人探し
このページを開いてくれた読者の皆さん、本当にありがとうございます。
この作品は私の初めての作品になります。足りない部分もありますが、気が向くままに読んでいただければ幸いです。
どうぞお楽しみください。
「今日は開渡くんの誕生日ですね」
神移綾はリビングの片付けをしながら家主の小渡阿閉に話しかけた。
「ええ。ですから今日は頼みましたよ」
「はい!任せてください」
神移綾は小渡阿閉の家(探偵事務所)の家事代行のバイトを行っている。小渡家の両親は海外でマンションのビジネスで大成功を納め、両親は今は海外に住んでいる。
残された2人の兄弟、厚閉と開渡は都内の大きなお屋敷に住むことになった。
親のビジネスのお陰でお金に困ることがないため、高額な給料で家事代行を求人し、それに飛び付いたのが綾ということになる。
「今日は帰りに友達と遊んでくるそうだから、開渡の帰りは5時半ほどになるだろう」
「少し心配ですね。最近物騒なニュースも多いですし」
「開渡に万が一があるとも思えんが、その時はぼくがいるだろ?」
「そうですか……でも最近子供の誘拐が増えてますよね」
「マフィア関係だね。君が始めてきた時もマフィア絡みの事件だったろ?」
「子供の誘拐ってマフィア絡みだったの!」
「ああ、一般には伏せられているからね。まぁ心配はないよ」
神移綾は、そもそもマフィアがこの街に潜んでいることすら知らなかった。マフィアなんてドラマや映画の世界だけのものだと思っていた。はじめてここにきた時、マフィア絡みの事件に巻き込まれた経験がある。その時も、なかなか理解することができなかった。
「マフィアって怖いね。東京の真ん中なのに……」
「気にすることはない。いつだってここは安全だよ」
「だといいですけど」
「君が来た時だって安全だっただろ」
「そうでしたっけ?」
そう言うと神移は書かれた仕事をテキパキ片づけ始めた。掃除洗濯をテキパキ終わらせると、食器洗いを終わらせ、夕飯の買い出しの準備をした。
「じゃあ、私は買い出しに行ってきます」
「いってらっしゃい」
「夕飯は期待しておいてくださいね!」
阿閉は買い物に出かける神移を見送る。
それから数分か十数分ほど経ったころ、インターフォンのベルがなる。
「はい、どちら様ですか?」
「表札に探偵事務所とあったので」
「ここは探偵事務所であってますよ。どうぞ中へお入りください」
訪れたのは30代前の女性、名を道原 浅見という。肩にかかる程度の黒髪、指には黒のマニュキュアが綺麗に施されている。キリッとした目で、theビシネスウーマンのような容姿をしている。
「座った状態ですみません。なにぶん足が悪いものでして、どうぞ荷物は横の机にでも置いてください」
「いえ、大丈夫です。それで探偵さんは?」
「僕です。不服でしたか」
「あ、いえそういう訳では...」
少々驚いた表情をした道原だったが、膝の上に置いた鞄から写真を取り出し机の上に置いた。
「この子は、私の子供で『道原歩夢』といいます。昨晩から歩夢くんが帰ってこなくて」
「歩夢くんですか」
「いつもなら夜までには帰ってくるはずなんだけど、昨日は帰ってこなくて」
「行方不明という訳ですね。警察に捜索依頼は届けました?」
「まぁ、警察ってあまり信用ないじゃないですか。今ってマフィアとの抗争が激化して、警察もそれどころじゃないというか。子供が帰ってこなくても家出とか、思春期の子供ならそーゆーこともよくあるとか」
「確かにバカっぽい顔をしてますもんね。目なんかは特にそう」
「はぁ……」
「でもまあ、依頼とあらば見つけますよ。問題はありません」
「大事な子供なんです。よろしくお願いします」
道原は阿閉の目をしっかりと見据えて依頼内容を語っていた。阿閉もその言葉に耳を傾け頭を働かせる。
「しかし、そうですね。子供が行方不明となるとマフィアの誘拐の可能性もあるんじゃないかと思いますが」
「そうなんです。なのでいち早く見つけて欲しいんです。お金なら払いますから」
そこから歩夢くんの情報を事細かに教えてもらった。
歩夢くんは、ちょうど開渡と同じ年で身長は少し小さめなようだ。性格はおとなしいらしい。行方不明になった原因は不明。あまり外に出る性格では無いそうで、よく行く行き先などは分からないらしい。親とも話さないので、友好関係も分からないそう。
「どうか、早く見つけてくれないでしょうか?」
「ええまぁ……いえ、それよりもう少しお話をしましょうか」
「いいですけど、もう話すことはないですよ?」
「その歩夢くんという少年はおそらくギフト持ちじゃないですか?」
「いえ、ギフト持ちではありませんよ。それと捜索になにか関係でも?」
「ではあなたがギフト持ちですか?僕の推測ではどちらかがギフト持ち、おそらく少年の方がギフト持ちだと思うんです」
「いいえ、ですから捜索を」
「あなた、マフィアですよね?それも下っ端の方でしょう」
「?!」
道原浅見はガタッと立ち上がり、阿閉を睨みつけた。持っていたカバンに手を入れると、中から鋭利な刃物が取り出された。
「十歳にしては賢いのね。よく私がマフィアの一味だと気付いたわね」
「それほどでもありませんよ。僕は車椅子の身です。そんな恐ろしい刃物をしまってもらえると嬉しいのですけど」
「賢い僕ちゃんならわかるでしょ?マフィアがそんなに優しい訳ないでしょ」
そう言うか早いか、浅見は阿閉に向かって勢いよく切りかかった。鋭い刃物は熟練された体術からくり出された斬撃は阿閉の心臓へとまっすぐ突き進んだ。
瞬間、車椅子に座る白髪の探偵を名乗る少年の口角がニヤリと上がったような気がした。
「密室の推論者、ここであなたができるのは僕と話すことだけだ」
阿閉の心臓に突き刺さるはずの刃物はこの世ならざる見えない力によって弾き飛ばされた。
「なっ?!ギフト持ち!!」
「さあ浅見さん、お話をしましょう。なぜ歩夢くんの誘拐をしたのか」
浅見は訳がわからず後ずさる。車椅子に座った少年は微動だにせず悠々と話しかける。
吹き飛ばされた刃物は床に転がり、ガチャと音を立てた。
どうする?浅見は自問自答する。刃物が弾かれた?車椅子の少年の言葉が本当ならやつはきっとギフト持ちだ。言葉からするに攻撃を無効化する能力。それか無敵のバリアを生成する能力か?とりあえずやつとの戦闘は不利だと考えた浅見は外へと続く扉へと走った。
「なぜ、なぜ開かない!」
勢いよく扉を力一杯開開こうとするが、扉はピクリともしない。鍵も開けれず、窓も思いっきり割ろうとしてみたが傷ひとつつかない。
「いったろ?僕のギフトは密室だよ。出れてしまえば密室にならないだろ?そろそろ開渡が帰ってくるころだろ。申し訳ないが時間だ」
車椅子の少年は少し顔を傾けてにやけている。
しかし待てよ、やつの能力からして戦闘向きではない。そしてやつは足が不自由ときた。やつの息の根を止めることは出来なくても、やつに負けることは満にひとつもない。浅見はそう確信した。
その心の甘えが少しばかりの油断を生んだ。部屋の奥から飛んでくる白い何かを躱すことが出来なかった。いや、浅見もそこまで油断はしていなかった。瞬時に体を横にかわした。けれど、白い何かは浅見に向かって方向を変えた。
この先の記憶はない。肩にぶつかった気がするが、急に意識がなくなっていく。どれだけ頑張っても意識を保つことが出来なかった。
浅見はその場に倒れこんだ。
ここまで読んでいただき誠にありがとうございます。
いかがだったでしょうか?よければ解答編も一読していただければ幸いです。
拙い部分もありますが、どうか感想・ご指導の程よろしくお願いします。