第100話 アレイスターと勝負する配信
霊峰オリンポシアにて、現れた治癒神がススリアに会いに来ようとお願いしていた頃。
王国の辺境イスウッドでは、そのススリアと、ススリアが作った魔物ゴーレムであるアレイスターとの対決が為されていた。
「それじゃあ、行くッスよ!」
自前の鱗に魔力を通し、幻影の翼を出現させるアレイスター。
本来ならばただの幻影で実体のないはずの翼は、確かな質量と動きにより、アレイスターを宙へと浮かせていた。
あれが、アレイスター、いやカラミティドラゴンの鱗である『ゲンエインジウム』の効果。
ゲンエイジウムは、魔力を帯びたインジウムの変異体である。
インジウムというのは、柔らかく融点が低いという特性を持つレアメタルである。
それに、他の金属と比べて、薄い膜にした時に透明感を保持しつつ、なおかつ導電するという高い性質を持っている。
液晶ディスプレイという、電圧によって変化する性質を利用した画像表示装置として使われる金属である。ちなみに、この液晶ディスプレイは、配信などで画像を表示するのに使われたりする。
ゲンエイジウムは、そのインジウムが強い魔力を帯びる事で変異したモノ。
インジウムは加工してこそ液晶ディスプレイとしてその力を発揮されるが、ゲンエイジウムは加工せずともイメージを画像として表示、さらにそれを実体として表示する機能を持っている。
いま、アレイスターは鱗に魔力を通し、翼というイメージ画像を表示し、表示された画像であるはずの翼を実体化させているという状況だ。
「さぁ、楽しい勝負の開幕ですッス!」
アレイスターが魔力を杖に込めると、彼女の周りに雷の球が出現する。
「魔法……本当に使えるんだな」
「当たり前ッスよ! ドラゴンの力を持つこのアレイスター、魔法を扱うなんてちょいのちょいッス!」
「そんな事より勝負ッス!」と、アレイスターは生み出した雷の球をこちらに向かって発射。
そして自身は、鉄の皮膚でコーティングしてある右手に火を灯し、こちらに向かって突進してきた。
「----迎え撃つっ!」
私は双剣を構え、双剣の刃に魔力を用いてコーティングする。
そして、コーティングした双剣で、放たれた雷の球を弾いて行く。
コーティングしておいたのは、そのままだと雷が私の方に来て、麻痺しちゃうから。
「はぁっ!!」
私が増え続ける雷の球を弾く中、アレイスターは赤く燃える右手を前に出して、私の双剣、そのうちの1本を掴む。掴むと共に、双剣は溶けた。
「もいっちょ!」
「させるかっ!」
もう1本の双剣も溶かそうとするアレイスターの腹を、右足で蹴り上げ、私は残った双剣をクルクルと大回転させて、残った雷の球を全て弾く。
「双剣機能、起動!」
アレイスターの声と共に、彼女の足に取り付けられている双剣が淡く発光する。
そして、先程の私がやったように、彼女は右足でこちらを蹴り上げて来た。
蹴り上げようとしてくるアレイスターに、双剣を投げつける。
投げつけられた双剣は、空中でバラバラになって、その場にぽとんっと、崩れ落ちていった。
「足に取り付けた双剣で、全ての攻撃が斬撃付与……。まったく、恐ろしいねぇ」
「まだまだ、こんなもんじゃないッスよ!」
アレイスターは右手を熱く熱しながら、こちらを掴もうと迫る。
そして、迫りつつ、時折蹴り技を用いて、こちらに斬撃を行ってきた。
掴まれたら身体を炭化されて死ぬ、かと言って手に集中し過ぎたら足の斬撃波で斬られて死ぬ。
近接系統も完璧だ。恐らく、近接系統に限った話でも、うちのデルタちゃんよりも強いかもしれない。
「---だがしかしっ!」
こちらを掴もうとするアレイスターに、私は逆に懐に入るためにさらに接近。
そしていままさに蹴ろうとする右足を、逆に思いっきり蹴ってやった。
「----?! バランスがっ!」
足の斬撃波は、常に作動している訳ではない。
一番いいタイミングを見計らい、彼女は蹴った際に一番力が高まった時に発動させている。
だから、私がこうやって、相手が蹴る前にこちらから蹴れば、斬られない。
それどころか、斬ってやろうと魔力を溜めていた右足が、蹴られて体勢を崩していた。
よろけるアレイスターの腹に、私は【アイテムボックス】から槍を取り出して、そのまま突く。
「ウグッ……?!」
モロに入った腹、そして怪我した場所に次の攻撃が来ないようにと咄嗟に出してしまった手。
私は瞬時にそれを把握しつつ、槍で無防備な頭を斬りつけた。
「ウグワーッ!?」
無様な悲鳴を上げ、倒れるアレイスター。
「よしっ、動作テスト終了。お疲れ、アレイスター」
「ううっ! 悔しいッス! 悔しいッス!」
ふーっと、タオルで汗を拭く私に対して、アレイスターは本気で悔しがっている様子であった。
さっきの戦いは、単なる動作テスト。
新型ゴーレムであるアレイスターがどれだけ動けるかというテストであったのだが、アレイスターは予想以上に動けていた。
雷の球という魔法のみならず、鉄の皮膚を熱しての超高温とかした右手による掴み攻撃、足につけられた双剣機能を用いての斬撃属性付与の蹴り。
うちの素材回収担当にして、戦闘担当であるデルタちゃんのお株を奪う大活躍だった。
「ううっ……蹴るのがあと少し速かったら、勝てたのに……」
「まぁ、私は開発者としてどういう行動が出来るのかは把握しているようなモノだからね。恐らく初見なら、そちらの方が強いと思う」
だが、勝ったのはこちらだ。
しょぼくれているアレイスターには悪いが、私は彼女の鱗、ゲンエイジウムの鱗を1枚剥がす。
そして剥がした後に、その辺の土をペタリと、代替物のように張りつけた。
剥がしたのは、私の勝利者権限というモノ。
アレイスターを倒したら彼女の鱗を1枚剥がし落とさせるのだと、初めから決めていたからこそ、私はこうやって剥がしとったのである。
これで、超希少金属であるゲンエイジウムをゲットし、満足。
私が満足している中、アレイスターは鱗の代わりにペタリと張りつけられた土を、怪訝な目で見つめていた。
「こんな土で治るとは、到底思えないッスけど……」
「ゴーレムだから、大丈夫」
ゴーレムの利点は、すぐさま再生できることだ。
たとえ四肢を全て失ったとしても、その辺の土を新たな四肢に作り替えて合体させれば元通りという、再生力の高さがゴーレム一番の利点である。
本来であれば1枚剥がれ落ちれば、数百年は新しいのが生えないカラミティドラゴンの鱗。
しかしゴーレムであるアレイスターにとっては、土さえ張りつけておけば1週間足らずで、元の鱗に早変わり。
これで希少金属であるゲンエイジウムを使っての、錬金術が捗るというモノだ。
いやー、どんなモノに使おうか。ワクワクだな。
「くーっ! 次こそ、絶対勝ってやるッスよ!」
「また勝ったら、その鱗を貰うからね」
私とアレイスターはそんな事を言いつ、戦闘訓練は終わったのであった。




