第101話 ゲンエイジウムの特性とは……配信
アレイスターとの戦闘訓練を終えた、私。
勝利の証として彼女の鱗、ゲンエイジウムを10枚ほど受け取った私は、自分の工房にて調査を開始した。
「ふむっ、これは扱いが難しいな……」
調査のために、ゲンエイジウムの鱗の1枚をあれやこれやと細工した私。
その結果、ゲンエイジウムはとても扱いが難しい希少金属であるということが判明した。
ゲンエイジウムは、魔力を通すことで幻影を実体化させる性質を持つ希少金属。
その"幻影を実体化させる"という能力について調査したのだが、これがなかなかに戦いには使えないのではないかというのが判明した。
なにせ、いくら実体化させたところで、幻影は幻影でしかないからである。
試しに、幻影で作り出した剣を実体化させて、その剣で物を斬ろうとして見たところ、まったく斬れなかった。
他にも、幻影の炎は全然燃えないし、幻影の盾は防げずにすぐに穴が開いてしまう。
このゲンエイジウムで実体化させられた幻影は、確かに触れる事は出来るのだが、それ以上でも以下でもない。
「紙は斬れる、炎で物を燃やせる、盾で防げる。だけど、本物には遠く及ばない。
アレイスターの鱗であるうちは本物とほぼ遜色ない力が発揮されるが、身体から離れたら効果が落ちる。これはそういう希少金属か」
幻影を実体化できるのは強いと思ったが、どうにもそんなに万能すぎる訳でもないらしい。
まぁ、希少金属である事は事実だし、まだほんの少し触った程度。まだまだ可能性は無限大である。
「よしっ、とりあえず色々と作って行くか」
私はそう思い、残った9枚の鱗を色々と工作し始めるのであった。
それからしばらくして、私の部屋に2人の弟子が入って来る。
錬金術師の弟子であるタラタちゃん、そして武術の弟子であるフランシアさんの2人である。
「あの師匠? 今日はなんでありますか?」
「新しい武術を、教えてくれるんですか!」
期待している所悪いが、フランシアさんについては教えるために呼んだわけではない。
「フランシアさんには、この娘を道場まで運んで欲しいんだ」
ほいっと、私は6本腕のゴーレム、つまりはデルタちゃんを彼女に渡す。
いつもとは違い、動かないし喋らないデルタちゃんを、2人とも怪しげな視線で見ていた。
「あの、師匠? このデルタちゃん、動いてないようですが?」
「あぁ、その身体には意識を接続してないからね。いまはただ、戦闘の指示があれば動くだけの、対戦型人形だ」
まだピンと来てない2人に、私は紙を広げて見せる。
「実は、デルタちゃんをパワーアップさせようという計画を立てているのだよ」
そう、いま私が取り組んでいるのは、デルタちゃんのパワーアップ計画。
6本の腕で魔物を倒したり素材を回収したりする、武闘派ゴーレムのデルタちゃん。
そのデルタちゃんを今回バージョンアップして、新たな姿にしようと考えているのだ。
「アレイスターのおかげで、ゲンエイジウムという希少金属が手に入ったからね。この機会に、デルタちゃんも大改修して、さらに強いゴーレムにしようと思ったのだよ」
ベータちゃんやガンマちゃんなども、一定周期で改修を行っている。
とはいっても、その改修は腕などの間接の点検だとかの、小さなもの。
2人は、もう既に完成しきっているようなモノだから、今更大きな改造はないだろう。
一方で、デルタちゃんは違う。
魔物と戦う事を想定しているデルタちゃんは、私が新たな戦法を思いついたら、その都度、改修や改造を施している。
あの6本の腕だって、そういった改修の成れの果てだ。
いつもだったら新たな構造を取り付ける程度で済むんだけれども、タラタちゃんのおかげでダンジョン内で戦うためのルータ代わりの魔術付与や、今回のゲンエイジウムもあって、これは一度、新しく作り直そうかという話になった訳だ。
「この6本腕の身体ではない、新たな身体を作り。デルタちゃんをさらに強くする。
----それが、デルタちゃんパワーアップ計画という訳だよ」
「「おおっ!!」」
2人とも、ようやく事の重大性に気付いたようだ。
「いま、デルタちゃんの意識は【アルファ・ゴーレムサポートシステム】内で保存。今まで使っていたその身体は、特定のコマンドを受けると、敵と戦う----いわば、模擬訓練程度の機能は残してある。
フランシアさんには悪いけど、その身体を道場まで持って行って状況を説明して置いて。戦闘訓練用の簡易式ゴーレムとか言っておけば、兵士達もやる気が出るでしょう」
「分かりました! お任せください!」
フランシアさんはそう言って、デルタちゃんを抱えて、道場まで走って行った。
デルタちゃん、腕を6本もつけてかなり重かったから、運んでくれて助かったよ。
あの6本腕の身体も、普通に強い事は確かだ。
強くなろうと望んでいる道場の人達の、良い対戦相手になってくれることだろう。
「さて、タラタちゃん。君は重要な錬金をお願いしたくて呼んだわけです」
「重要な錬金……! そんな仕事を、私に振ってくれるんですか!」
……まぁ、ゲンエイジウムを色々と弄りたいから、それ以外の作業をお願いする。
そういう感じなのだけれども、重要なのは事実だから、間違ったことは言ってないよ。うん。
それに、タラタちゃんの方が、魔術付与に関しては腕は良いので、適材適所というモノである。
そうして私は、タラタちゃんに1枚の金属板を手渡す。
「この金属板に、タラタちゃんお得意の魔術付与を2つ、施して欲しいのだ」
「2つ……! ちなみに、表面と裏面の両方を使って良いですか!」
「一応、内部構造に使うパーツだから、問題はないでしょう」
でもって、お願いしたい魔術付与の説明に入る。
まず1つ目は、【アイテムボックス】。
デルタちゃん開発当時は出来ないと思っていたが、技術は日々進歩するモノ。
実際ジュールちゃんの時点では出来るようになってるし、今の技術だったらタラタちゃんも付与可能だろう。
そして2つ目は、【記憶保持】。
彼女がうちのデルタちゃんの魔剣を全て没収し、そのデルタちゃんに押し付けたサンプル品に付与された魔術付与である。
これがあれば、本来であれば配信が届かないダンジョン内であろうとも、普通に配信の恩恵を受けることが出来るようになる。
新たな身体にするにしても、配信を使って武術を再現するのは変わらないからである。
「この2つの魔術付与を、この板の上に付与して欲しいのです。よろしいですか?」
「----! もちろん! お任せくださいませ!」
タラタちゃんは「自分にまかせて!」と言わんばかりに、キラキラと瞳を輝かせる。
そして、タラタちゃんは金属板を受け取ると、そのまま出て行った。
「----さて、タラタちゃんに金属板の魔術付与は任せてあるし、デルタちゃんの身体の方はフランシアさんに頼んだし」
これで、私は武器作成に専念できる。
こうして私は、ゲンエイジウムを使った新生デルタちゃんの武器作りに取り掛かるのであった。




