三十五話 少女の目覚め
暖かい。
目を覚まし、体を起き上がらせると異変に気がつく。
(布団の中?…なんで? さっきまで緑の狼に襲われて……)
彼女の記憶では、こんな所で寝た筈がない。
それどころか、これまでの人生において
布団で寝ることなんて一度もなかった。
(こんなにあったかくて、気持ち良いんだ…)
これはきっと夢なんだと。そう信じてしまうほどに、彼女が感じた心地良さは現実味を伴っていない。
(どうせ夢なんだから、もう少し味わったっていいよね)
もう少し。もう少しだけ覚めないで。
そんな少女の願いとは裏腹に、現実味を帯びた甘美な香りに気がついてしまう。
(何?この匂い?? ……美味しい匂いだ、こんな美味しい匂いがこの世にあるなんて……。うぅっ…お腹空いてきた……)
犯罪的な香りに意識が引き込まれる。
すると知らない少年が香りの向こうから現れた。
「おっ、目が覚めた? と、言っても君だけか。他の2人は君より重傷だったから、しょうがないね。まぁ多少はね?」
!?
(誰この人!?喋り方なんか気持ち悪い…。他の2人って? ッ!?)
「お兄ちゃん!お姉ちゃん!」
「あっ、君の兄弟だったのね。……?? 傷は完全に治ってるし安心して…と言っても、まだ難しいか。とりあえずご飯用意したから君から食べちゃおっか。こっちおいで」
(2人とも生きてる……良かった…。だけどなんなのこの子?私より小さいくせになんか落ち着いてるし。まさかこの子が助けてくれたの?こんなに小さい子が??)
妙に大人びた少年を見て彼女は疑問を隠しきれない。
だが不意に気付いてしまう。
(!? 何、この子魔力量!? こんな魔力量の人街でも見た事ない!? でも、なんだろう。この人の魔力はなんか暖かい)
そして彼女は黙って少年の後ろをついて行く。
何日もまともに食事を取れていなかった身体に嘘はつけなかった。
◆
……超食べるじゃんこいつら。
角少女が目覚めてからリビングに連れてきて、飯を食わせようとした所、他の2人も起きてきてーー。
まぁ最初は超警戒されたんだけど、どうやら食欲には勝てなかったらしい。
テーブルの上に並べた料理を食べるよう勧めたら3人とも無言で食べ始めた。
いや、貪るって感じ?
虎男は良いけど他の2人は女子なんだからもっと行儀良く食べろよ……。
まぁ食事の作法とかも教わらずに育ったんだろう。
箸もスプーンもフォークも用意したのに全員素手で貪ってやがる。
まぁ元気になったんならいいか。
ただホント食い過ぎ!
さっきからずっと追加で作り続けてんだけど!?
よく入るな……ほんと。
◆
「とりあえず三人とも名前とか教えてくれない? 警戒するのは勿論分かるんだけど、俺が作ったもんガツガツ食っておきながら警戒もクソもないでしょ」
三人の食事が終わって落ち着いた頃に俺は尋ねてみる。
ちなみにここまで俺以外誰一人として喋っていない。
いや、あの三人は喋ってたか。俺を省いてコソコソ喋りやがって!泣くぞコラ!
三人はなんか気まずそうにもじもじしていたのだがーー。
「あの……助けてくれてありがとうございました!」
虎男が俺に頭を下げる。
「「ありがとうございました!!」」
「あ、いや、いいよ敬語とか。絶対俺の方が年下だしなんか気まずいからやめて」
「いや、でも助けてもらったのにそんな…」
「じゃあ俺もこのまま敬語使わないで喋るから。それでお相子だ」
「……わかった、ありがとう」
「まぁいいよ。とりあえず俺から名乗った方が早いか、俺はレイダー。この村に住んでる、6歳だ」
「レイダーか。俺はジャック10歳だ」
「私はナナ。同じ10歳よ、助けてもらった事、感謝するわ」
「わ、私はソフィです。8歳です…。あの、ありがとうございました」
うん、情報が足りない。
ナナとジャックか。この2人は変に大人びているな。人の事言えんけど。
まぁ俺は完全に中身はオッサンだから当然か。
ソフィって子は年相応、かな?
まだオドオドしてるし人見知りっぽい。
しっかし三人とも綺麗な顔立ちしてるなぁ……
ジャックは金髪で凛々しさがあるし
ナナは黒髪ショートで将来は美人系になりそうだ。
ソフィは赤髪で……可愛いな(小学生並みの感想)
いかん!俺はロリコンじゃなかった筈なのに…
「とりあえず、そうだな。俺の事から話そうか。何か聞きたいことはあるか?」
自分の事から話しておいた方がいいだろう。
こういう時、自分の事から話すのは割と勇気がいるもんだからな。
「じゃあ、あの…なんで6歳の子供がこんな所に住んでるの? それにさっきの料理も見た事が無いものばかりだし、それからどうやって私達を助けたの?」
ナナが恐る恐る訪ねてくる。
まぁそうなるわな。
「一つずつ話して行こうか。信じてもらえるかわからない話をするから、三人とも、まずは俺の話を静かに聞いておくれよ?」
食後のデザートに桃のゼリーを出しながら
俺はこの世界に生まれてからの事を少しずつゆっくりと話していった。
底辺作家なので
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