回想 教官の事情。1
ちょっと教官の過去話入ります
山本沙希と言う人間がこの世を去ったのは彼女が21歳の時だった。
ただの交通事故ーー
何か病気になったとか、人生に絶望していたとか
そんな事はなく、ただその時、その場所にいたと言うだけで脇見運転のタクシーに跳ねられてしまった。
即死だった。たったそれだけのことで、ただ運が悪かったから、彼女はーー私は愛する人の真横で生涯を終えたのだ。
彼と出会ったのは私が高校を卒業して就職した居酒屋での事だった。
たまたま配属された店舗に彼はいた。
私の一つ年上の彼を初めて見たときの印象はとても怖かったと思う。
目は死んでるし、老け顔で30歳くらいに見えるし身長も高かったから私はとてもビビりながら挨拶をした。
正直恋愛対象になんてならなかった。
今まで良いなと思ってきた人とは全然違うタイプだったし、顔もタイプじゃなかったし、怖いし……。
なのに家の方向が同じだったから渋々一緒に帰っていたのだ。
流石に黙ったまま、という訳にもいかないし
無理矢理会話をしながら一緒に帰っていた。
時には『これから友達と飲みに行くんで!』って逃げたりもしたけど。友達なんていないのにね。
そんな感じだったけど、不意に、本当にうっかりなんだけど、わたしの家族の話を彼にした事がある。
多分、どう思われてもどうでもいいやーーって
そんな感じだったと思う。
私には両親がいない。
私が小学校5年生の時に父は病気で亡くなり、それ以降母は衰弱し切ってしまい、後を追うように次の年には亡くなってしまった。
歳の離れた姉に面倒を見てもらいながら高校を卒業して、逃げるように都会へ就職して来たから、わたしに友達なんて居なかったし、話を出来る相手も居なかった。
だからだろう。それから彼には色々な話をしてしまった。
仕事の愚痴だって、今までの人生の事だって。
でも彼はそれを引くこともなく嫌そうにもせずに私の話をちゃんと聴いてくれた。
意味不明なアドバイスは多かったけどーーそれでも私の心は彼に傾いて行った。
妙な安心感を貰っていたと思う。
彼とは自然と付き合うようになって。家も近かったからほぼ同棲状態になって。
毎日彼と一緒に過ごした。不思議とずっと一緒にいても気疲れもしなかったし、心地良さだけを感じていたのだ。
このままずっと一緒にいられる。
彼と結婚して、この先の人生を歩んでいくんだって。
私は信じて疑わなかった、全然手を出して来ないのは不安になったりもしたけど、彼が本心は真面目で誠実な人だと言うのも理解していたから、その不安も心地良かった。
だったのにーー。
ただの休日だった。
あまり出掛けたがる人じゃない彼を私は駄々をこねて外に連れ出した。
たったそれだけの事だったけど
たったそれだけの事で、私の幸せはもう戻る事は無かった。
彼は自分を責めていた
何にも悪くなんてないのにね。
もっと我儘言って引き篭もってれば良かったとか、歩く位置を変えていればとかーー。
明らかに自分が悪くない事でも何か自分にも原因はあるって考える人だったから、しょうがないのかもしれない。
そんな彼を見ていて成仏なんで出来なかった私は
それからずっと彼の事を見続けた。
変わっていく彼を。
私を失って、壊れていく彼を……。
後二話くらいかな?
ちょっとどれくらいで纏まるか分かりませんが我慢してください!すみません!
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