五十話 私達の役目
「提案なんだけど野菜は繁殖力と成長性を抑えた物を出荷すべきだと思うの」
ナナがそんな事を言ってきた。
あの後、馬達を村へ連れて帰り
準備をしっかりしてから出荷しようと決まったので、今は緑馬達の馬車を製作したり、野菜の選別とかして数日経過している。
「なんでそんな事を?」
「だってこの野菜達っておかしいじゃない? 1日で育ちきるし数も増えるし、何より美味しいわ」
「あ、あれか? 街の方でこいつらを栽培されるかも、って事か?」
「そう。そんな事をされたらたまったもんじゃないわ。独占できるなら独占しないと損だもの」
嫌な育ち方をしたものだ。
誰だよ、こんな守銭奴に調教したのは。
しかし大事なことでもあるから言いたい事は非常に納得出来る。
「まぁその意見には概ね賛成だな。 でも大丈夫じゃないか? この異常な成長力は聖魔法で浄化した土地だから起こってるみたいだしな」
「それでも『実』や『種』自体の生命力が尋常じゃないくらい増大してるのよ? 何回かの収穫には普通の土地でも問題ないかもしれないわよ?」
「いや、なんでそんな事知ってるの? 俺も知らなかったんだけど?」
《 私が伝えました 》
またアナタですか……。困りますねぇ、どうして僕には伝えないのでしょう。
「じゃあ『生命力』だけ削ったら大丈夫かな?」
「今回はそれで大丈夫だと思う……でも、今後の事を考えたら今ある品種は、全て生命力と繁殖力は抑えたモノに改造するべきよ」
「まぁ…確かにそうだな。ここまで繁殖しなくても問題ない、か。わかった、後で改造しておくよ」
なんて賢い子供なんだ。30年は生きてるのにおじさんは気にも止めてなかったからな、プライドなんて無くなっちゃうね。ライフはもうゼロよ。
《 人には向き、不向きがあります。生きた年数など関係ないんです。適材適所、得意な人が得意な事を気にしてやれば良いんですよ 》
教官……。慰めてくれるんですね……。
《 店舗の責任者や管理職も経験しておきながら売れる物の価値の大切さとそれを守る事の重要性、流用される影響を考え付かない人もいるものですし、しょうがないかと 》
なんだ、そんなやついるのかよ。
そういえば前世で『半熟卵カツサンド』って言うのを考えて、それを教えたピザ屋の知り合いがバカ売れしてたなぁ……ホント、教えなきゃよかった。
……ん? 教官の話って俺のことか
◆
「……よし!」
品種改良は適当にパパパッとやって終わらせてしまった。
後は緑馬達にドーピングだな。
日課となりそうな聖魔法の注入に行く。
パァァァァ
聖魔法を与えると結構喜ぶんだよねこいつら。
まぁ回復魔法みたいなもんだし、体調も良くなるからな。
しかし異変は起こった。
パァァァァッッ!!!
ファッ!?!?何!?!?
突如、馬達が光り輝き、眩しさから目を閉じてしまう。
そしてゆっくりと目を開けると
そこには白馬達がいた。
いや早くないか!?
ある程度って言ってたけど早すぎだろ!
《 本来存在しない聖魔法によるものですから。それに魔物は霊力の影響を受けやすいので、霊獣化だけなら比較的容易です 》
なんかそれ悪霊に依り代にされやすそうとも言えるな。よく今まであんなもんが発生しなかったもんだ。
《 これまでにもいくつか事例はありましたが、アナタが生まれた辺りからは邪神からの影響力も増しています。闇堕ちする霊体も急増しておりますので、これからは頻繁に起こり得ます 》
前から思ってたけど、邪神からの影響って何があるの? イマイチわからんのだが。
《 単純に言うと人の欲求を活性化させます 》
え? それだけ??
《 欲求とは、進化に必要な要素でもありますが過剰な欲は悪想念に変わります 》
確かにな。欲が無いって事は現状に満足し続けるってことだよな、発展の為には切れない感情か。
だから人間には欲求なんてもんがあるのかね。そいつのせいで相当な命が奪われたのも事実だと思うんだがな。
《 欲求を活性化させると暴走します。物欲、金欲、性欲。成長欲求や自己顕示欲求など、人には40種以上の欲求が存在します。ある程度なら問題ありません。ですが増長した欲求は一定のラインを超えると犯罪行為とも呼べるモノに変わります。それらはいずれ、人の命を奪い合うモノに変わりーー恨み合いの連鎖が生まれます 》
なるほど。邪神の影響って聞いて、もっと直接的な事を想像してたけど……ある意味1番厄介な影響だな。
つまり全人類が敵となり得る訳だ。
それも暴走状態の。
それは……どうにかしなきゃマズいな。
《 その為の我々です。最近は自分の使命も忘れて居られるように見えましたが、重大な事なんですよ。アナタが思っているよりも時間が無いんです 》
そうか……だから教官はあの3人にドーピングとも思える調教をしていたのか。
優秀な手駒を揃えておかないとこれから先が厳しくなる。その為に行動してくれていたのか。
ちょっと意識を変えなきゃいけないな。
黒幕倒してハイ、終わり。とは行かない状況だからな。
……しかしどうするか。
《 あの3人のような者を増やして行き、大勢の人間をコントロールするしかありません。後はアナタの聖魔法を使えば邪神の影響力からのリンクを断ち切ることができます 》
聖魔法に性能詰めすぎじゃない??
《 神の御光ですから 》
それで済まして良いのだろうか……。
だが、目的が定まってしまったな。
とりあえずはこの村を拠点にして、神の調教済みを増やしていくしか無いか。
街との交流も失敗出来ないな。
しっかり準備しておこうーー。
◆
「………君たち? それ、何??」
「今日やっと完成したんだ! 構造を理解するの大変だったんだぞ!」
「ついに完成したわね! これで麦や米の収穫が誰でも楽に出来る様になるわ!」
「後はこれを応用して別なものも作っていけば他の畑仕事も効率よくなるよ!」
そこには……
立派な『コンバイン』があった。
ナンデ!?
《 いずれ一般人もこの村に来るのです。準備は早い方が良いですから 》
いやそれはわかったけど!
なんでコンバインが一番最初なんだよ!
っていうか何で異世界の技術を作れるんだよあいつら!!
《 私が教えました 》
そうですよね。
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