三十八話 貿易をしてみよう
彼等を受け入れてから1週間。
今の所は基本俺が大体の家事なんかしながら
三人の面倒を見ていた。
まぁ『メイド』のスキルのおかげで家事全般は何故か超絶得意になってしまっている。
掃除に洗濯、裁縫も出来るし料理は元々だ。
どれやってても一番効率良く、もっとも綺麗に仕上げられる方法が本能的に分かってしまう。
今は彼女達へ指導をしている。
「ちょっとソフィさん? ここにまだホコリが残っているじゃないの?ほら、ここにもホラホラホラ」
「うっ…ごめんなさい」
「って言うかその喋り方どうにかならないの?…。寒気がするんだけど」
ナナが文句を言っている。
だが断る。今の俺は、嫌な姑メイド長モードなので聞き入れるつもりなどない。
「文句があるなら私よりも綺麗にこなせるようになってから言いなさい。ほら!ソフィ!こんな所にもホコリが!」
「うぅっ……」
軽く涙目である。いかんな、ちょっと虐めすぎた。
「……後で豆パンあげるからもうちょっと頑張ろうな?ソフィ」
「うん!!」
パァァッと笑顔に大変身である。
全く、幼女は最高だな。
「レイダーってソフィにだけなんか甘くない? ソフィも歳下に手懐けられて恥ずかしくないの!?」
「でも豆パンは美味しいよ?お姉ちゃん!」
「なんだ、ナナも欲しかったのか? しょうがない。菜の花の掃除をやってくれたら考えてやろう。二箱分頼んだぞ」
「なんで私は条件厳しいのよ!? しかもくれるとは言ってないし!」
いちいち五月蝿い女だ。お前はジャックとデキてるっぽいから甘やかすわけないだろ?
菜の花の掃除くらいちゃっちゃと終わらせて欲しいもんだ。実は俺の『植物干渉』で一瞬で処理出来るのだが、なんでも魔法に頼るのは良くないからな。
やって、どうぞ。
三人を受け入れてから、俺の心境にも少しばかり変化が訪れている。
1人の時はなんでも魔法とスキルで済ませていたのだが、これから先、こいつらのような子を引き取る事も考えた。
どこにも居場所が無い。ならここを居場所にしてしまおう、と。
そうなってくると、俺がいないと破綻する生活の仕方じゃダメだ。
出来るだけ自分達の力で、そう思っての愛の鞭なのだ。
決してリア充への嫌がらせではない。
◆
「おう!レイダーか!今作業が丁度終わった所だ!」
「おっけー。じゃあ食糧庫に運んでしまおうか」
ジャックとは一緒に畑の管理をしている。
管理と言っても、日々際限なく増え続ける野菜を毎日ひたすら収穫するだけなのだが……。
『植物干渉』を使っても植物自体を大きく動かす事は出来ないからな。結局は人力で回収して運ばなければ行けなかった。
俺1人だと破綻しかけていたから有難い。
ん?俺がいないと破綻すると思ったのにおかしいね?
「でもどうするんだ?食糧庫もパンパンだし、今日収穫した分だけで俺たちだと1ヶ月はいけるんじゃないか?」
そう。消費が全く追いついていないのである。
食い扶持が増えたのに全く減らない。
「どうしたもんかね……」
「収穫しても全然劣化しないからいいけどよ、限界はとっくに超えてないか?」
いや、ホントそう。
大農家の年間生産量並みだぞ、これ。
ん?大農家……
「あっ、そうだ」
「唐突だな、どうした?」
「これ、売りに行こうか。街にでも」
◆
「ではこれより会議を始める。意見はないかね?」
その日の夜、夕食を済ませた後四人で話し合いの場を設けた。
今日のテーマは野菜を売ることについてーー。
と、さっき作った黒板に書いていく。
魔法は出来るだけ使わない?知らんなそんな事。
「はい」
ソフィの手が上がる
「私達は街に入れません」
「それは前に住んでた街の話だロウ?」
「でも、一番近いのはその街だと思うよ?」
マジかよ。あんまりその辺考えてなかったな。
「周辺に他の街は無いのか?」
「ない……と思う。私たちがソフィを連れて街を出てから最初に考えたのは他の、人間の領地へ逃げ出す事だったんだけど、あの辺りには街どころか村さえ無かったもの」
「確かにそうだ。見つけ出せなくて、俺たちは仕方なく魔境の近くにあるここを通って更に北へ行こうとしたんだ」
「えっ、何?ちょっと待って。今魔境って言ったけど何それ?」
「この村の森をもう少し山へと上がった所を総じて魔境と呼んでいるんだ。恐ろしく強い魔物がうじゃうじゃいて危険な場所だって」
俺ってば、そんな所に捨てられたのかってばよ……。
俺が捨てられた話したときに教えてくれよお前ら。
「うっそだろ、おい。ここ、超ヤバイじゃん」
「昔、その森を開拓しようと獣人と人間とで近くに拠点を構えながらそこで生活して、調査も進めていったんだ」
「あれ、その村って絶対ここだよな?」
「多分そうだと思う。だけど、魔境の調査に乗り出して直ぐに冒険者達は全滅して、即撤退になったそうだ」
「冒険者って何?」
「魔物を狩って、素材を売る仕事だな。知らないのか?」
「知らないから聞いてるんだよ……。なるほど、未開の土地に住む魔物の素材に釣られて来たけどってやつか」
「そうだ。ただ、魔境の先にある山には魔物が近寄らない。理由は分からないがな。その向こう側にはもしかしたら人が暮らしているかもしれない」
なんで近寄らないんだろうな。確かに俺が捨てられたのって、多分その山からだしそこに魔物が近寄らないのは本当なんだろう。
《 あの山は聖龍の生息域ですから。それで魔物は近寄らないのかと 》
久しぶりに反応したと思ったら、聖龍って何?
《 生態系の頂点である竜種の霊獣です 》
あ、やっぱり竜とかいるんだ。
聖龍って言うくらいだから、悪い系の魔物じゃないんだろ?
《 基本的に人には無干渉の筈です 》
じゃあ、大丈夫か。
うーん、でも森を抜けるのはキッツイよなぁ……。
「うん、やっぱりお前達のいた街に売りに行こう。俺が一人で売る。ただの人間だったら問題ないだろ?」
「確かに、人間なら大丈夫だと思う。あまり良い顔はされないが、人間が来ることもあったからな」
「じゃあそうしよう。そういえばここから街まではどれくらいかかるんだ?」
「3週間だ」
「……は?」
「俺たちは歩いて3週間かかった。ずっと歩いてた訳じゃないから正確じゃないけど、それくらいかかった筈だ」
よく生きてたな、お前ら……