第103話 ネゴシィ騎士団長への贈り物配信
私の名前は、ネゴシィ。
シュンカトウ共和国の騎士団長を勤める、御年45歳の人間族である。
我ら騎士団の存在価値は、シュンカトウ共和国においてはかなり低いと言わざるを得ない。
なにせ、国の代表、盟主がコロコロと変わるからだ。
我が国では国家を纏める政治力よりも、個人としての商売能力が大きい者が、盟主となる。
だからこそ現在盟主を勤めているパファー様のように、何十年と盟主を勤めている方が珍しく、パファー様が勤める前までは1か月、果ては3週間ほどで盟主がコロコロと変わる時もあったくらいだ。
当然、盟主がコロコロと変わる国は、国家として運営するのは難しく、一時期は【シュンカトウ共同地域】という国ではないとされた時期もあったくらいだ。
騎士団とは、そんな盟主様を守る盾----当然、守るべき盟主がコロコロと変わるなら、それを守る騎士団という存在価値も低くなる。
元々、商いの国であるシュンカトウ共和国に置いて、商売人以外はさほど重要視されない傾向にあるのも付随して、我が騎士団の価値は国の中でも最低辺に近かった。
私も、そんな騎士団に入りたかったと言われれば、出来れば遠慮したい側の人間であった。
3か月だけ盟主だった男が無理くり作った施策、『強制徴兵令』で選ばれなければ、家業の服の卸問屋を継ぎたかったくらいである。
私が騎士団長に上り詰めたのは、単なる偶然。
私が商売人よりも、騎士団長になるだけの才能が高かった事。
私よりも才能を持つ者達が、全員やる気がなかった事。
偶然と偶然が重なって得られた騎士団長という、地位。
しかしながら、何十年も騎士として勤め、さらには騎士団長という地位まで頂いていると、愛着や義務感が湧いて来る。
----自費を投じ、国外の、それも辺境であるイスウッドに大きな道場を作ったのもその1つだ。
フランシア姫様は、私とは違い、才能も、そしてやる気にも満ち溢れている。
そんな姫様が師と仰ぎ見る人物の指導を直に受けることが出来れば、騎士団全体の力量も上がるというモノだ。
事実、あちらに遠征留学という形で行かせた騎士団員たちは、メキメキと成長してこちらへと帰って来た。
『体中剣』と呼ばれる守りの剣を私も学ばせていただいたが、アレは確かに良い物だ。
守備の技術が確かなものだと信じられれば、自信にも繋がる。
「そして、これがそんなススリア殿から私に下さったモノか」
「はいです、ニャア! 代金は着払いにてお受けいたします、ニャア!」
そんなススリアさんから、私のもとへと運ばれた魔道具。
それは、デルタちゃんなるゴーレム----その素体であった。
なんでもデルタちゃんの身体を新しく作るに当たって、今まで使っていた身体を簡易式の戦闘用ゴーレムとして、道場に設置したところ、これが大好評。
フランシア姫様からの要請もあり、これをもう1つ作って、そのもう1つを、ドラスト商会のスコティッシュさんに運んでもらって----
----現在に至る。
「こちら、付属のリモコン型魔道具により、戦闘の調整が出来ます、ニャア。残念ながら武器である剣に関しましては、『いま作成するほどの時間がない』と断られてしまいましたので、そちらの方は自分で用意して欲しいとの事です、ニャア」
「問題はない。代金もちゃんと払おう」
剣なら、いくらでもある。
ここは騎士団、戦闘で刃が欠ける事を想定して、馴染みの商会に大量発注して安く済ませてある剣なら、いくらでもある。
「ありがとうございます、ニャア。今後ともご贔屓に」
「あぁ、今後ともよろしく頼もう。スコティッシュ殿」
スコティッシュさんが帰ったのを確認し、私は箱の中から簡易式ゴーレムを取り出す。
「(----ただのゴーレムで起動すらしてないのに、うちの新兵達よりも強そうだ)」
騎士団長としての長年の経験により、戦わなくても大体の強さは分かるようになってきた。
そんな私の経験から考えても、この簡易式ゴーレムは----強い。
最初は剣なしで、どれくらい戦えるかを見た方が良いと、箱の中に置いてあった取扱説明書には書いてある。
「ふむ……」
とりあえず試しにとばかりに、私は武器庫から剣を6本取り出して、専用の鞘の中に入れておく。
鞘の中に入れておかないと、自身の武器として認識しない設定になっているようだ。
「じゃあ、とりあえず"モード6.0"で」
『----命令実行。モード6.0にて、戦闘処理----』
リモコン型魔道具を押すと、簡易式ゴーレムは剣を引き抜き、私の顔を見つめていた。
「さぁ、とりあえず戦ってみようか。簡易式ゴーレム」
『----戦闘開始----』
それから3時間後、騎士団に1体のゴーレムが、私の手によって運ばれてきた。
「みんな、すまない。頑張りすぎたようで、復旧に1日かかるようだ。明日から、このゴーレムと模擬戦闘を繰り返し、強くなっていくぞ」
剣を6本握りしめたまま、全く動かない状態にまで破壊された簡易式ゴーレム。
「久しぶりにいい汗かいた」と私がそう言うのを、騎士団員たちがどう見ていたのかを知ったのは、ずいぶん後の出来事である。
(※)ネゴシィ騎士団長
シュンカトウ共和国騎士団長にして、最年少の剣聖の称号を得た人物。剣聖の称号を得たのは20代半ばであり、これは各国から見ても最年少での取得であり、ネゴシィの名前を聞けば他の国の武人達は震えあがるくらい
現在盟主であるパファーより数代前の盟主が行った施策、『強制徴兵令』により12歳の若さで騎士団入り。その後、本人の真面目さと、(本人は謙遜しているが)高い才能により、メキメキと実力を開花。剣聖の名を手に入れたが、シュンカトウ共和国では武人はあまり評価されない傾向にあるため、国内での評価はあまり高くない
簡易式ゴーレムのモード6.0、つまりは最強クラスのゴーレムに対し、「いい汗かいた」と笑いながら、ぶっ潰す程度には戦闘力が高い




