろに下がる事で、衝撃を少しでも和らげようという判断である。
その兵士はクルリと回転して、隅に置かれていた大岩----筋力トレーニングのために置かれた岩の上に着地したのだが、彼も同じように、ずぶずぶとくるぶし辺りまで"岩の中に沈んで行く"。
地面に沈むなら、まだ分かる。
しかしながら、岩に沈むのは理解できなかった。
「あれは何だ?」
「どうして、岩の上に沈んでる?」
「地面だって分からない。あそこは硬かったはずだ」
「あぁ、走り込みをしていたからそれは保証する」
群れの中に居ずに、素早く逃げて観察していた自称四天王。
彼らは冷静に、デルタちゃんの異常性を判断する。
あれは魔術ではない、しかし何らかの力である事は確かである。
「----デルタ流抜刀術、【砂漠地獄】」
地面にハマって動けない兵士達を、行動不能と判断したデルタちゃんは、続いて自称四天王に狙いを定める。
「やらせは、せんっ!」
そのうちの1人が、3人よりも前に出て、木刀を振り落とそうと剣を振るう。
「----っ!」
待ち構えるタイミングが想定よりも速かったのか、デルタちゃんは木刀を放り投げて、剣に当てた。
「はぁっ?!」
驚いたのは、剣に当てられた自称四天王の方。
木刀にぶつかった剣は、水分を抜き取られたかのようにシュルシュルと、刀身が萎んでいってしまったからだ。
「水につければ直りますので、ご心配なく」
「直りますので、って? そういう問題ではないだろう!」
刀身が役立たずになってしまった自称四天王は、自ら降参を申し出て、グラウンドから離れた。
「あの木刀がなくなった!」
「良くやったぞ、ヒトシ!」
「仇は、我らが取ろう!」
そう言って、木刀がなくなったのを好機と見た残りの3人が、一斉に跳びかかる。
「えいっ」
そんな風に跳びかかった3人を、デルタちゃんはお尻から生える長い尻尾で吹き飛ばす。
吹き飛ばされた3人は、そのまま飛ばされた先で、他の兵士と同じように地面に膝辺りまで埋まってしまっていた。
「これは、無理だな……」
ダンパン部隊長は、これ以上は無理だと判断。
降参を申し出ると、デルタちゃんは即座に地面や岩などから抜け出せない兵士を引き抜く作業に取り掛かっていた。
「(しかし、コイツは凄まじい……)」
ダンパン部隊長は、驚いていた。
ゴーレムは、魔法生物である。
そしてゴーレムの実力は、作った当人に大きく影響する。
作った当人が弱ければ、そのゴーレムも当然弱い。
無論、当人が虚弱体質であろうとも、身体の作りをしっかりと理解していれば、ちゃんとしたゴーレムは出来る。
----要は、どうすればそういう行動が出来るのか。
----そういう身体の扱い方を知っていれば出来ること。
「(あのススリアという錬金術師当人が出来るのかは、分からない。
しかしながら、最初の昏倒は別として、木刀を使って、相手を埋めさせたり、刀剣を干からびさせることは出来るという理を、彼女は知っているということ)」
ダンパン部隊長は、木刀を見つめる。
そこには、なんの付与もされていない、文字通りただの木刀であった。
そして、ダンパン部隊長は懐にも目を向ける。
そこには魔術を感知する特殊なペンダント型魔道具があり、そのペンダントは【アイテムボックス】以外の魔術の発動を、感知していなかった。
つまり、あの奇妙な技は全て、魔術ではなく、そして理を知ればゴーレムが出来る、つまり誰もが会得可能な技術。
「是非、ススリアさんと教えて貰いたいものだ。その技術とやらを」
ダンパン部隊長はそう言いつつ、不敵に笑うのであった。
(※)ゴーレムの武術
ゴーレムの動きは、作った錬金術師や魔術師の知識量によって左右される。作った当人が「こうすれば早く走れる」、「こうすれば転ばない」などを知っていて初めて、ゴーレムはその方法を知ることが出来るからだ
逆に言えば、ゴーレムが妙な武術を使っているということは、作った当人がその武術を使う方法を熟知していなければおかしい
ダンパン「要するに、デルタちゃんとやらが使ったあの謎の抜刀術。魔術でないとすれば、ススリアさんはその原理を知っているということだ」




