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第2話 ~ぼうけんのしょのさくせいにしっぱいしました~

 感慨深い時間が過ぎ去るのは早い。


 ナナに見送られて施設を後にする。その際もらった弁当がやたらと重く感じたのを覚えている。

 エレベーターの扉が閉まると同時に無性に元の生活が恋しくなった。


 理由はわからない。これから起こることに目を背けたかったのかもしれない。


 転生館についた俺は番号札を受け取る。長椅子で待ってる人たちは俺と似たような境遇なのだろうか。

 次々と番号が呼ばれる中。俺の番号も呼ばれた。昨日と同じ部屋かどうかわからないドアを開ける。そして、昨日と同じように置かれた椅子に座る。


 しばらくすると昨日のお姉さんが現れた。


「おはようございます……」


 どこか元気のない挨拶に拍子抜けした。なにかバカっぽいことを言って笑わせてくれるのではないかと期待していたからだ。


 その元気のない挨拶に似たようなテンションで返す。


「おはようございます」


「……大神さん。昨日はよく眠れましたか?」


「ま、まあ。なかなかいい宿泊施設でした」


「そうですか。それは良かったですねー」


 なんか朝から面倒臭い。こいつはバカっぽかったからいいのであって、機嫌の悪そうな態度をされてもなんかイラっとする。そう思っているとふと昨日の会話を思い出した。


―――あー……。合コンダメだったのか。


「き、昨日の合コンどうでした?」


「それ……。聞きたいですか? むしろ私の口から言わせたいと?」


「い、いや。言いたくないなら別に」


―――なんでこっちが気をつかわなきゃならないんだ。自分で策を練ってたみたいなこと言ってたくせに。ああっ。あの魔法を使ったせいでドン引きされたに違いない。それしかない。絶対にだっ!


「そうですよね。私のせいで大神さんの貴重な一日を無駄にしたんですからね。うへへ……うひひ……」


―――こ、怖い。むしろ聞きたくない。話を振ってすみませんっ。


「実はですね。昨日あれからダッシュで会場に向かいました。着替える時間もなくそのまま行きましたよ。ええ。わかってましたよ。友達は目一杯お洒落な格好でしたよ。そんな中、私は一人このままですよ。初めは物珍しそうにいじってくれた男性群もそのうち構ってもくれなくなりましたよ。そりゃあ、私は人見知りですよ。男性に免疫もないですけど。あからさまに私を避けるような行動はどうなんでしょう? 小学生の時にいじめに遭ってた頃を思い出すくらい切なくなりましたよ。それでも―――」


「も、もう大丈夫ですっ。それ以上はっ」


「ああ。そうですか。私は合コンの失敗談を語る資格すらないと……」


―――うわー……。めっちゃヘコんでるな。


「そ、そうじゃなくて」


「慰めなんて必要ないですよ。最初からわかってましたから。数が足りないから誘ってくれたのも。そんなに仲の良くない人たちから誘われておかしいなとは思っていましたよ。だって私、友達いませんし…………」


「ほ、本当にもういいですからっ」


「そうですか……」


「お姉さんってもしかして付き合ったこと……ないとかですか?」


「はい。男性の方とはそういった関係にはなったことはないです。それがなにか?」


「な、なんとなくそうは思ってただけですけど……」


「大神さんにすらバカにされる私って存在価値ないんですかね?」


―――こいつっ。無意識に人を傷つけるような発言をっ。


「で、でもお姉さんそこそこ美人ですし。スタイルも悪くないし。そういうネガティブな考えをなくしたらモテるんじゃないかなー……なんて」


「そこそこ美人?」


「い、いや。初めて会った時から美人だなーって思ってましたけど」


「大神さん……」


―――し、しまったっ。言葉のチョイスを間違えたかっ!


「それ本当ですかー?」


「はっ?」


「いやいや。初めて会った時から美人だって話ですよー」


―――声色が変わったぞ。これは喜んでいるのか?


「ま、まあ。眼鏡がキツめかなーとは思ってましたけど。お姉さんはきれいな顔ですし。そ、そこそこ美人だと思いますけど」


 とは言ったものの。別に好みでもなければ俺は女性経験など皆無だ。確かに美人に思ったのには違いないが。そこそこ美人かなーと思っただけでそれ以上の他意はない。

 しかしながらお姉さんはそこからいつもの調子で語り始めた。


「そうですか……。そうですよねっ。結局、眼鏡って属性だなんだ言われてますけど。それは一部のフェチ衆によるもので普通の男性方からすればただ目が悪いだの根暗だのそういった印象しかないですよねー。実は私。コンタクトもあるんですよ。眼鏡を外すと若い頃のお母さんそっくりでかわいいとお父さんが言ってくれるんですよー」


―――聞いてねー……というか面倒くせー……。


「おばあちゃんもリサはとても美人さんだねぇって会う度に言ってくれるんですよー?」


「は、はあ……」


「大神さんも見た目はパッとしないですけどー。よく見たらイケメンぽいっていうかー。優しそうですし? 私的にはありかなーと」


「はあ。どうも……」


―――こいつ……ウザっ。ちょっと煽てたらすぐ調子に乗りやがって。見た目がパッとしないとかイケメンぽいっとか。絶対褒めてねーだろっ。


「大神さんはどうですか? 美人のキャリアウーマンとか?」


―――美人のキャリアウーマンには惹かれるが……。まさかこいつ自分のこと言ってるわけじゃないよな? だとしたら……。


 異性に免疫がないやつは惚れっぽいというが。


「ま、まあ。美人で仕事ができる女性は凄く素敵だと思いますけど」


「ですよねーっ? 大神さんって見る目があると思っていたんですよー。それにその年で童貞ですから? 浮気とかしなさそーですよねー」


―――イ、イラつく……。マジで褒めてんのか貶してんのかわかんねー。というか。自分をキャリアウーマンだと言いたいのならまず仕事しろっ。


「て、転生の件は?」


「ああ。そうでしたね?」


―――完全に忘れてたな……この女。


「ではではっ。この美人キャリアウーマンっ。リサ・グリューモアの本気を見せてあげますよっ!」


―――と、とうとう自分で言いやがったっ。


「よ、よろしくお願いします」


「それで大神さん。昨日、少しは考えてきましたか? まだ異世界に興味がありますか?」


―――あー……全然考えてねー。昨日はそれどころじゃなかったからな。


「いろいろあって考える暇がなかったというか……」


「いろいろですかー。いろいろなにがあったんですか?」


「そ、それって言わないとダメですか?」


「無理にとは言いませんけどー。大神さんが悩んでるのなら助けてあげたいじゃないですかー。美人キャリアウーマンは優しさまで兼ね備えてるってわけですよっ」


 もはや美人キャリアウーマンってのは決定事項のようだ。


「いや。いいです」


「そ、そんなこと言わないでくださいよー」


 お世話係の少女に欲情したなんて言ってみろ。こいつは必ずネタにしてくる。

 ロリコンで変態扱いされるに決まってる。


「本当にいいですって。それより、ちゃんと話を」


「大神さん? もしお悩みがあるならいつでも聞きますからね?」


「は、はい。ありがとうございます」


「大神さんのためなら一肌でも二肌でも脱ぎますからっ。あっ。でもでも本当に脱ぐわけではないですからねっ。ケダモノのようないやらしい目を向けないでくださいっ。キャーっ。犯されるーっ」


 さすが友達のいないぼっちだ。もはや自分が中二病ですら気づいていない。なんか哀れというか……。


「いいから始めてくれますか?」


「そ、そうですね。では―――――」


 昨日のリストを基にお姉さんは転生先を一つ一つ細かく説明してくれた。

 これだけならキャリアウーマンと呼んであげてもいいくらいの丁寧な説明。おだてられて気分を良くしたからだろう。まあ、とりあえず美人というのは置いといてだ。  


 だが、こいつはちょいちょい調子に乗っては「それってお悩みですか?」などと恩着せがましく口を挟んでくる。

 相当お悩みを解決したいらしいが、こいつの望んでいるのは優越感。人の悩みを解決するのではなく悩みを持った人に対して上からものを言いたいだけ。友達のいないやつの考えそうなことだ。

 共感したつもりでもそれは所詮他人事だ。


 それは俺も同じかもしれない……。ナナに対して頑張ってほしいと思いながらも俺のお世話係にたまたま選ばれただけ。ナナじゃない子が同じようなことをしていたら俺はその子に対して同じ思いを持つだろう。


 そう考えると俺はこいつと同じことをしている。


 くだらない質問を上手くかわしながらも。さすがにあのリストの全てを説明しきれずに時間がやってきた。


 お姉さんは「今日は残業してもいいですよ?」と笑顔で言ってはいたが。似たような説明を延々聞かされていた俺はそれを断った。


 お姉さんのお化粧が少し崩れ始めたのも相まって、また明日説明の続きをとその場を後にした。

 一番の理由は。もう一度ナナとの夜を早く過ごしたい。それだけだ。


 エレベータに乗るとどこか冷静になれる。


 ここに来てなにをするべきかなんてわかっている……。

 ナナになにかを求めてしまう自分が情けなくても。あの笑顔を見たくて開いたエレベーターから差し込む光に目をすぼめていた。

 



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