て
代が存在しないかもしれない、という可能性を示されて、ぞっとするはなと日向。
雅人の代わりに瑤がいなくなる世界は正しくない、と代は言っていた。けれど、それで代がいなくなっていい、ということはない。
「呵神さんちはほとんど留守だから、車もないし、誰もいないと思うよ」
「そう、ですか」
そう話していると、かちゃ、と鍵の開く音がした。
ぱっと振り向くと、遠慮がちに玄関の戸ががらがらと開く。中から顔を覗かせたのは、女の子だった。
「代ちゃん!」
「ぁ……こんにちは」
どこかよそよそしい代に日向は違和感を覚える。代はコミュ障といえばコミュ障だが、こんなに人見知りする感じの子だったろうか。
「日向さんに周藤さん、ですよね?」
「えっああ、うん……」
滅茶苦茶よそよそしく苗字で呼ばれたので、慣れなくてびっくりする。代は目線を泳がせてから、二人に言った。
「お話なら、明日、学校で。わたし、留守番してるから、本当は鍵開けちゃ駄目なの」
つまり、親の指示で居留守を使っていたということか。まあ、小学二年生の一人で留守番はそういうものかもしれない。
それでも出てきてくれたのは、はなと日向に何か思うところがあるからだろうか。
「また明日、学校で」
「うん、また明日」
「結局、何だったんだろうね? 夢から醒めたにしては現実の時間進んでなかったし」
「タイムトラベルでしょ」
「そういうご都合的なもんかね?」
家に帰りながら、はなと日向は話した。
未だに、何故二人が巻き込まれたのかはわからなかった。話の主軸となっていた代なら、何かわかるのかもしれないが。
たまたま巻き込まれたのか、はなと日向でなければならなかったのか。体験したことから断定できる情報はない。しかも、代があんなに輪をかけてよそよそしかったのも気になる。
「夢だったんじゃないかって思うほど、変な話だったよね」
「……腕とかつねっといてみるんだった」
今更つねっても意味のない腕の肉をつまみながら、日向は納得のいかなさそうな顔をする。
「代って不思議な子だね、何にせよさ」
「うん、まあ。再認識した感じ」
明日学校で会ったら、なんて話をしようか。そんなことを二人して考えたのは、また別の話である。
「三人で絵本を作ろうよ。タイトルは白い鳥がいいな。はなちゃんは絵が上手いし、ひーちゃんは物知りだし」
「代は?」
「小説を書いてみたいんだ」
「ちなみに、書いてみたい話ってあるの?」
「うん。わたしたち三人で、一年前の世界に飛ばされちゃって、帰るために白い鳥を探す話」
そこから、物語が始まって、終わった。