三十七話 彼等の話2
「つまりソフィが暴走して、身バレする前に三人で街を逃げ出して、逃げた先があの森で、緑狼に襲われたらソフィがまた暴走してみんな死にかけた、と」
しかも三人とも相当な差別をされてきたみたいだな。
強制労働もそうだが、内容も悪い。
虐げられて搾取されて……。そこだけ聞くと現代ブラック社員も良い勝負だな。
しかしこいつらはまだ子供だ。
この時代の文明レベルを考えるとそんな事もあるかと想像はしていたが……反吐が出る。
「そういう事だ。俺たちには帰るところも、守ってくれる人もいない。だから三人で生きて行こうと。ソフィを守る為にも街には居られなかった」
「しかし良く決断したもんだ。街の外がどんな世界が広がっているかもわかっていなかっただろ? 無謀としか言えないが……」
そのまま街で過ごしていても状況が変わる訳じゃ無いだろう。
もしかしたら、偽人を差別する流れを断ち切ってくれる存在が現れるのかもしれないが、そう上手くはいかんだろ。
《 それは難しいかと。獣人は人間に比べると知能が低い種族です。元々動物から人間に転生が決まった魂が、人間に生まれる前に『慣らす』為の器です。動物的な本能が抜けきっていないので、自分達が受け入れられないものは簡単には受け入れません 》
それは人間にも言えるかもな。
差別や偏見をする奴は総じて頭が悪い。
っていうかその説明だと前の世界でも獣人っているべきじゃないの?そんなのいなかったけど??
《 過去には存在しました。ですが現在は人間になり得るような存在は皆転生を終えていますので 》
昔はいたんだ。
もしかして何だけど、教官の話でいくとより獣に近い存在は頭が悪いって事か?
もしかしてこいつらって獣人の中ではレベル高い部類にならないか?外観はほぼ人間だし。
《 恐らくそうでしょう。もしくは本来人間に転生する予定だった魂の可能性があります。この世界の出生率、人口共に高く無いので、転生渋滞の影響で、仕方なく獣人の元へ生まれたのかと 》
転生渋滞ってなんだよ、変な言葉生み出すな!
じゃあこいつら、本当ならまともな人生を送れてたのかもしれないのか。たまたま獣人の元で生まれてしまったから。
……何してんだよ、女神様。
こんな仕組みも、俺に託されたのかもな。
「俺たちは街を出るしかなかったんだ。ソフィがした事は親殺し。血族を殺す事はあの街では重罪だ。知られたらもう、助かる事はない。それにあのまま過ごしていても死んでいるのと一緒だ」
人権はない。抜け出す事も叶わない。
ソフィが起こした騒動に紛れて街を出たと彼は言った。
俺も同じ立場ならそうしたのだろうか。
いや、俺には出来ないな。抗いもせず死を選ぶだろう。 既に一度死んでるしな、俺は。
この子達は生きて足掻く事を選んだ。選ぶ事が出来た。だからこうして生きている。
少しでも何かが違っていれば、俺に発見されるまでに死んでいたかも知れない。誰にも気づかれずに死んでいたかも知れない。街から逃げる前に気付かれてたかも知れない。
でも、この子達は俺の目の前で生きているーー。
どうせ世界を救ってやらなきゃいけないんだ。
助けた以上。最後まで責任を取ろう。
「じゃあ、これからは四人で生きて行こう」
「いい……のか?俺たちがここにいても」
「構わない。俺も一人で生きていて話し相手くらい欲しくなってきてたんだ。食うものにも住む家にも余裕しかない。ここで一緒に暮らさないか?」
《 私では話し相手にならない、と? 》
ちょっとなんで拗ねてんの?今大事な所だから黙ってて。
「…ッ!感謝する……ありがとう」
ジャックは泣きながら何度も何度も頭を下げた。
ナナもソフィも泣いて俺に頭を下げる。
街を出てからも安心できる瞬間なんて無かっただろう。
「そんなに泣くな…。これからはここがお前達の居場所だ。引き続き敬語とかはやめてくれよ?俺が気を使う。一緒に暮らす以上はやる事はみんなで分担しよう、俺もちゃんと働くから。まぁ、これからよろしく頼む」
こうして俺の村に新たな仲間が増えた。
俺の村って言ったけど……まぁ、いいか。原形留めてないしもう俺の村でいいよね。