表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

昔僕をいじめていた女の子と結婚する話【中編】

すみません、誤字報告ありがとうございます!

高校三年も終わりの時が近づいていた。今日は珍しく、美咲と一緒に帰ることがなかった。未来と僕が通っている高校が違うという理由もあるが、一番の理由は新しい友達ができたからだ。


「今日はありがとうね、手伝ってくれて」

未来は感謝の意を込めて微笑んだ。未来の微笑みは柔らかく、まるで春の日差しのように心を温かくするものだった。その笑顔を見るたびに、僕の胸はほんの少しだけどきゅんとした。


「大丈夫だよ」

僕も笑顔で返す。未来は未来、同じ図書館で放課後まで一緒に仕事をしていた仲だ。かれこれ三年の付き合いになる。未来は優しくて、いつも周りのことを気にかけてくれる。そんな未来との時間は心地よく、自然と一緒に過ごす時間が増えていた。未来の存在は僕にとって、いつの間にか欠かせないものになっていた。


「一樹君、本当に助かったよ。今日の整理、大変だったもんね」未来は本を整理をしながら言った未来の髪が揺れる様子に、僕は少し見とれてしまった。未来の長い髪が揺れるたびに、ふんわりとした香りが僕の周りに漂う。未来の横顔は穏やかで、美しい曲線を描いていた。


「大丈夫ですよ、もう時間も遅いし帰りましょう」

僕は優しい声で言った。窓の外はすっかり暗くなっていて、遠くの街灯がぼんやりと光を放っている。


「分かりました、鍵返してきますね」

未来は返事をしながら鍵を手に取り、図書館のカウンターへ向かった。


♢♢♢


帰り道、僕は未来のことを思い出していた、未来とは中学時代からの付き合いで、未来の強さと優しさに何度も助けられてきた。未来の明るい笑顔や、困った時に手を差し伸べてくれるその手の温もりが、今でも鮮明に思い出される未来との時間が増える一方で、美咲との時間が減っていくことに対する罪悪感もあった。



「一樹君、何か考え事してる?」

後ろから未来の声にハッとした。未来はいつの間にか僕の横に並んでいて、“酷いです先に行くなんて”と笑いながら微笑んだ。その笑顔に心が和むと同時に、未来の気遣いが嬉しく感じた。


「あ、ごめん。ちょっと考え事してて」

僕は笑ってごまかした。本当は未来にすべてを話してしまいたい気持ちもあったが、どう言えばいいのかわからなかった。


「美咲さんのこと?」

未来は優しく尋ねてきた。その声には僕の心の奥深くに触れるような温かさがあった。僕の心の中を見透かしたようなその問いかけに、僕は驚きながらも頷いた。


「うん、最近あんまり話せてないから。ちょっと気になってて」

正直に答えた。未来にだけは嘘をつきたくないという気持ちがあった。


「美咲さんもきっと一樹君のこと、気にしてると思うよ。今度一緒に会う約束でもしたら?」

未来の提案に、僕は少し救われた気がした。未来の言葉は心の重荷を軽くしてくれる魔法のようだった。


「そうだね、そうしてみるよ」

未来の提案に従うことが、今の僕にとって一番の解決策に思えた。


束の間の沈黙、優しい風が僕と未来を撫でるように吹き抜けていった。風に揺れる木々の葉音が、僕たちの間の静寂をさらに際立たせているように感じられた。未来はチラチラと僕の方を見る。その視線に気づき、僕は心の中で未来の様子を探ろうとした。


未来がこんな風に落ち着かない様子を見せるのは珍しい。何か言いたいことがあるのだろうか。その思いが頭を巡り、僕は声を上げた。


「どうしたの?」

その問いかけに、未来は一瞬だけ目を見開き、すぐに視線を逸らした。未来の頬が少し赤くなっているようにも見えた。風がその赤みをさらに引き立てるかのように未来の髪を揺らしている。


「い、いや、なんでもないよ」

未来の答えはどこかぎこちなく、未来の心中を隠しきれていないように思えた。僕の発言に対して未来が顔を逸らして答えるその姿には、どこかしらの戸惑いや不安が垣間見えた。


それからの道のり、未来はどこか落ち着かない様子を見せていた。時折、地面を見つめたり、何かを考えるように遠くを見たりしている。その表情は普段の未来とは違って見えた。未来が何を考えているのか、僕にはわからなかったが、その不安定さが伝わってきた。


僕たちはそのまま家まで歩いた。未来の様子が気になりつつも、どう声をかけていいのかわからないまま。自宅の近くに差し掛かったところで、未来はふと足を止めた。その動作に僕は驚き、未来の顔を覗き込む。


未来の表情はどこか決心を固めたような、それでいて不安げな様子を含んでいた。未来の口が何かを言いかけているのを感じ、僕も緊張した。未来が何を言おうとしているのか、その言葉を待つ間に、心臓が早鐘のように鳴っているのを感じた。


「未来?どうしたの?」

僕は心配そうに声をかけた。未来の突然の動きに心臓が少し跳ね上がる。


未来は一瞬言葉を探すように目を泳がせ、深呼吸をしてからゆっくりと顔を上げた。その顔はだんだんと赤く染まっていき、普段の冷静な未来とは全く違う。未来が言おうとしていることが何なのか、僕には全く予測がつかなかったが、その真剣な表情に圧倒される。


「あ、あのさ」

未来は声を震わせながら話し始めた。その声には緊張と決意が混じっていた。


未来の赤面する様子に、僕もつられて心臓の鼓動が早くなる。未来の言葉を待つ間、僕の頭の中ではさまざまな考えが巡り、胸が締め付けられるような感覚に襲われた。


「わ、私・・・」

未来の声はさらに小さく、か細い。未来が何を言おうとしているのか、その言葉の重さを感じながら、僕は息を飲んだ。


そして、未来は目を閉じ、もう一度深呼吸をした後、一気に言葉を絞り出した。

「私一樹君のことが好きなの!」

その言葉は、未来の全ての感情を込めた叫びのように響いた。


未来の告白に、僕は一瞬何も言えなくなった。未来の真剣な目、赤くなった顔、そしてその震える声。全てが僕の心を揺さぶった。未来がこんなにも勇気を出してくれたことに対する驚きと、その気持ちは凄いなと思った。


でも答えは決まっている。僕には好きな人がいる。意地悪で、可愛くて、僕には釣り合わない。だけど、大好きな美咲が。


「ありがとう、で・・・も──」

僕はそう言葉を呟くと同時に、告白している未来の後ろに僕が一番愛すべき存在がいるのを見つけた。美咲だった。美咲は目に涙を浮かべていた。その姿を見た瞬間、僕の胸は締め付けられるように痛んだ。


美咲と目が合うと、美咲はその場から走り去っていった。頭が混乱し、心が千々に乱れる。どうして今、どうしてこのタイミングで…。その疑問が頭を駆け巡る。しかし、そんな僕をよそに、未来は静かに笑っていた。その顔は、夕日の光を浴びて美しく輝いていた。


「行っていいですよ?美咲さんがいたんですね。私は、ただ私の気持ちを伝えたかっただけなんです。それだけなんです。答えは要りません。来世で付き合って頂けると嬉しいです。」

未来は、声を震わせながらも強い意志を持って話していた。未来の強さに、僕は胸が熱くなった。今にも泣き出しそうな未来の顔を見ると、僕は感謝と申し訳なさでいっぱいになった。


「ありがとう、僕行くよ」

僕の声も震えていた。泣きそうになる自分を必死で抑えながら、未来に礼を言った。未来に背を向けると、僕は走り出した。


未来の泣き声が後ろから聞こえた。それが心に突き刺さるようで、僕の心臓を縛り付ける。だが、僕が泣いてはいけない。未来のためにも、美咲のためにも。


走り続ける僕の視界は滲んでいた。でも、僕が追うべき人は一人だけ──。美咲だ。美咲を追って、この思いを伝えなければならない。そう心に決めた僕は、全力で美咲の元へ向かって走り続けた。


♢♢♢

誰かが泣いている声がする。懐かしの公園だった。よく美咲とデートしていた場所だ。その思い出が心に蘇る。公園のブランコに揺れる一人の少女の姿があった。美咲だ。涙に濡れたその顔を見ると、胸が締め付けられるように痛んだ。


僕は声をかけた。「美咲?」


美咲は今の今まで僕の存在に気付かなかったのか、驚いたように顔を上げた。目は赤く腫れていて、涙の跡が頬を伝っていた。


「な、なんで…なんでいるの?」

美咲は驚きと戸惑いの表情を浮かべていた。僕がここにいることが信じられないという顔をしている。


「なんでって?君を追ってきたんだよ?」

僕の言葉は自然と出た。本心からの言葉だった。


「なんで、追うの?付き合えばいいじゃん、あの子と。可愛いしさ」

美咲の声はやけくそになっている。感情に任せた発言だ。美咲の痛みと混乱が痛いほど伝わってきた。


でも、僕は一歩近づき、美咲を優しく包み込むように言った。

「僕は君がいいんだよ。だから君を追ってきた」


「わ、わ、私?なんで・・・私はあなたと付き合っていい権利はないの。私はあなたをいじめた。でも…でも私は傍にいてくれるだけでよかったの。あなたが誰かと付き合うと、私は・・・私は関係を変えたくない」

美咲は泣きながら言葉を紡ぐ。その声は震え、感情に溢れていた。日本語が支離滅裂になっているのは、美咲の心の中の混乱と痛みの証だった。


美咲の言葉を聞きながら、僕は美咲の苦しみを感じ取った。美咲がどれほど僕を大切に思っているのか、その思いが痛いほど伝わってきた。同時に、自分がどれほど美咲を大切に思っているかを再確認する。


「美咲、君がどう思っていようと、僕は君が好きなんだ。君が僕をいじめた過去があっても、君の本当の気持ちを知っているから。君と一緒にいたいんだ。」

僕は美咲の肩に手を置き、目を見つめて言った。


「私に・・・私にあなたと付き合う権利はあるのかな?神様は許してくれるかな?」

美咲の声は震えていた。美咲の目には不安と葛藤が渦巻いているのが見えた。過去の過ちが美咲を苦しめ続けていることが痛いほど伝わってきた。


僕は一歩近づいた。

「大丈夫だよ、神様は見てるよ。美咲の努力を。美咲は変わった。僕は美咲が好きだ。美咲を愛して堪らない。美咲のことが頭の中に常にあるんだ。僕の人生をあげるから、美咲の人生をください。」


美咲の目が大きく見開かれた。その瞳には驚きと感動が混じっていた。涙がまた溢れ出し、頬を伝う。


「私・・・私も一樹が好き。大好き。」


その言葉を聞いた瞬間、美咲はブランコから降りて、僕の胸に飛び込んできた。僕は驚きながらも、美咲をしっかりと抱きしめた。美咲の温もりが僕の心に染み渡る。美咲の背中に手を回し、その細い身体を包み込むように抱きしめた。


長い時が流れるように感じた。僕たちの心が一つになる瞬間を感じた。やがて、美咲は顔を上げ、ゆっくりと顔を寄せてきた。美咲の綺麗な顔が近づくにつれて、僕の心臓が加速していく。胸の鼓動が高鳴り、世界が二人だけのものになる。


美咲の唇が僕の唇に重なった。柔らかく、温かい感触が広がる。キスはレモンの味と言われているけれど、そんなことはなかった。美咲の唇は僕にとって甘く、優しい味がした。まるで、長い間待ち望んでいた瞬間がここにあるようだった。


僕たちはそのまま、静かにキスを続けた。周りの世界が消え去り、ただ二人だけの時間が流れていた。僕は美咲を抱きしめながら、心の中で誓った。この先、どんな困難があっても、美咲と一緒に乗り越えていこうと。


美咲の唇が離れ、美咲の目が僕を見つめた。その瞳にはもう不安や葛藤はなく、ただ純粋な愛が輝いていた。僕たちはお互いの存在を確かめ合いながら、再び強く抱きしめ合った。


♢♢♢


大学生に上がると美咲の妊娠が発覚したとき、胸の奥には混乱と戸惑いが広がった。親からの忠告を無視したことが自分を責める原因となり、情けなさと恥ずかしさが心を侵食していく。心の中で、自分が不注意で愚かだったことを繰り返し反芻し、そのたびに胸が痛んだ。それでも嬉しさも混じって複雑の気持ちになった。


「お、怒られないかな?」

僕は自信を失って尋ねた。美咲の手が背中をやさしく撫でる感触が、少しでも心を和ませてくれることを願った。


「大丈夫だよ、私も一緒にいるから。」

美咲の声がやさしく、僕の心に安堵感をもたらした。美咲の言葉に励まされ、少し胸の重さが軽くなったように感じた。


ご両親の前で報告するために向かう途中、恥ずかしい過去の出来事が頭をよぎる。そのたびに、胸がギュッと締め付けられる。しかし、両親の前で抑え込んできた感情を吐き出すとき、思い出が喉元に詰まるような感覚に襲われた。

けど僕の心配と裏腹に両親が笑いながら受け入れられた。

美咲のお父さんからは“悲しませたら殺すぞ“と脅しを受けて、それを座右の銘にしたことは内緒だ。

ご両親との会話はほんのりと暖かな感覚が広がっていくのを感じた。


新しい生活が始まり、第一子が産まれた、性別は女の子だった。子供が生まれて日々がさらに忙しくなった。僕自身も、大学をやめて美咲さんのお父さんの会社で働くことにした。美咲のお父さんは優しく、仕事を教えてくれるだけでなく、暖かくサポートしてくれた。指導のおかげで、自信を持って仕事に取り組むことができた。


休憩中の食事の際、周囲に広がる穏やかな雰囲気とは裏腹に、僕の内なる不安がじわりと広がっていた。お義父さんが口を開くと同時に、心臓が跳ねるような感覚が僕を襲った。


お義父さんの提案に対する混乱と驚きが、僕の表情に滲み出ていた。

「一樹君、僕はそろそろ会社をやめようと思う。一樹、社長やってみないか?」

お義父さんの声は軽やかな口調であったが、その重みは明確に感じられた。その言葉に、僕は言葉に詰まりながらも驚愕した表情を隠せなかった。


「え?え?」

僕の混乱を無視して、お義父さんは話を進めた。

お義父さんは微笑みながら続けた。


「僕も長くは無いからね、結果を一番出しているのは一樹君だ。どうだ?嫌なら断って──」

その言葉に、僕の胸が高鳴った。自分に与えられたこの大きなチャンスを、僕は逃すわけにはいかないと確信した。


「やります!是非やらせてください!」

僕はお義父さんの言葉を遮るようにして、熱い思いを込めて答えた。その瞬間、自分の可能性を信じる自信が湧いてきた。お義父さんも僕の気迫に、少し押されたような表情を見せた。


お義父さんは笑顔で頷いた。

「お、おうなら頼むぞ」

その笑顔が、僕に対する信頼と期待を感じさせた。


それから二年が経過し、僕はついに社長に就任した。社長としての仕事は多岐にわたり、初めての経験に戸惑いを感じながらも、責任感と期待に背負われていることを痛感していた。


新たな職務に対する不安と興奮が、日々の業務の中で交錯していた。毎日が新たな挑戦であり、それに対する達成感と不安が入り混じっていた。


社員や取引先とのコミュニケーション、業務の計画や戦略の立案、予期せぬ問題への対応など、常に様々な課題に直面していた。それらを解決するための自信と決断力が必要だと感じながらも、時には自分の能力に疑問を抱くこともあった。


社員や家族、特に美咲と子供たちの存在が、僕を励まし支えてくれた。結婚生活は決して順風満帆とは言えなかった。時には口論し、離婚の危機に瀕することさえあった。その時、お互いの両親が介入し、冷静になるように促してくれた。様々な人々の助けと支えがあってこそ、僕たちはここまで来ることができた。


仕事が落ち着くと僕は家族との時間が増えた。


「お疲れ様」

いつも通り仕事から帰ってくると、美咲が出迎えてくれた。

顔もスタイルも高校生の時から変わらない程の美貌だ。

未だに男性から熱烈のアピールを受けて来る美咲を誇らしく思ったり嫉妬したりしていた。


「ただいま、疲れたよ」


「今日寄り道した?」

その言葉に僕は背筋が走った、美咲の言う通り僕は寄り道したからだ。


「うん?」

美咲の問いかけに、僕の心はざわめいた。美咲が僕の行動を気にしていることがわかり、背筋に緊張が走った。寄り道したことを否定しようと口を開こうとしたが、美咲の笑顔が僕を圧倒し、結局素直に事実を告白してしまった。


「うん、実はこれ誕生日プレゼントだよ」

美咲の誕生日が近い事もあり、僕は事前に買ってきた物を渡した。変な誤解をかけたくないからだった。それはダイヤモンドの指輪だった、二年間貯金していたお金を使って買った。人生最大の買い物だった。


「え?嘘・・・ありがとう」

美咲にプレゼントを渡す瞬間、僕の心臓が高鳴った。指輪を手にしたとき、その重みが美咲への愛情や願い、そして未来への期待という感情を象徴しているように感じられた。美咲の喜ぶ顔を思い浮かべながら、指輪を美咲に手渡した。美咲が驚きと感謝の言葉を口にすると、内なる不安がほどけていくような感覚があった。


美咲はその後、指輪を受け取りながら驚きの表情を浮かべ、そして涙を流して喜んでくれた。その姿を見て、幸せな気持ちと共に、安堵の深い息が出た。美咲の笑顔は、美咲の幸せが僕の幸せであることを再確認させてくれた。


その後、一緒に食事をして、子供たちと一緒にお風呂に入った後は、夜の静かな時間が迫ってきた。家族全員がリラックスして過ごす中、美咲との絆がより深まった瞬間だった。


「子供は寝たの?」

僕の問いかけに美咲は微笑んで答えた。


「寝たよ・・・」


「本当に可愛いね、美咲似かな?」

僕と美咲の子供には「(はなき)」美しい花のような存在であるよな、目立つような存在になって欲しいと名付けた。

(はなき)は可愛い寝息を立てて寝ている。そんな美咲はニヤニヤしていた。


「確かに、私可愛いものね」

美咲が軽く笑う。その微笑みは部屋に満ちる僅かな光を受けて、さらに輝きを増していた。


カーテンから差し込む光が、部屋に神聖な雰囲気を漂わせる。その中で、美咲の手が優しく、でも断固とした決意を感じさせるように僕の手に重なった。その温かな触れ心地が、僕の心臓を穏やかな喜びで満たしていく。


僕は美咲の目を見つめ、その美しい瞳に自分の感情を映し出す。その一瞬の間に、二人の間に微妙な緊張が漂う。


「・・・何か言いたいことある?」

美咲が可愛らしく顔を傾げる。その微笑みは、彼女の顔に小さな悪戯心が宿っていることを示している。僕は男だと自分に言い聞かせつつも、言葉を口に出そうとするが、何度も何度も喉が詰まる。彼女の目には、僕の内面を透視するかのような光が宿っている。その視線にさらされると、僕は自分の本当の気持ちを隠すことができないことを感じた。


「その、仕事も落ち着いてきたしさ、あのさ、その、ふ、二人、・・・め」

僕は言葉を詰まらせながらも、徐々に小さな声で言葉を続けた。恥ずかしさが胸に満ち、言葉を口にする度に顔が赤くなっていくのを感じた。


「え?聞こえない?何?」

わざとらしく、美咲は顔を近づけてきた。その近さに、彼女の魅力的なスタイルがより際立つ。谷間が見えるその姿に、俺は恥ずかしさとともに一歩後退した。


「いや、すみません」

結局、僕は男らしさを示すことができなかった。


「馬鹿、意気地無し」

彼女の厳しい言葉が僕の心を突き刺した。その夜はいつもよりも濃密な時間を過ごした。そして数週間後、第二子が発覚した。喜びと同時に、責任を強く感じ、ますます仕事に打ち込む決意を新たにした。


第二子が産まれると名前を花恵(はなえ)にした、愛嬌がありどこまで可愛いく自分らしさを貫いて欲しいからだ。


♢♢♢


数年が経ち、(はなき)は幼稚園児になった。彼の可愛らしさに、僕も美咲と共に微笑んだ。


しかし、今年は厄年なのか、不幸な出来事が続いた。美咲のお父さんが病死してしまった。お葬式には多くの人々が参列し、美咲と僕は終始泣いていた。お義父さんの存在がなければ、僕たちの家族は成り立たなかったと思う。


それから美咲の病気が発覚した。医師からは余命が5年と告げられた──。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ