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第4話 ~ジョブチェンジっ!~

 もっとナナと一緒にいたかったなと後ろ髪を引かれつつも、あまり身勝手なことをしてナナに迷惑をかけるのもなとエレベーターの中で考えていた。


 なんにせよ。俺のせいでナナが天使になれないのだけは許せなかった。


 とはいえ。あんな従順で働き者の良い子がなれないのならあのお姉さんはどうやって天使になったのだろうと疑問が湧いてくる。


 コネか。あるいはなんらかの不正を働いたに違いない。どちらにしても俺には関係のない話だ。ナナのために頑張ろうと心に誓ったと同時にエレベーターの扉が開く。

 昨日と同じように番号札を渡されて、昨日と同じように呼ばれて部屋の中へ入り、昨日と同じように椅子に座る。


 まるで再就職を求めてハローワークに通っている気分だ。


 そして、昨日と同じようにお姉さんが……って。だ、誰?


「おはようございます。大神さんっ」


「お、おはようございます」


 拍子抜けだ。いきなり担当が変わるなんて聞いてないし。あっていいことなのか?

 それに物凄く美人だ。正に天使の名に相応しい。サラサラの長い髪はきれいにまとまってタイトなパンツスーツはこれこそ本物のキャリアウーマンの名に相応しい。そして、なかなか良い形のお尻だ。


 美人のお姉さんは向かいの椅子に座る。なにを思ったのか大して大きくもない胸をワイシャツの中から強調してくる。


「え、えーっと……」


「あれー? なにも感じませんかー?」


―――ん? このバカっぽい喋り方どこかで聞いたような……。ま、まさかこいつっ!


「し、失礼ですけどお名前を伺っても?」 


「や、やだなー。大神さん。私ですよ。私っ」


「わたしさんですか?」


「そんな変な名前あると思いますー? コ、コホン……。優しくも気高き美人キャリアウーマンことっ。リサ・グリューモアですよっ!」


―――いや……。立ち上がって言われても。しかもなんか増えてるし。


「そ、その格好はどうしたんですか?」


「あれれー? 気づいちゃいます? わかっちゃいますー?」


―――マジで面倒臭いやつだな……。言ってほしいだけだろっ。妙なポーズをすなっ。


「いや、見違えたなー。あはは……」


「私……。昨日大神さんに言われて改めて気づいたんですっ」


「き、昨日? な、なにか言いましたっけ?」


「またまたーっ。そういう知らないフリをする大神さんも意地悪で素敵ですけどー?」


―――いや。マジで記憶が……。転生先の説明は聞いたけどあまり覚えてないし。ほとんどナナとの時間しか覚えてない……。―――あっ!


「合コンのことですか?」


「あ、あの……。むしろ思い出したくないことを思い出させないでくれませんか……」


「す、すみません……」


「昨日私に言ってくれた言葉ですよーっ。ほらほらっ。思い出しちゃってくださいよー」


「ほ、本当に覚えてなくて……」


「びっ」


「び?」


「じっ」


「じ?」


「んーっ!」


「はっ?」


「で、ですからっ。私のこと美人で仕事のできる知的な女性だって言ってくれたじゃないですかーっ。……もうっ」 


―――ああ……。美人ね。確かに言ったような……。っていうかっ! その後の言葉を言ったつもりはねーぞっ! 


「い、言いましたね……。けど仕事ができるとは一言も……」


「えーっ? 私を美人でキャリアウーマンだって言ってましたよー?」


「いや。言ってませんよ?」


「確かに言ってましたっ!」


―――こいつっ! 自分で勝手に言ったことを都合よく変換しやがって……。もう面倒臭い。それでいいや。俺が言ったことにすれば満足するんでしょ?


「あ、ああっ。言いました言いましたっ。つ、疲れてるんですかねー?」


「まったく…意地悪さんですね? 思い出してくれればいいんですよ。それよりもお疲れなんですか? ちゃんと眠れてますか?」


「ま、まあ。眠れてはいますけど」


「けど? けどなんですっ? お世話係がとんでもないやつだとか?」


「い、いやっ。お世話係の子はとてもよくやってくれてますよって……お世話係のこと知ってるんですか?」


「そんなの当たり前ですよー。私だって天使の前は見習い天使としてお世話係をしてますからっ」 


―――こいつがお世話係か。お世話された方は大変だったろうな……。ナナで良かった。


「ちょっと聞いてもいいですか?」


「はい。でもスリーサイズはNGですよ?」


―――お前のことじゃねーよっ。相変わらずウザいというかいちいち面倒臭いやつだ。


「お、お世話係ってどうやって天使になれるんですか?」


「そうですねー。……んー。どうやってなるんですかね?」


「えっ? お姉さんもお世話係だったんですよね? どうやってなったんですか?」


「普通にお世話してたお客様が転生された後に大天使様に呼ばれて「明日から天使ねー」みたいな感じでしたよ?」


「そ、そんなに軽い感じなんですか?」


「大天使様はそんな話し方はしませんけど。大体そんな感じです」


―――なんか……。こいつの話はいまいち信用できないな。全てが嘘っぽく聞こえるのは俺だけなのか?


「まあ、大神さんのお世話係がちゃんとした見習いの子で良かったですよ。稀にかわいい顔してとんでもない見習いもいますからね」


―――でしょうねっ。あなたを見ているとそれだけは信じれますよっ。


「た、例えば……どんな感じなんですか?」


「一番は態度ですかねー?」


「ああ。態度が悪いということですか?」


「そうですねー。一番ダメなのはお客様の前以外でお客様の悪口や愚痴を言ったりすることですかねー。大天使様はいつも見ておられますので」


「なかなかしっかり見てくれてるんですね?」


「そりゃあ。大天使様ですからねー。とはいっても献身的なお世話は誤解を受けやすいですからねー」


「誤解?」


「大神さんもすでにご経験済みかと思いましけどー。例えばお風呂で背中流してもらいますよね?」


「ま、まあ……」


「たまにお客様の中になにを勘違いしてるのかお世話係に手を出そうとする輩がいるんですよー。見習い天使たちは言われたことをって教えられているので当然逆らいませんよ。それをいいことにエスカレートするんですよー。最低ですよねー」


―――あ、あっぶねーっ。ナナに変なことしなくて良かった……。


「それを見習い同士で言い合うんですよ。私の周りでもそういう子いましたもん」


―――ああ。OL同士の愚痴みたいな感じか。


「でも悪いのはお客なんじゃないですか?」


「そうですね。でもそういった勘違いを起こさせる要因も持ってるってことなんじゃないですかー? 媚びたりする子も中にはいますから」


「な、なるほど。ち、ちなみお姉さんはそういったことは?」


「私の時はなかったですよ? 当時の眼鏡は旧型の瓶底眼鏡でしたし。私は教えられたことしかしてませんし。それに……愚痴を言い合える友達もいませんでしたから……あは……あははは―――」


―――な、なんか聞いてすまなかった。素直に謝るっ。


「そ、そうですか……。じゃあ、普通にお世話してれば問題はないと」


「そうですね。教えられたことを守れば問題はないと思いますよー? あっ。でも稀なケースで……凄く真面目で一生懸命な子がお客様と結ばれるってのもありましたね」


 それを聞いて一瞬胸の奥が掴まれた様な気がした。


「そ、その子はどうなったんですか?」


「消滅しましたよー?」


「しょ、消滅? 天使見習いが消滅したんですか?」


「はい。気持ちはわからなくはないですけどー。お世話係の仕事はあくまで転生されるお客様のお世話ですので。やはり献身的なお世話と恋愛は違いますよ。その子はお客様と結託して転生をずっと引き延ばそうとしたんですけど。それが大天使様にバレて消滅させられたってわけです」


―――そうだよな……。どこかでいつもその大天使とやらが見ているのならそんなこと許すはずがないもんな……。あー……。俺はナナにその過ちを犯させるところだった。ナナさえよければなんて……。


「そんなに恋愛がしたいのなら天使になってからいくらでもすればいいんですよー。わ、私は彼氏もいませんしー? ま、まあ。大神さんなら―――――」


―――甘かった……。ずっと一緒にいたいって簡単に考えていた。俺がそれを望めばナナは消滅する。それに今朝ナナを立派な天使にしなければと誓ったばかりだったのに……。


 聞いといてよかった。自分勝手な都合でナナを不幸にするところだった。


―――もう…変な期待を抱くのはやめよう。これじゃあ。おだてられて調子に乗ったどこかのバカ天使と同じじゃないか……。


 俺は新しく生まれ変わり、ナナは立派な天使になる。

 それがハッピーエンド。それ以外のことをするのも考えたりするのもしてはいけないんだ……。


「―――みさん? 大神さん?」


「はっ? な、なんですか?」


「なんですかじゃないですよー。聞いてましたー?」


「いやっ。全然……。す、すみません」


「聞いてなかったんですかー? でも聞かれなくて良かったかもっ。てへっ」


「な、なんの話でしたっけ?」


「い、いいんですよ。こ、こっちのお話でしたので……。まあ、おしゃべりはこのくらいにして今日も転生先の説明の続きをしましょう。では昨日の―――――」


 その日。お姉さんの説明は全く頭に入らなかった。


 ナナのことを考えては自分を責め。責めてはナナのことが頭に浮かんだ。

 わかっていてもそんな簡単に割り切れるわけがなかった。


 ナナが俺をどう思っているかなんて知らない。でも俺は俺の気持ちを知っている。

 これからどう接すればナナのためになるのか結局答えは出せなかった。


 その日もお姉さんは「大神さんのためなら? 残業なんて苦じゃないですよー」と言っていた。

 どこか帰りづらい雰囲気もあったせいかそれを承諾した。心なしかお姉さんが頬を少し赤くしたのを気づいたが面倒臭いのであえてスルーした。


 面談の時間が終わり、エレベーターに乗ると改めてナナを思い出す。


―――これから会うのに……どんな顔をすりゃいいんだよ……。 



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