三十四話 少女の記憶
生まれてくるんじゃなかった。
何度そう思ったか。いや思わされたのだろうか。
人の体に2本だけ生えた角、人間とも獣人とも呼べない偽りの種族として、獣人達はそれらを偽人と呼び、嘲笑った。
私が生まれたのはそう言う身体だった。
蜥蜴人の両親の間に生まれた私は、喜ばれる事など無かった。
両親は子宝に恵まれず、遅くしてようやく授かったのが偽人。私に兄弟は無く、周囲から嘲笑われ、両親から愛されることもなく過ごした。
いつからだろうか。私は知らない獣人の元で働く事を強制された。
汚物に塗れ、害虫を殺す。人々がやりたがらない汚い仕事が偽人の仕事だった。
それが私の……いや、私達の仕事だった。
そこには私と似たような姿をした人たちがいた。
狼の尻尾だけを持つ人や、腕が翼になった人。
その誰もが人間にもなれず、獣人にもなれなかった半端者。
皆、人生を諦めているようだった。
誰も助けてくれない、味方なんているはずもない。
仕事の時間以外は家に帰れたとしても、そんな所で働き、私の心は壊れていった。
だけどそんな私の前に現れたのがあの二人だった。
虎の耳をもつ少年と、亀の甲羅をもつ少女。
二人の少年少女は私を、家族のように接してくれた。と思う。
本当の家族って、兄弟って、愛されるってこう言う事だと信じて疑わなかった。
でも私は本当の家族に殺されかけた。
偽人しか産むことの出来ない劣等種、子供がほかに産まれないのもお前らに原因がある。
両親への周囲の評価が変わってしまったのだ。
仕事を失い、私同様に迫害をされ、私の親は壊れてしまった。
「お前が産まれてこなければ!!!」
私の本当の家族の最後の言葉だ。
首を締め上げられ、意識が遠のいて行くーー。
やっぱり、産まれてこなきゃよかった。
不思議と涙が止まらなかった。
本当の家族が、こんな人達じゃなく、あの『二人』だったらーー。
会いたい。
二人に会いたい。
三人で生きたいーーッ!
私の中で何かが弾けたーー。
霞む視界、消えかけた意識の最中、私の中に芽生えた僅かな心。
それに応えるように、次に目にしたのは
私の『爪』で貫かれた父親だった。
感情が塗りつぶされる。
『敵』を殺せと。喚き、呻き、私は飲み込まれた。
次に覚えているのは
家と共に炎に包まれた両親の姿だった。
「ソフィ!大丈夫か!」
「ソフィ!しっかりして!」
二人が私に声をかける。
二人に支えられ、私はそこで意識を手放した。
そして私達は三人で、生まれ育った街を捨て
外の世界へ逃げ込んだのだ。