漫才「猫の名前」
漫才「猫の名前」
配役:A……ボケ
B……ツッコミ
B:
どうも~、よろしくお願いします。
A:
開口一番、飼ってるの猫の話するよ。
15歳の茶トラで、去勢しているし寝てばっかりだから少しデブだけど、かわいいんだ。
B:
どうした?でも、幸い僕もお客さんも全員猫派ですからね。話続けて。
15歳って長生きだね。なんて名前なの?
A:
いのちって漢字で書いて、みこと。
俺はミーちゃんって呼んでる。
B:
ミーちゃんか。
それなら、ミーちゃんって名前にすればよかったんじゃない?
A:
名前つけたのお母さんなんだ。俺はみことって名前気に入ってないから、ミーちゃんって呼んでる。俺は「ニャン太」がいいって言ったのに。お母さんセンス無いよね。
B:
僕だったら、「ひまわり」って名前をつけるかな、茶トラだし。
A:
うちの猫はオスだし、「ひまわり」みたいなメスの名前をつけるのって、それはどうなの?
これが動物虐待か。
B:
虐待じゃねぇし。
でもそれなら「ミーちゃん」じゃなくて「ミー君」って呼ばなきゃダメじゃないの?
A:
大丈夫。俺もお母さんにAちゃんって呼ばれているし。
B:
猫と人間を一緒にするなよ。
A:
あー今思ったけど、性別を判断するときって、ついているかどうかで判断するよね。ミーちゃん去勢しているから、メスだね。
B:
いや、オスだろ間違いなく。屁理屈すごいな。
ちなみに、飼い猫って臭かったりしないの?
A:
ま、正直匂うよ、お風呂入らないし。茶トラだから体にうんちが付いていても分かりにくい。もはや全身糞尿毛玉。
B:
表現が汚すぎる。あれ?猫好きなんだよね?猫飼ってる人が使う言葉じゃないよね?
A:
俺が15年前に猫飼いたいって言った時の話なのだけど、お母さんに言われたんだよね。「餌やりやトイレ交換、そういうお世話が続けられるの?1週間しっかり考えてみて、それでも飼いたいなら飼ってもいいよ」ってね。
B:
いいお母さんだね。小さくても1つの命だから、大事にするように教えられたんだね。
それで「みこと」って名前なのかな?
A:
それでさ、その1週間、ずっと言われ続けたの。「肉食動物だから臭いよ。うんち踏んだ足で部屋中歩き回るよ。全身糞尿毛玉だよ」って。猫を飼いたい気持ちを無くさせるためにね。ま、試練ってやつかな。
B:
なんだその汚物の試練。教育としてどうなの?
A:
でさ、そんな試練はあったけど、俺の猫飼いたい気持ちは全く変わらなかった。
変わったのは、母親の印象と俺の言葉遣い。
B:
だろうな、精神攻撃だもん。性格が歪んじゃうよ。
というか、猫飼いたいって言っている子供に名前をつけさせてくれなかったんだね。
A:
そう。お母さんの主張はね、「餌代や病院代で色々とお金がかかります。払うのは私です。つまり、私が猫の命名権を購入したことと同じです。私には命名権があります。ネーミングライツです」って譲らなくてよ。
結果、俺は命名権を失ってしまったんだよ。
B:
大人げない、札束で子供を殴るのは大人げない。子供はあまりにも無力だよ。
あれ?猫は臭いとか悪口散々言っておいて、名前は自分でつけるんだ。なんだか怖いね。
A:
でも、いざ、名前を付けるぞって時に、お母さんはいい名前が思いつかなかったんだ。
権利は主張して義務を果たせないなんて、大人として失格だよね。
B:
つまり、付けたい名前が無いのに命名権を買ったってことだよね。え、怖い。
A:
でさ、大見得を切った手前、適当に名前も、俺の案にもできなかったのよ。負けた気がするからだってさ。
プライドってのは人を縛りつけるんだ。
B:
ちょいちょい教訓挟んでくるね。
でも名前がないなら呼ぶこともできないね。
A:
そうなんだよ、だから飼い始めてからの1か月間ね。新しく子猫を迎えてテンション上がっている時だよ。おそらく猫の1番可愛い時期にだよ?
俺らの家族みんな「猫」って呼んでたもん。
B:
狂気だよ、そんな家ある? 怖い。
A:
お母さんは良い名前を付けようって散々悩んだみたい。
最終的に、『命名権とは「みことと名づける権利」のことだー』って言って。
んで、命に決定。
B:
唐突な漢文読み、どんな発想だよ。
あれ?お父さんはどうしたの?猫飼うことや名前つけることに何も言わなかったの?
A:
うん何も。猫飼うのは賛成してくれたし。猫~って呼びながら、ごはんおいしいか~?よ~しよしって話しかけてたし。猫って名前を彫った首輪買ってきたし。
B:
お父さんもなかなか。
……なんだか変わったご両親だね。
A:
あれ?さっきから俺の両親を悪く言ってない?聞き間違いじゃないよね?
B:
ごめん、勢いでツッコみすぎてしまった。
A:
まあ、許すよ。
B:
あの、もしよかったら今度遊びに行ってもいい?おやつ買っていくからさ。
話を聞いて会ってみたくなっちゃった。
A:
俺の両親に?
B:
猫にだよ。もういいよ。